王者のDFラインは壊滅状態に近い
火の車である──。
フィルジル・ファン・ダイク 、 ジョー・ゴメス 、 トレント・アレクサンダー=アーノルド 、 アレックス・オクスレイド=チェンバレン 、 モハメド・サラー ……。実に6名もの選手が負傷、または新型コロナウイルスの陽性反応により、週末のレスター戦(日本時間23日4時15分キックオフ)には出場できない。
また、 ジョーダン・ヘンダーソン と アンディー・ロバートソン の筋肉系トラブルが報じられ、ネコ・ウィリアムズは腰の張りを訴えた。キャプテンと不動の左サイドバック、新進気鋭のセンターバックまでもが戦列を離れるというのか。
リヴァプール はユルゲン・クロップ監督就任以来、最大の危機を迎えている。 サディオ・マネ と ジョルジニオ・ワイナルドゥム が好調を維持し、 ディオゴ・ジョタ がオフ・ザ・ボールにおける秀逸の動きで大きな戦力になることを証明したとはいえ、DFラインは壊滅状態に近い。
レスター戦は右からリース・ウィリアムズ、ジョエル・マティップ、ジェイムズ・ミルナー、コスタス・ツィミカスだろうか。あるいはワイナルドゥムをDFラインの、 南野拓実 を中盤のスターターに起用するのだろうか。
現地時間木曜日の全体練習に ファビーニョ の姿が確認されてはいる。しかし、ハムストリングの負傷から回復途上だ。
ポジティブ・シンキングのクロップも、最終ラインの人選には頭をかきむしっているはずだ。
功を奏した堅守速攻への方向転換
一方、レスターも守備面に不安を抱えている。
内転筋を痛めたチャーラル・ソユンジュはボクシング・デー(12月26日)前後まで、膝を出術した ウィルフレッド・エンディディ は来年1月初旬まで欠場する見込みだ。
膝の負傷(前十字靭帯損傷)で3月中旬から戦列を離れていた リカルド・ペレイラ が、リヴァプール戦から復帰との情報もつかんだが、いきなりフィットする確率は限りなく低い。
ただ、ブレダン・ロジャーズ監督のニュープランがいまのところ功を奏している。
レギュラーCBのソユンジュ、ワールドクラスのアンカーであるエンディディを欠いたため、基本陣形を4-1-4-1から5-4-1に変更した。ボールポゼッションを主体とする従来のスタイルを捨て、低く構えてからの堅守速攻に方向転換を図ったのである。
この変身により、マンチェスター・シティに5-2(3節)、アーセナルに1-0(6節)、リーズに4-1(7節)と、一応の成果を上げている。
当然、リヴァプール戦でも自陣に罠を張るだろう。5+4のブロックに誘い込み、身体を投げ出してブロックする。もしくは戦術的ファウルで止める。
赤いユニフォームが苛立つ。テクニカルエリアでクロップが激昂する。全体が前がかりになっていく……。
レスターの思うツボだ。高すぎる最終ラインの背後に ジェイミー・ヴァーディ が、ジェイムズ・ジャスティンが、さらにはジェンギズ・ウンデルが次々と進入していく。
そして ジェイムズ・マディソン のパスが相手DFラインをあざ笑う。近ごろ頻繁にみられるレスターの崩しだ。
ボールを後方からつなげられるソユンジュ、アンカーとしては世界の第一人者であるエンディディの長期欠場でポゼッションを封印したが、優勝した5シーズン前を上回る破壊力を秘めたカウンターで、いまレスターは首位に立っている。
数多くの事象がレスター有利を示唆
ファン・ダイク不在のリヴァプールDF陣は、ライン設定に大きすぎる疑問符がつく。オフサイドをとれずに慌てて追走。GK アリソン がレスターFWと1対1、1対2という危険な状況を数多く招きかねない。
また、マネとジョタ、南野、 ロベルト・フィルミーノ のプレス能力も、低く構える相手を崩し切るのは至難の業だ。GKカスパー・シュマイケル、DFジョニー・エヴァンズ、クリスティアン・フックスを軸とするレスター守備陣は、耐性も十分に備えているからだ。
数多くの事象がレスター有利を示唆している。
ディフェンディング・チャンピオンの底力を認め、敬意も表するものの、現状は厳しすぎるし、苦しすぎる。
DFラインが火の車なのだから、何点取っても安全圏とはいえない。それでもクロップ監督は籠城を選択せず、前方からのプレスを主眼とするのだろうか。
4節のアストンヴィラ戦のような展開、そう、大量失点のリスクがはらんできた。
文・粕谷秀樹1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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