「育成しながら勝つ」。スワローズをリーグ2連覇に導いた高津監督が目指し、体現してきた野球だ。昨季は、先発から中継ぎに配置転換した木沢をチームトップタイとなる55試合に登板させて、ブルペンを強化。野手では、当時3年目だった長岡を遊撃のレギュラーに抜てきした。2年目捕手の内山も、ベテランの石川と組ませることで経験を積ませ、若い芽を育てた。
球団初のリーグ3連覇を狙う今季は、故障者が相次ぎ、主力も不振で5位に沈んでいる。だからこそ、新たな若手の台頭が求められる。次なる原石候補には3年目・並木秀尊外野手(24)を推したい。
正中堅手でリードオフマンだった塩見が下半身のコンディション不良で5月下旬に離脱した。「1番・中堅」が固定できない中、6月23日の中日戦(バンテリンドーム)で「1番・中堅」を任されると、いきなり3安打をマーク。中堅への三塁打にセーフティバントを含む2つの内野安打。いずれも、手動計測で50メートル5秒32と球界屈指の俊足でチャンスを作った。3度の出塁のうち、2度はホームを踏んで、得点につなげた。
1番打者として最も心がけることは「きれいなヒットじゃなくても、泥臭く、どんな形であれ、とにかく出塁すること」。プロ初の猛打賞から、11試合連続安打を記録し、出塁率はここまで66試合で3割6厘。高津監督は「まだまだ野球を教えないといけない選手の1人」とさらなるレベルアップを求めるが、「人が持っていないものを持っている。自分の特徴を理解して、チームのために生かしてほしい。(相手から)嫌がられる打者になってほしい」と覚醒を期待した。
求められている役割を理解し、「このままではダメだ」と覚悟を決めた出来事があった。5月24日の阪神戦(神宮)、1点リードの9回2死。ノイジーの右翼への打球を追った際に照明とかぶり、落球。これが三塁打となり、最後は佐藤輝に逆転打を許して、チームは逆転負けを喫した。「自分のせいで負けたので、次はこうならないように」と、翌日は昼間の練習から照明をつける“ナイター仕様”で何度も飛球を追いかけた。「照明と打球がもろにかぶるのは初めてだった。地面近くでボールを見たり、ちょっと後ろに引いてみるとか工夫をして、ピッチャーが打ち取った球を確実にアウトにできるように」。たった1つのミスがチームの運命を左右する。野球の怖さを知り、意識を改めた。
厳しいプロの世界。スタンドからは、冷やかしや心ないヤジが飛んできたこともあったという。「最初は落ち込んで、気にしすぎたりしてたけど、試合に出るにつれて、受け流せるようになったというか…いいことだけ聞いて。ポジティブになった」。精神的にも強くなり、悔しさを原動力とした。
今季の打順は「4番・村上」以外は固定できていないのが現状。俊足を持つ並木を1番に固定できれば、チームとしてもプラスになる。1番としてチームで最多の25試合にスタメン起用されていることが期待の表れだ。7月13日にはプロ初アーチが飛び出すなど、猛アピールを続けている。「まだまだ勉強しないといけないことが多いので、レギュラーをとるために、コツコツと頑張っていきたい」。芽を出したリードオフマンが、逆襲劇を図るスワローズの起爆剤となってくれるはずだ。
文・森下 知玲(スポーツ報知)
1995年10月6日生まれ。27歳。福井県出身。2018年に報知新聞社入社。19~21年まで西武担当、22年からヤクルト担当。
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