見過ごしてはいけない、完敗
80分を過ぎてもスコアレスが続き、日本からゴールの香りが一向に漂ってこない試合展開。いよいよ引き分け決着も現実味を帯びてきたその段階で、頭の中にはこんな文言が浮かんでいた。
「限りなく負けに等しい、ドロー」
数分後、その見立ての甘さを中東からやってきたコレクティブ集団に突きつけられた。88分、オマーンが日本の左サイドを完全に切り裂き、最後はクロスからゴール前での絶妙な動き出しで日本の守備陣を欺き、奪ったゴール。それは完璧な一撃だった。
完敗。その一言以外の何物でもなかった。相手のラッキーパンチを食らった末の結果ではなく、ホームの地ではっきりと局面のプレーで敵に上回られてしまった。いみじくも主将の吉田麻也が、試合後に放った一言がすべてを言い当てている。
「負けるべくして、負けた」
試合直後の感想として咄嗟に出た言葉だったかもしれないが、日本代表にとってとても重たい現実に直面したことを意味する、聞き捨ててはいけないものでもあった。
コンディション不良。それだけが敗因ではない
5年前の2016年9月1日、日本はロシアW杯アジア最終予選初戦をホームで迎え、UAEに1-2の逆転負けを喫した。まるで同じような過ちを今回も繰り返したかに思えるが、その実情は異なる。残念ながら、今回のオマーン戦敗北のほうが、事態はより深刻だ。
UAE戦を少しプレイバックする。前半早々に日本は清武弘嗣のFKから本田圭佑のヘディングシュートで幸先よく先制を果たした。しかし、すぐに自陣で与えた直接FKを決められ、相手にワンチャンスをモノにされる。そして後半、今度はPKを献上しこれを決められると、その後は攻めに攻めるも終始守勢を貫いたUAEを打ち破れなかった。
当時のUAEは、約2ヶ月間の長期合宿を経て日本戦に臨んできた。奇しくもオマーンもここまで約1ヶ月間、セルビアで合宿をした後に来日。対する日本は5年前も今回も、数日前に集まっては急ごしらえでチームを形成し、いざ試合へ。これはいまや海外組が大勢を占める選手構成の日本にとっては、チーム作りの時間の差は埋められないのが現実だ。むしろ現代サッカーのカレンダーからすると、月単位の合宿ができるオマーンの行動が“異例”である。
実際に今回のオマーン戦を振り返っても、まず日本の選手たちの動きの重たさは顕著だった。さらにチーム全体でも組織として基準となるプレー判断が連続したオマーンに対して、日本は各選手の連係はアドリブ的、即席感のあるプレーが散見された。
この部分、前者のコンディション面だけを敗因にしてしまうのが最も危険だ。明確な基準を持って組織的に振る舞ったオマーンと、そうでなかった日本。この違いこそが、今回の試合最大の着目ポイントと言える。
オマーンは、しっかり“サッカー”をやってきた
5年前はUAEにセットプレー2発で敗れた。確かに相手は鋭いカウンターを準備していたが、90分間を見れば日本は引いた相手を崩しきれないアジア予選お決まりの展開だった。多くのアジア勢はこれまで日本に対し、互角に渡り合うことは避けて、守備を固めては試合を壊しにいくスタンスが主流だった。
ただ、今回のオマーンは違った。彼らはしっかりサッカーをやってきた。日本の対策をしつつも、[4-3-1-2]という2次予選からベースにしてきた布陣を採用し、あくまで試合の主導権争いに挑んだ。日本の攻撃の流れを見てハイプレスとブロック守備を使い分け、特に3枚のボランチを中心にしっかり日本の中央エリアの空間を消し、大迫勇也と鎌田大地の2人のキーマンを封殺してみせた。
攻撃に転じれば、前に並ぶ2トップが常に日本のDFライン、特にCB二人にストレスを与え、攻め上がる中盤の選手たちと流動的に絡んでいく。日本は相変わらず相手と数的ミスマッチが起きる局面の対応が拙く、前からの守備が空転するとそのまま敵の攻撃を自陣にまで受けてしまっていた。
狙いが設計されたプレーを攻守で実践したオマーン。計算された選手の立ち位置の優位性を押し出す“ポジショナルプレー”に代表される、欧州発の論理的なチームビルディングは、ここ数年で急速に世界中に広まりを見せる。いよいよアジアでも、最終予選に進出するチームはそれを実装するレベルにまで来ていることを、彼らは実証したのだった。
問われる“ゲームチェンジャー”の資質
