久保建英がヘタフェにやって来たのは間違いだったのかもしれない。
彼が加入したときには大きな期待が生まれたものだが、1カ月半が経過した現在、その期待はクラブ全体が生み出している、より大きな失望に完全に飲み込まれてしまった。
結果を出せないホセ・ボルダラスは、チームが失点を許し続けている理由を久保、さらにはカルラス・アレニャーをレギュラーとして起用し続けたためと結論づけて、彼らをベンチに追いやった。
が、彼らをスタメンから外して以降の3試合も全敗と状況は何ら変わっておらず、失望に失望を重ねている。
終焉近づくヘタフェの"生ける伝説"
「ボルダラスという監督がダメなんだ」。
久保の加入からヘタフェを見ている人々にとって、そう意見を言うのは容易い。しかし彼はアトレティコ・デ・マドリーのディエゴ・シメオネのように、ヘタフェにとっては生ける伝説なのだ。
ボルダラスがここにやって来たのは、私たちがラ・リーガ2部の下位をさまよっていたときだった。それからチームは1部復帰を果たしただけでなく、欧州カップ戦出場を争うところまで躍進を遂げたのである。この4年間、多くの喜びをもたらしてきた彼のことを、ヘタフェの人々がどうして嫌うことができるのだろうか。たとえ、そのアグレシッブな堅守速攻が、ほかのクラブのサポーターから暴力的だと嫌われていたとしても……。
だがフットボールにおいて、価値があるのは今、このときだけ。私たちが過去に生きられないことも、また確かなのだ。
ボルダラスのヘタフェが限界を迎えつつあることは、もう隠し切れない。彼は選手たちから最大限の成果を引き出してきたが、それゆえに消耗も激しいものがあった。そうして現在、監督と選手たちの関係性は、破綻をきたす寸前のところまで達している。
モリーナ、久保そしてアレニャー
きっかけは昨夏、チームの主将を務めていたホルヘ・モリーナが契約を解消して、グラナダへと移籍したことだった。モリーナの退団は前線の柱を失うだけでなく、ボルダラスと選手たちをつなぐ役割を請け負う選手を失うことも意味していた。
シメオネは「私の選手たちは死ねと言ったらピッチで死ねる。フットボール的な意味でね」と語っていたことがあったが、ボルダラスが「死ね」と言ってピッチ上で死ねる選手たちは、ヘタフェにはもういない。むしろボルダラスの厳し過ぎる要求と、その要求に応えても結果が出ないことに嫌気が差して、彼が視界から消えることを望んでいる選手も少なくない。
ボルダラスと選手たちの間だけでなく、クラブの上層部とボルダラスの間にも軋轢は生まれている。
会長アンヘル・トーレスが、0-1で敗れた前試合のベティス戦後にボルダラスを解任しなかった理由は、彼がいまだサポーターから英雄視されていることと、契約を解除すれば300万ユーロという大金を支払う必要があるためだった。
トーレスとボルダラスの関係が悪化した理由の一つに挙げられるのは、冬の移籍市場での久保とアレニャーの獲得だ。トーレスはボルダラスから2選手の獲得を執拗に迫られ、厳しい交渉の末に願いを叶えた。が、前述のように、ボルダラスはそれで結果を出せなかったばかりか、彼らが不必要だったと言わんばかりにベンチに座らせることを決めた。
運命のバレンシア戦
27日に行われるラ・リーガ第25節、本拠地コリセウム・アルフォンソ・ペレスでのバレンシア戦で、もしチームが再び敗戦すればボルダラスが生き延びるのは難しいだろう。トーレスはすでに、12年前にもヘタフェを率いて成功へと導いたレアル・マドリーのレジェンド、ミチェルとコンタクトを取っている。つまりカウントダウンは、「1」まで数えられているということだ。
ミチェルは攻撃的フットボールを好み、サイドにはフィジカルよりも技術に優れた選手を優先して配置する。もし彼がやって来るのならば、久保にとっては新たなチャンスなのかもしれない。もちろん、守備面における貢献が低いなど、19歳の日本人にはまだ課題がある。だがビルドアップが大雑把で、足元にボールを届けるフットボールを実践していない現在のヘタフェでは、攻撃においても守備の問題に目をつぶれるほどの成果も挙げられないでいる。
欧州のフットボール界では、頭までかければ足が出て、足までかければ頭が出る「丈の短い毛布」という言い回しがよく使われるが、現在の久保は守備も攻撃も中途半端で、頭も足も出てしまっていると言えるだろう。ボルダラスでもミチェルでも、ヘタフェが久保を生かそうとするならば、チームとしてもう少し丁寧に攻撃を仕掛け、少なくとも足を冷やさないようにしなければならない。
兎にも角にも、ボルダラスの進退をかけた運命のバレンシア戦が、まもなくキックオフを迎える。
一つだけ言えるのは、ヘタフェのサポーターにとってボルダラスとの別れは、決して手放しで喜べるような出来事ではないということ。それはあまりにも大きな痛みを伴う、辛い、とても辛い別れだ。しかし、フットボールは今、このときだけのものであり、甘い過去にとらわれていても何の意味もない。
未来が約束されていると言われてきた久保が、今、必死に足掻かなければならないように、すべては結果次第なのだから。
文/ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ、スペイン『アス』紙ヘタフェ番
翻訳= 江間慎一郎
1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。 寄稿する媒体は「GOAL」「フットボール批評」「フットボールチャンネル」「スポニチ」「Number」など。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。
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