リオをしのぐイングランド人CBは現れず
イングランドの歴代ベスト11を思い描いたとき、GKとCBは難しくない。
GKはゴードン・バンクス、ピーター・シルトン、レイ・クレメンス。この3人のなかから選んでおけば、そこそこ決着する。
CBもリオ・ファーディナンド……。嗚呼、なんて素晴らしい選手だろうか。 ウェストハム の下部組織で育ち、その後 リーズ → マンチェスター・ユナイテッド に移籍。巧みな一対一、的確なカバーリング、正確なフィードなど、近代CBのロールモデルといって差し支えない名手だった。
リオの前にリオはなく、リオの後にもリオはなし──。彼をしのぐイングランド人のCBは現れていない。
1966年に地元開催したワールドカップでキャプテンを務めたボビー・ムーアは、守備のオーソリティ(権威)だ。ビルドアップの貢献が求められていない当時のCBである。
90年のイタリア・ワールドカップでベスト4に貢献したマーク・ライトも、やはり守りに重きを置いていた。最後尾から精度の高いフィードを配したシーンは記憶にない。
また、テリー・ブッチャーやトニー・アダムズ、ジョン・テリーはスピードに欠け、ソル・キャンベルはキックが雑だった。
現役のイングランド代表である ハリー・マグァイア (ユナイテッド)はなにかと鈍い。ジョン・ストーンズ( マンチェスター・シティ )はスランプの波に飲まれたままで、 ジョー・ゴメス ( リヴァプール )はケガに脆い、脆すぎる。
「リオのようなセンターバックがいればなぁ……」
イングランド代表のガレス・サウスゲイト監督も嘆いているに違いない。
多くのクラブが外国人に依存している
今夏の移籍市場ではシティがポルトガル代表のルベン・ディアスを、 アーセナル がブラジルU-23代表のガブリエウを補強し、ユナイテッドのオーレ・グンナー・スールシャール監督はフランス代表の ダニ・ウパメカノ 獲得を熱望していた。
彼らの補強リストにイングランド人CBは見当たらず、その名前が記されていたとしても、優先順位は高くなかったということなのだろう。
ちなみにビッグ6で定位置を完全に確保しているイングランド人CBは、マグァイアとゴメスだけだ。アーセナルに至っては、主戦級すべてが外国籍である。
イングランド人の若手を重宝する チェルシー ですらブラジル人の チアゴ・シウヴァ を獲得し、下部組織出身のフィカヨ・トモリは序列を大きく下げている。
1997年から始まった国を挙げての育成改革により、イングランドは多くのタレントが芽吹きつつある。2017年にはU-20とU-19、U-17が世界を制した。
マーカス・ラッシュフォード 、 メイソン・グリーンウッド (ともにユナイテッド)、 メイソン・マウント (チェルシー)、 フィル・フォーデン (シティ)など、19~22歳の若者たちはいずれ劣らぬスーパースター候補生だ。
トレント=アレクサンダー・アーノルド (リヴァプール)と ベン・チルウェル (チェルシー)の両サイドバックも、近い将来にワールドクラスの称号を得るだろう。
しかし、CBだけはなぜか伸び悩み、多くのクラブが外国人に依存している。世界中が人材難に喘ぐポジションとはいえ、イングランドは度が過ぎはしないだろうか。
例えばフランスは前述したウパメカノに加え、 ラファエル・ヴァラン ( レアル・マドリード )、 プレスネル・キンペンベ ( パリ・サンジェルマン )、 クレマン・ラングレ ( バルセロナ )、 アイメリク・ラポルト (シティ)といった一流を数多く揃えている。
ゴッドフレイやホワイトはまだまだ時間が…
サイドバックもこなせる バンジャマン・パヴァール や リュカ・エルナンデス (ともに バイエルン・ミュンヘン )も含め、実に豪華な顔ぶれだ。
空中戦と一対一の強さ、巧みなシュートブロックで守備に貢献し、攻撃では精度の高いロングフィード、数的優位を導くポジショナルプレー、なおかつチーム全体に前進を促すドリブルなど、近代フットボールのCBに求められる要素を彼らは備えている。マグァイアとゴメス、ストーンズは欠けている要素が少なくない。
また、ビッグクラブが獲得を目論む次世代のCBも、トルコ代表のオザン・カバク(シャルケ)、スペイン代表の パウ・トーレス ( ビジャレアル )、フランスU-21代表のジュール・クンデ( セビージャ )などで、イングランド人の名前は見当たらない。
98年生まれのベン・ゴッドフレイ( エヴァートン )や97年生まれの ベン・ホワイト ( ブライトン )は有望株といわれているが、ビッグクラブが興味を持つまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。
これが哀しい実状だ。ラッシュフォードをはじめとする攻撃側の選手がなぜ急成長し、CBは人材難なのか。育成法をイングランド全体で考え直し、例えばフランスから学ぶものがあるのなら、多くを採り入れるべきだ。
リオを懐かしんでばかりもいられない──。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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