昔からよく耳にする。「キャッチャーに打たせるな。キャッチャーを乗せるな」。阪神の後半戦スタートとなったヤクルトとの2連戦を見て、そんな言葉が頭に浮かんだ。それだけ捕手のリズムアップがチームに与える影響は大きい。梅野隆太郎捕手(32)が2試合連続の2安打。しかも要所で光ったことはプラス材料だろう。
22日は劣勢の7回に適時打を放つと、3点を追う9回1死一、二塁でも右越えの安打。味方の走塁ミスもあって同点や逆転には至らなかったが、明らかにムードが変わった。23日は3回に先頭打者として左翼線への二塁打で同点の起点。7回は無死一塁で犠打を狙ったバントが不規則な回転で内野安打になり、決勝点につながった。
投手の前でバックスピンがかかったラッキーヒット。岡田監督は「スピンかけたんやろ? あいつもゴルフやるから、うまいことスピンかけられるよな」と笑い飛ばしながら「(調子が)上がってる、上がってる。やっと大台(打率2割)に乗りそうやな」。こちらも打率1割9分7厘を冷やかすジョークを込めたが、好調の気配にうれしそうな表情を見せていた。
就任と同時に「正捕手」に指名した梅野は開幕から絶不調。5月前半に0割台まで落ち込んだ。毎日のように早出、居残りで打ち込みを続けていたが、なかなか調子は上がらなかった。負担の大きなポジション。岡田監督の理想は6連戦のうち4試合は正捕手がマスクをかぶることだが、一時は方針を崩した。坂本が攻守にさえていたこともあり、3試合ずつ。ただ、打撃不振そのものには「もともと打たんでええと思っているから、気にしてない」と語っていた。メスを入れたのは「打つ方がリードにもだいぶ影響している」という理由だった。
守りの野球を掲げる指揮官。就任以来、捕手と遊撃手には一貫して守備での貢献を求めてきた。実際、打てないことに不満を示したことはない。だが、「打たんでええ」の基準は「2割ちょっとでいい」。口にしなくても、さすがに苦しかったはずだ。何よりも、打の悩みで本業のリズムを崩しては元も子もない。「あと1本で大台(2割)に乗るんちゃうか?」とノルマが見えてきたことで、攻守に落ち着きが生まれることを願った。
この数日、梅野には色々な出来事があった。まずは思うような活躍ができなかった中、ファン投票でのオールスター出場。「投票していただいたことに本当に感謝していますし、後半戦の戦いも含めた(ファンからの頑張れという)メッセージだとも受け入れながら」と舞台に立った。さらに、決して忘れられない悲しい知らせ。18日に元同僚の横田慎太郎さんが脳腫瘍で死去した。
2013年ドラフト2位の横田さんは、4位の梅野と同期入団だ。「同じ九州出身で担当スカウトが田中秀太さん。共通点も多く、本当に人なつっこくて面白い弟のような後輩でした。『お互い頑張っていこう』と誓い合い、プロ生活がスタート。横田といえば、寮の室内練習場で毎日毎日、打ち込む姿です」。闘病しながら現役を続け、引退後も常に前向きに生きた故人。何度も勇気をもらった仲間に誓った。
「横田の諦めない姿から自分もプロ野球選手として、最後まで諦めずに戦い抜くという思いを強くした。野球ができることへの感謝を忘れず、横田の思いも常に自分の中に持ち続けて現役生活を全うしていきます」
23日に弔いの勝利を届けると「しっかり見ていてくれていると思う。また初勝利と別の形でプレゼントを」と、さらなる奮闘を約束。何か吹っ切れたような表情を見せた。後半を前に、岡田監督は捕手について「そんなん(中心は)梅野やん」と即答しているが、背番号2がその信頼に応えて波に乗られるか。今後の戦いを占う重要な要素だ。
文・安藤理(スポーツ報知)
1986年1月27日生まれ。37歳。愛知県出身。2009年からプロ野球取材に携わり、21年に報知新聞社入社。22年から阪神担当。
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