森保JAPANが直面した新フェーズと覚えた危機感
今回のワールドカップ最終予選を総括する上で、3月29日に行われたベトナム戦は非常に示唆に富むサンプルとなった。
日本代表が今予選で直面した壁、そして逆境からの巻き返し。その内実は、現代フットボールの潮流の速さに追随していけるか否かという現実と深く関係している。
2018年9月に立ち上がった森保ジャパン。直前のロシアW杯で西野JAPANのコーチとして帯同していた森保一監督は、大会を通して感じたさまざまな要素を、新たな大役を担う上で掲げていく。プレー要素では、守備強度が高く、縦に速く攻める強豪各国のスタイルを目の当たりにする。マインド要素では、あのベスト16のベルギー戦で2点のリードがありながら勝ちきれなかった経験から、ピッチ内にいる選手たちの自主性を促すことを強調していった。「強度」と「的確な判断」。端的に言えば、この2つのテーマとなる。
ドイツ語のゲーゲンプレスという言葉が広がって久しいが、森保監督が作る日本代表も強度を押し出し前向きな方向でボールを奪っては、そこから速くゴールに攻めていく形が第一の狙いとなった。活動・準備期間の少ない代表スケジュール。指揮官は記者に聞かれると「速く攻めることはチームとして大事にしているが、もちろん自分たちが主導権を握ってボールを動かすことも必要」と常に口にした。しかし、細かな連係醸成が必要なパスワークを中心にした攻めよりも、守備の基本スタイルを押し出し、その勢いのまま攻め切る形が実際の試合では多く体現されていく。強度不足の日本を強化することは、ロシアからカタールへの課題。森保監督としても、狙い通りのパフォーマンスだっただろう。
ところが、世界の流れはどんどん加速を増していく。縦に速い攻撃が主流だったロシアW杯から間もない時点で、フットボール最前線で戦う各代表、各クラブは柔軟な変化を見せていく。
具体的には、まさに森保監督がいつも理想形として口にしていた、「速く攻めることも、自分たちでボールを動かすことも必要」というそのスタイルが、実現されていった。つまり、相手が息つく暇もないほど強度を高めてボールを奪い、速く攻める“ストーミングプレー”と、敵の動きを見て自分たちの優位な立ち位置を取りボールをつないでいく“ポジショナルプレー”が、対立軸ではなく一つのチームで共存していくフェーズに突入していったのである。
縦に速く攻めるだけでは、90分間のなかで優位には立てない。そんな事実を突き付けられたのが、最終予選初戦のオマーン戦だった。相手にはこの試合に向けて準備、研究する時間が日本より多くあったのは間違いないが、その量的な理由だけではなく、中東の新興国が見せた立ち位置の優位性を生かした攻撃姿勢に、日本は屈した。さらに第3戦、敵地でのサウジアラビア戦も落とし、森保監督はここでチームを構造的に変えなければ時代の流れから置き去りとなる、そしてそれはW杯出場を逃すことにつながるかもしれないという危機感を覚えた。
救世主の出現。守田英正と田中碧が日本を変えた
直後のオーストラリア戦、日本は川崎フロンターレ時代にポジショナルサッカーの概念でプレーしてきた経験のある守田英正と田中碧を抜擢し、システムもそれまでの[4-2-3-1]からポジショナルな概念を最も体現しやすい[4-3-3]にチェンジ。とてもわかりやすい人選と布陣変更で勝利を手繰り寄せたが、その白星はもちろんのこと、ここで指揮官が自らの経験や考え方だけにとらわれずに柔軟にジャッジできたことが、いまとなっては今予選の日本の分水嶺だっただろう。
以降、今回のベトナム戦前まで破竹の6連勝。流れを一変させた。
守田と田中の出現は、救世主といっても過言ではないだろう。彼らの存在により、これまで後方のビルドアップからの攻撃構築を苦手としていた日本が、徐々に姿を変えていった。敵と味方の立ち位置を戦況によって常に見定め、自分たちはその間隙に位置してパスを引き出し、味方に紡いでいく。二人は技術も的確で、日本人MFの中でプレー強度も高い。培ってきたサッカー観や頭脳的な動きに加え、世界の潮流であるハイブリッド型の選手であることもまた、存在感向上を後押しした。
引き分けに終わったベトナム戦。W杯出場を決めた直近のオーストラリア戦から、主将の吉田麻也と山根視来以外9名の先発を入れ替えた。選手たちは前半、吉田が危惧していたとおり「ちぐはぐな動き」を繰り返した。無理もない。即興で連係を構築することは難しい。
それ以上に目立ったのは、論理的に人とボールがつながっていく感覚を持てている選手と、持てていない選手との差だった。前半は中盤のリズムが一定のままで、プレー準備と判断の遅さが気になる場面が散見した。
