もう6年以上も前のことだ。天真爛漫でいつも明るい勝みなみが、涙に暮れた試合がある。史上初のアマチュア2勝目を目前に迫りながら夢破れたとき。快挙の前に立ちはだかったのが、申ジエ(韓国)だった。
2016年6月の「ニチレイレディス」。高校3年生で17歳だった勝は、申と並ぶ首位発進を切った。申は14年から大会を2連覇中。大会会場の袖ヶ浦カンツリークラブ新袖コースを大のお得意コースとしていた。
しかし勝は爆発力を持って、元世界ランキング1位の実了者と予選ラウンドで渡り合った。2日目に「67」(パー72)をマークして、1打差をつけ単独首位で最終ラウンドを迎えた。当時、使用していたiPhoneが壊れかけており、上位に入れば両親に『買い替えてもらう』約束をしている。そんな高校生らしいエピソードを記者会見で交えながら、快挙への舞台を整えていた。
運命の最終日は、17歳にとって残酷だった。序盤に3打差とし、勝は期待感を膨らませた。会場の雰囲気は”完全ホーム”。ただ、「優勝って意識すると、身体が動かなかった」と重圧に襲われた。突如ショットが乱れ、バンカーからのアプローチをホームランするなどミスを重ねた。歓声が、落胆の声に変わった。淡々とプレーを続ける申が、みるみる忍び寄ってきた。
獲物を視界にとらえた申は、決して逃さなかった。接戦に持ち込んだ実力者はやはり強い。終わってみれば、勝は3打差をつけられて2位に。前半にプレッシャーから崩れたのも敗因だったが、終盤に競り負けた。ベストアマチュアとして出席した表彰式で「やっぱり優勝を狙っていた」と心情を隠さず目を赤くした。その後コースでは笑顔を取り戻したが、帰りの車内でも涙を流したという。
勝にとっては『絶対に強くなる』と胸に誓った、悔しくてたまらない苦い思い出だっただろう。ただニチレイレディスから数カ月経った後に言っていた、申の言葉を思い出す。「日本の若い選手は、いつか世界のトップレベルで戦えるくらい有能です。だから私が、何かを伝えられたら良いと思っているのです。お手本にならないといけない」
日韓のジュニア育成などにも骨を砕く申は常日頃、日本の若手への期待感を口にしていた。その先頭を走っていた勝の名前を挙げ、将来性を高く評したのは1度や2度ではない。海外メジャーを制し、米ツアーの賞金女王に輝いた申は、試合では常に若手たちの”壁”となって立ちはだかり、背中で経験を伝えてきた。
6年の歳月が流れた。
プロになって順調に勝ち星を重ねてきた勝は、史上3人目になるナショナルオープン連覇という偉業を成し遂げた。競り合いの中で成長を感じさせたのは、難ホールの17番。日頃のトレーニングで飛ばし屋へ変貌したティショットで飛距離を出した。風を読み、距離を合わせた2打目を2mに絡めてバーディを奪い、勝負を決めた。目の前に立ちはだかった、あれだけ高かった”壁”を、今度は力で超えた。
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