【コラム】もし久保が残留を導くゴールを決めたとしたならば、それだけでクラブとサポーターの記憶に、英雄として刻まれることになるはずだ ｜ ラ・リーガ

ヘタフェは誰もが塞ぎ込みたくなるような状況に陥ってしまった。チームはこれから1週間、ラ・リーガ1部残留を目指して戦うことになる。どうして、こんなことになってしまったのだろうか。

クラブ内外で敵を作るボルダラス

1年前に欧州でも注目を浴びたヘタフェは、もはや見る影もない。そして、そのときには称賛を浴びていたホセ・ボルダラス監督はクラブ内でも敵となってしまった。その背景には今季途中、クラブが約半分の選手たちと契約延長交渉を行ったことがある。新型コロナウイルスのパンデミック禍で、延長オファーの内容は慎ましいものにならざるを得なかったが、ハイメ・マタなどがそれを受け入れた一方で、アンヘル・ロドリゲスら一部の選手たちは拒絶した。

それからボルダラスは、あらゆるところに敵が潜んでいると感じるようになり、逆に疑わしいと思う人物たちを自らの敵としてしまった。今季終わりに出ていく選手たちは、すでに団結する心を失っているとみなして、以前のように信頼を寄せることがなくなったのだ。そして信頼を寄せなくなった選手たちの起用を求める私たち報道陣も、彼にとっての敵となった。

ボルダラスは外部へ向けた扉を閉ざして、自分と、自分が信頼を置く選手たちだけで、すべてに立ち向かおうとした。チームが一つの方向を向かなければ、失敗は目に見えているというのに。

私はこれまで、自分の家のようにヘタフェの練習場で動き回ってきた。だから現在起こっていることには悲しみを感じている。ヘタフェはもうインタビューを許可せず、招集メンバーも伝えず、チームに近づく真似を一切許さない。もはや、すべてがトップシークレットとなったのだ。そのために今、久保建英がどんな調子なのかを知ることも難しい。クラブ内部の人間から聞く話によれば、新鮮な空気と若さをチームに持ち込んだこの日本人は、非の打ちどころがないほど懸命に練習に取り組んでいるものの、笑顔を失ってしまったという。

久保は今季限り、あと1週間足らずでヘタフェを去り、レアル・マドリーに復帰することになる。ボルダラスは、彼の団結心を信じ切ってはいないだろう。それは間もなくバルセロナに復帰するカルラス・アレニャーについても同じこと。レンタルで加わった彼らは、ボルダラスが残留を果たすためのプランに含まれてはいない。……どちらが先に裏切ったのかは、ともかくとして。

久保が英雄になる可能性は残されている

そのために16日のラ・リーガ第37節、本拠地コリセウム・アルフォンソ・ペレスでのレバンテ戦、ボルダラスは来季もチームにとどまる選手たちを先発で起用するだろう。第37節は一斉開催となり、ヘタフェ対レバンテはラジオを聞きながら見るべき一戦となる。16位ヘタフェはこの試合で勝利すれば、勝ち点3差の降格圏18位バジャドリーが負ければ、またはすべてがその逆になれば……と、あらゆる状況に左右されて残留と降格が決まることになる。

そして、ボルダラスがいかに先発を固定させようとも、あまりにも過密な日程をこなしてきた今季だからこそ、信頼していない選手たちにも途中から出場機会を与えるはず。アンヘルのチップキック、アレニャーのミドル、フランシスコ・ポルティージョのボール頭の上に浮かせる突破、または久保のフリーキックが大きな武器となり、チームを残留に導く可能性もある。

たとえ残留を達成しようとも、これまでに起こってきたすべてを水に流すのは難しい。しかしサプライズこそがフットボール最大の魅力であるのも、また確かだ。もし久保が残留を導くゴールを決めたとしたならば、それだけでクラブとサポーターの記憶に、英雄として刻まれることになるはずだ。

文／ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ、スペイン『アス』紙ヘタフェ番

翻訳＝ 江間慎一郎

1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。 寄稿する媒体は「GOAL」「フットボール批評」「フットボールチャンネル」「スポニチ」「Number」など。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。