強豪国は代表強化の時間が限られ、ある程度個人の力に依存するチーム作りをすることも現実策だ。とはいえアイディア豊富に戦ってくる相手には、やはりこちらも最低限の工夫は不可欠。負けたことで批判にさらされる森保一監督だが、この試合で一番残念だったのはその最低限が見られなかったことだった。
交代策が象徴的だった。古橋亨梧に替えて原口元気、伊東純也に替えて堂安律、鎌田に替えて久保建英と、同じ布陣、ポジションを維持したまま特徴の違う選手を入れたに過ぎなかった。60分、70分、75分…と後半の拮抗する時間帯では、残り時間を考え「変化のスイッチ」を入れる采配があっていい。例えば新天地・セルティックではFWとして結果を出す古橋をトップに、大迫を少し下がり目にした2トップ気味にして、より相手を仕留めに行く力強さを押し出す手はなかったか。中央を堅く閉じてくるオマーンの守備陣形に対し、足元経由の攻撃となってしまっていたなか、唯一裏への飛び出しで有効な矢になっていた伊東を早々に替えたことは得策だったのか。
アジアのなかでは個のタレントを擁する日本。彼らをピッチに配置する指揮官が優れたゲームチェンジャーであれば、敵のアイディアを凌駕できるのも代表戦である。こうした采配力を駆使することはチーム作りに時間がない環境であればあるほど、勝利するためには必須となる。言い換えれば、論理的な戦術を組み立て、浸透させる時間がなくても、せめて交代策や試合を動かす視点は論理的でなければならない。いま、森保監督が問われているのは、まさにこの部分だと言える。
試合終了から数時間後、日本代表は深夜便で次なる戦いの場、カタールへと飛び立った。2戦目の相手・中国はオーストラリアとの初戦を落としたが、場所を変えることなくドーハで日本を迎え撃つ。そして彼らも約2週間、準備期間を設けてきたという。
たかが1敗、されど重たい敗戦。もはや、“なんとなく”では勝てないアジア。森保ジャパンはいきなり冷や水を浴びせられることになった。
文・エル・ゴラッソ日本代表担当 西川結城
サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の日本代表担当記者兼、事業開発部統括マネージャー。過去に名古屋、川崎F、FC東京担当を歴任。名古屋担当時代に本田圭佑や吉田麻也を若い時代から取材する機会に恵まれる。その他雑誌『Number』や新聞各紙にも寄稿する。
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日本代表のホームでは、地上波(テレビ朝日)とDAZNが同時に中継・配信を行うが、アウェイではDAZNが独占配信。なお、DAZNでは2チャンネル同時ライブ配信が行われる。
2021年9月7日(火)中国 vs 日本
メインチャンネルの解説を中村憲剛氏、ゲストには再び岡田武史氏が登場。
裏チャンネルでは『やべっちスタジアム』でメインパーソナリティを務める矢部浩之氏(ナインティナイン)、『内田篤人の FOOTBALL TIME』でMCを務める内田篤人氏のコンビによる『やべっち・内田の裏チャンネル』が配信される。
開催日 | 試合 | 配信・放送予定 | |
---|---|---|---|
MD1 | 2021年9月2日(木) | 日本 vs オマーン | DAZN テレビ朝日 |
MD2 | 2021年9月7日(火) | 中国 vs 日本 | DAZN |
MD3 | 2021年10月7日(木) | サウジアラビア vs 日本 | DAZN |
MD4 | 2021年10月12日(火) | 日本 vs オーストラリア | DAZN テレビ朝日 |
MD5 | 2021年11月11日(木) | ベトナム vs 日本 | DAZN |
MD6 | 2021年11月16日(火) | オマーン vs 日本 | DAZN |
MD7 | 2022年1月27日(木) | 日本 vs 中国 | DAZN テレビ朝日 |
MD8 | 2022年2月1日(火) | 日本 vs サウジアラビア | DAZN テレビ朝日 |
MD9 | 2022年3月24日(木) | オーストラリア vs 日本 | DAZN |
MD10 | 2022年3月29日(火) | 日本 vs ベトナム | DAZN テレビ朝日 |
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