数日前、バルセロナのある若手選手と話をしていると、彼の口からこんな言葉が飛び出した。
「チャビは神様だよ」 そう考えているのは彼だけではない。年齢が若ければ若いほど、チャビ・エルナンデスは本当に存在したか定かではないほどの伝説であり、憧れの人物なのだ。彼のバルサ帰還に不満を持つ選手など、ただの一人もいない。「もちろん、現時点では、ということになるだろうけれどね。試合をこなしていけば、出場機会に恵まれない選手たちから、やはり不満は出てくるだろう」、ロッカールームの住人たちはそう説明する。
今のバルサは、“エフェクト・チャビ(チャビ効果)”が完全にかかった状態にある。チームは変化を必要としていたし、チャビ以上に士気を上げられる指揮官は存在しなかった。選手たちはもうロナルド・クーマンのプレーアイデアを信じていなかったし、クーマンと会長ジョアン・ラポルタの対立もロッカールームに暗い影を落としていたのだから。そこでチャビが戻ってきて、皆の瞳に火をつけたのだった。
「彼は僕のことを理解していて、どこまで貢献できるかも分かっている。だから彼が期待している通りの成果を収めなくちゃならない。そうでなければ、彼を裏切っているという感覚に陥ってしまうだろう」、チャビの元チームメートでもあるジェラール・ピケは語った。またチャビのことを「神」と崇める若手選手たちは、その一挙手一投足に注目している。「練習を覗いてくれれば分かるよ。彼が一体何を説明するのか、何を伝えてくれるのかに、僕たちは興味津々なんだ。彼はとても近い距離感で話してくれる。チームにとって大きな助けとなるだろう」、今季バルサのトップチームで明るい未来を感じさせている19歳ニコ・ゴンサレスが説明した。
現在のバルサはフットボール的なクオリティーも徐々に改善されつつあるが、何よりも選手たちが一枚岩になっていることが強調される。チームの団結、ポジティブシンキングを取り戻すことは自然に生じている効果ではなく、新指揮官が狙ったものだった。彼のコーチングスタッフによれば、最初の数週間で最も大切にしなければならない仕事は戦術面より心理面であるという。チャビは選手たちと頻繁にコミュニケーションを取りながら、自信を取り戻させようとしている。練習中はもちろん、終了後も個別に話し合って。そうすることで選手の一人ひとりが、自分が大切な存在なのだと感じることができる。チャビは各選手がそれぞれの役割から、チームにしっかりと貢献することを求めているわけだ。
選手たちが自信を持ち、士気を上げているバルセロナは、ラ・リーガ第15節ビジャレアル(3-1)で今季初のアウェー戦勝利&初の2連勝を果たした。まだ戦術が浸透しておらず、内容的にはビジャレアルに圧倒される時間帯が多かったものの、それでもチームには勝ち点3を手繰り寄せる精神力が備わっている。その試合でのチャビの様子はというと、テクニカルエリア内に立ち続け、プレーの細部に気を配り、その“重苦しい”性格を見せていた。
チャビは右ウィングの19歳アブデの首筋に「彼に向かって行け、アブデ! 立ち向かうんだ!」との叫び声をぶつけ、ぺドラサとの1対1の勝負に挑ませ続けた。アブデはガソリンが切れるまでビジャレアルの左SBに立ち向かい続け、彼に望まぬダンスを踊らせた(その後オーバーラップしてくるペドラサに逆に踊らされることにもなったが)。また88分、メンフィス・デパイがロングフィードから2-1とするゴールを決めた直後、チャビはまず相手ゴールから自ゴールに向く方向を変えて、フィードを送ったマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンを祝福。試合前にチームに勇敢さを求めていた指揮官は、ビジャレアルの圧迫するようなプレスに対して、狙い定めてボールを蹴った守護神を称えたのだった。
そしてこのメンフィスのゴール後、ピケがテレビカメラなど気にすることなくチームメートに檄を飛ばしていたのは、チャビ・バルサの活力を象徴する場面だった。
「いいか? かつてないほど頭を使え! 時間を使うんだ! ファウルではすべて転がれ! この勝ち点3は絶対に逃せないんだぞ!」
今、クレ(バルセロナサポーターの愛称)はチャビが戻ってきた喜びを噛み締めている。チャビが戻ってきて、必死に闘うチームに心を震わせている。だがチャビの、そのフットボール人生の中でも最も巨大かもしれない挑戦は、まだ始まったばかりだ。41歳の若き指揮官はジョアン・ガンペール練習場で12時間以上も缶詰となって、あらゆることに目を光らせている。練習はもちろんのこと理学療法士、医療スタッフ、栄養士の仕事もすべて管理下に置きながら……。神と呼ばれる男は、神が細部に宿ることを知っている。
文=フェラン・マルティネス/Ferran Martinez(スペイン『ムンド・デポルティボ』紙)
翻訳/ 江間慎一郎(Shinichiro Ema)
1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。
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