【アーセナル対マンチェスター・ユナイテッド展望】チンタラチンタラ進めていれば大けがをする ｜ 粕谷秀樹のNOT忖度 ｜ プレミアリーグ

「明日は我が身か……」

マンチェスター・ユナイテッド のオーレ・グンナー・スールシャール、 アーセナル のミケル・アルテタ両監督は、身に染みているに違いない。

1月25日、 チェルシー のフランク・ランパード監督が、志半ばでその座を追われた。15節以降のプレミアリーグは1勝1分3敗で、18節の レスター 戦でなにもできずに0－2の敗北を喫したことが解任の理由ともいわれている。

メイソン・マウント や タミー・エイブラハム 、 リース・ジェイムズ といった生え抜きの若手を積極的に起用し、チェルシーならではのアイデンティが目覚めようとしていた矢先の非情人事には、スールシャールとアルテタにも思うところがあるだろう。

彼らは、解任の危機を乗り越えたからこそいまがある。あのとき負けていたら、低調なパフォーマンスが続いていたら、他の者に取って代わられていたに違いない。

とくにスールシャールだ。負けたら解任といわれながら、何度もピンチをしのいでいた。 ブルーノ・フェルナンデス に助けられたといって差し支えないものの、その強運は名監督が備え持つ要素でもある。

キープ力と展開力にすぐれた ポール・ポグバ に右サイドのポゼッション向上を託したり、カウンターに備えて マーカス・ラッシュフォードを高めの位置に残したり、「なるほど」とうなずける采配も徐々に冴えてきた。

指揮官はアーセナル戦を苦手に

もちろん、100％支持しているわけではなく、今後も首を傾げ続けるつもりだが、1月27日時点で2位。スールシャールの座はいまのところ安泰だ。

しかし、対ビッグ6に強くない。今シーズンは1勝3分3敗。初勝利は リヴァプール とのFAカップ4回戦で、 フィルジル・ファン・ダイク と ジョーダン・ヘンダーソン を欠くライバルを、圧倒したわけではなかった。

1月30日（日本時間31日2時30分キックオフ）に対戦するアーセナルも要注意である。有利といわれた前回の対戦（11月1日）も、0－1で敗れている。アルテタのチームが苦しみもがいていたにもかかわらず、3ポイントを奪われてしまった。

また、スールシャールはアーセナル戦を苦手にしている。ユナイテッド着任後のデータは1勝1分3敗。勝利を収めたのは一昨シーズンのFAカップ4回戦だけで、リーグ戦ではまだ一度も勝っていない。リーグ戦4試合で1得点・6失点と、実に好ましくないデータだ。

しかも20節のシェフィールド・ユナイテッド戦で、ユナイテッドは満天下に大恥をさらした。試合開始から後半追加タイムまでプレー強度がまったく上がらず、1－2の敗北を喫している。

最下位、それも今シーズン1勝しかしていないチームが相手だったとはいえ、緩すぎるパフォーマンスでも3ポイントを取れるのと考えていたのだとしたら、勝利の女神とは永遠に結ばれない。

積極果敢に仕掛けていた メイソン・グリーンウッド を下げ、スピードダウンの元凶ともいうべき アントニー・マルシャル をフルタイム使った、スールシャールの人選にも超特大の疑問符がついた。

今シーズン最低の出来から中二日

いま、アーセナルの調子は明らかに上向いている。3－4－3から4－2－3－1へのフォーメーション変更が効を奏し、 エミール・スミス・ロウ を軸とする攻撃は非常に心地よい。20歳のMFはポジショニングにすぐれ、相手DF陣のミスを一瞬たりとも見逃さない洞察力にすぐれている。

ルーク・ショー と ハリー・マグァイア はともかく、ユナイテッドの最終ラインはプレスをかけられるとパニックに陥る選手も少なくない。

さらにスミス・ロウがライン間でボールを受けると、 ブカヨ・サカ が裏を狙ったり、 ピエール＝エメリク・オーバメヤン がマーカーを連れてサイドに流れたり、複数のパスコースを創る動きも増えてきた。アルテタの理想にはほど遠いのかもしれないが、一時の不振からは完全に脱出した。

ほんの一週間前までなら、ユナイテッド有利と断言できた。しかし、FAカップを含めたリヴァプールとの連戦で一気にテンションが緩んだのか、シェフィールド・U戦のパフォーマンスは酷すぎた。

今シーズン最低の出来から中二日、ユナイテッドは闘う準備を整えられるだろうか。アーセナルを相手に試合の入り方を間違えれば、チンタラチンタラ進めていれば大けがをする。

文・粕谷秀樹

1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。

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