60分過ぎに守田と田中がセット投入され、この日はアンカーを置かないダブルボランチ起用だったが、実質は守田を後方アンカー気味に、田中がバイタルエリアに侵入していく位置取りでベトナムを押し込んだ。両者はDFからボールを引き出す動きが丁寧で、受けることを怖がらず、中央とサイドをスムーズに連結していく。他の選手が動き過ぎるなか、彼らはその場で止まってボールを受けられるところも顕著で、それは敵に侵されないかつ有効的な立ち位置を事前に見定められている証拠でもある。
相手の疲労も影響したが、日本は二人のプレーを軸に態勢を整えていったのだった。
強度を高め、速く攻める。森保監督がその強化に力を注いできた流れは悪くない。しかし、それだけで戦える時代ではなくなった。厳しいW杯最終予選の最中で、変化の激流に日本は飲み込まれそうになりながらも、その流れに何とかもがいていった。
そしていま、まだ選手の人選ありきではあるが、現代フットボールの潮流をつかむことはできた。もちろん、これで世界を相手に勝てるわけではない。W杯でどんな戦いをするかはまた別の話になるが、久々にサッカーファンをヒヤリとさせた今回の最終予選の内実には、こんなサッカースタイルの変容と、その気づきと選択の重要性が隠されていた。
サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の日本代表担当記者兼、事業開発部統括マネージャー。過去に名古屋、川崎F、FC東京担当を歴任。名古屋担当時代に本田圭佑や吉田麻也を若い時代から取材する機会に恵まれる。その他雑誌『Number』や新聞各紙にも寄稿する。
日本 対 ベトナム|試合日程・配信・放送予定
W杯アジア最終予選では、日本代表のホームは地上波(テレビ朝日)とDAZNが同時に中継・配信を行うが、アウェイではDAZNが独占配信する。
配信内容
開催日 | 試合 | 配信・放送予定 |
DAZN |
---|---|---|---|
3月29日(火) 19:35 | [MD10] 日本 vs ベトナム | DAZN テレビ朝日系 |
実況:下田恒幸 |
関連コンテンツ
配信日 | タイトル | 内容 |
---|---|---|
3月17日(木) | 内田篤人のFOOTBALL TIME #73 | ゲストにJリーグ各試合のスコアを予想する番組「Jリーグ プレビューショー」でMCを務めるサッカー好き芸人、銀シャリの橋本直を迎えてオーストラリア戦を大特集。プレビューショーと同様に様々な角度からオーストラリア戦のスコアを徹底予想する。また右足太ももの負傷から復帰を果たした日本代表キャプテン吉田麻也を独占インタビュー。W杯に懸ける思いを聞く。 |
3月17日(木) | 森保一監督 独占インタビュー (聞き手:戸田和幸) | W杯出場を懸けたアジア最終予選オーストラリア戦、ベトナム戦代表メンバー発表直後の森保一監督にDAZNが単独インタビュー。聞き手は戸田和幸氏。崖っぷちのオーストラリアとAWAYでどのように戦い、勝ち点3をもぎ取りW杯出場を決めるか、指揮官が語る。 |
3月20日(日) | やべっちスタジアム #64 | 16日に発表された日本代表メンバーから運命の一戦となるオーストラリア戦を展望。また過去のW杯アジア最終予選の激闘と歓喜の瞬間を当時の映像とともに振り返る。 |
3月22日(火) | 代表選手 単独インタビュー | シドニーで行われるオーストラリア戦を前に日本代表選手をDAZNが独占インタビュー。 |
3月23日(水) | 森保一監督 オーストラリア戦前日会見 | AFCアジア予選 第9戦オーストラリア戦 森保監督前日会見 |
3月24日(木) | 内田篤人のFOOTBALL TIME #74 | オーストラリア戦当日(夕方配信開始予定)の#74では元日本代表松井大輔(Y.S.C.C)をゲストに迎え、何度も戦ったW杯アジア予選での経験を聞く。対談企画「アツトカケル」は今予選での活躍で日本代表の中心選手となったMF守田英正(サンタ・クララ)。さらに実技企画「プレーヤーズラボ」第2弾には佐藤寿人と影山優佳が登場。全5回にわたり様々なトレーニングを指導します。 |
3月27日(日) | やべっちスタジアム #65 | 24日に行われるオーストラリア戦を、同戦で解説を務める中村憲剛氏が自ら詳しく試合をレビュー。 |
3月28日(月) | 森保一監督 ベトナム戦前日会見 | AFCアジア予選 第10戦ベトナム戦 森保監督前日会見 |
4月3日(日) | やべっちスタジアム #66 | 3月29日に行われるベトナム戦振り返り。また4月1日にカタール・ドーハで行われる予定のW杯カタール大会組み合わせ抽選の内容を詳報。日本が本大会出場を決めていれば、対戦相手についても早速分析。 |
W杯アジア最終予選|試合日程・配信/放送予定
関連記事
DAZNについて
DAZNなら好きなスポーツをいつでも、どこでもライブ中継&見逃し配信!今すぐ下の記事をチェックしよう。