【コラム】 「こんにちは、日本」などと言っている場合ではない、極限状態での残留争い。乾、久保、武藤に出番はあるのか ｜ ラ・リーガ

地球という惑星はまるで止まっているかのようだが、実のところ凄まじいスピードで回っている。あの大きな反響があったヘタフェ対エイバルから、もう3年が経つのだから。

あの一戦ではヘタフェに柴崎岳がいて、エイバルに乾貴士がいた。そのためラ・リーガは、日本市場にアピールする絶好の機会だと捉えて、スタジアムのLED看板に「こんにちは、日本」との日本語を映し出す用意をしていた。が、実際に流れてきた文字は上下が逆向きで、急いで180度回転させなくてはならなかった。あれは面白みのある出来事ではあったが、しかし日本人のラ・リーガへの適応、ラ・リーガの日本人への適応の難しさを表しているようでもあった。

柴崎はヘタフェで素晴らしいスタートを切ったものの、負傷をきっかけに一気に停滞。ホセ・ボルダラスは彼の離脱中にシステムを変更して、扉を閉ざしてしまった。そうして今は、レガネスでラ・リーガ1部昇格を果たすべく戦っている。その一方で乾は、いつも雨が降っている工業が盛んな小さな町のクラブ、エイバルで成功をつかみ、1部で戦い続けている。さて、両者が対照的な軌跡を描く中……、久保建英は一体どうなるのだろうか。彼にとってヘタフェは、バルセロナの下部組織に在籍していた過去も含めれば、スペインで5番目に加入したクラブとなった。

久保獲得の裏側で

冬の移籍市場でヘタフェにやって来た久保だが、じつのところ、クラブ内部で彼の獲得については意見が分かれていた。会長のアンヘル・トーレスとスポーツディレクターのマルティン・ゴンサレスは「彼を獲得できるか？」「はい。しかし、本当に起用するのでしょうか？」のようなやり取りをするなど、久保獲得を熱望したボルダラスに懐疑的だったのだった。そしてその疑いが間違っていなかったことは、時間が明らかにしている。日本人との契約は、ボルダラスとクラブ上層部の関係にひびが入る出来事となってしまった。

トーレスは、ボルダラスが久保をレギュラーとすることを信じて、彼の獲得を決断した。というのも、レアル・マドリーの選手を引き入れるというのは、とてもデリケートなことだからだ。もし「コンスタントに起用する」との紳士協定を破ることがあれば、新たな選手を借り入れることが難しくなってしまう。それでもボルダラスは久保の獲得に執着し続け、会長、選手本人を説得してファンに大きな期待を抱かせた。

それから3カ月が過ぎて、マルティン・ゴンサレスとボルダラスはほとんど会話を交わすことがなくなり、トーレスはできる限り良い顔をしながら、チームが1部残留を決める瞬間を禁欲的に待っている。残留を決めた後、ボルダラスとの契約解除に動くために……。久保の現状については、選手本人も所属元のクラブもレンタルで獲得したクラブも、誰も満足していない。約束された、ボルダラスが約束した出場時間は、次元の彼方へ消え去ってしまった。

極限状態での一戦

ラ・リーガも残り4節となったが、久保はどれだけの出場時間をかき集められるのだろうか。フィジカル、肉弾戦重視のフットボールに立ち返ったヘタフェでそれを得られるのは、正直、かなり厳しい。それでもチームが苦しい状況で、そのドリブル突破、プレースキックが助けになる可能性はある。その一方、すでにラ・リーガ1部で成功をつかんだ先輩・乾も、今季に入って出場機会を減らしている。久保、また武藤嘉紀と同様にチームのプランBとして、最初はベンチから試合を眺めることになるだろう。

ラ・リーガ1部で夢のような7年を過ごしたエイバルは、残留圏17位と勝ち点5差で最下位に位置している。残留は奇跡の領域に入ったが、それでも夢から覚めることを全力で拒否するはず。対する15位ヘタフェも降格圏とは勝ち点4差と、崖から転げ落ちる可能性は十分にある。「こんにちは、日本」などと言っている場合ではない、極限状態での一戦。まあ、こうした試合で日本人が活躍するならば、それ以上のマーケティングはないのだが……。

文／ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ、スペイン『アス』紙ヘタフェ番

翻訳＝ 江間慎一郎

1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。 寄稿する媒体は「GOAL」「フットボール批評」「フットボールチャンネル」「スポニチ」「Number」など。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。