王者マンチェスター・シティか、浮上のきっかけを模索するアーセナルか。対照的な状況にある両クラブが激突する注目の一戦が28日(日本時間20:30)に行われる。開幕戦でトッテナムに破れたものの翌節迎えたノリッジ戦では5-0と大勝し、早速調子を取り戻したシティ。一方のアーセナルは、クラブ史上初めて無得点でリーグ開幕2連敗を喫しており厳しいスタートを切っている。
今夏には、両チーム共に攻撃的なMFを"補強"。シティはジャック・グリーリッシュを1億ポンドでアストン・ヴィラから獲得した。そしてアーセナルは期限付き移籍で昨季プレーしていたマーティン・ウーデゴールが完全移籍で再加入、そして昨季頭角を現したエミール・スミス・ロウが契約延長を行っている。この試合では両チームの調子の鍵を握る彼らに着目したい。
シティの新オプション「1億ポンドの男」
失意の開幕を迎えたシティは、ノリッジ戦でその鬱憤を晴らすかのごとく5-0の大勝。その大量得点のスコアラーには、"1億ポンドの男"MFジャック・グリーリッシュも名を連ねた。移籍後初戦こそ、怪物級の身体能力を持つトッテナムDFジャフェット・タンガンガの守備に手を焼いたが、ノリッジ戦では得意のボックス付近で自由にボールを操り、さらに新天地での初ゴールを決めその"1億ポンド”の片鱗を見せている。
前節では同じく相手にとって危険なチャンスを生み出すMFケヴィン・デ・ブライネがベンチ外となり、アーセナル戦での欠場の噂もある。グリーリッシュが創り出すチャンスに懸かる期待は大きい。
そのグリーリッシュの最大の特長はボール運びにある。
昨季はとある数字で他者を圧倒した。敵陣ボックス内に運んだ回数である。リーグ屈指のチャンスメーカーであるMFベルナルド・シルヴァが32回に留まったのに対し、グリーリッシュはリーグ最多の80回を記録した。危険な位置でのボール運びに関して、彼の右に出る者などいない。それにも関わらず敵を抜き去ったドリブル成功数は(前述の数字を踏まえると)やや低いリーグ13位だったことを考えると、グリーリッシュがいかに異質な「ボール運び」をするかお解り頂けるだろうか。
彼のように脱力した状態でボールを保持されるとDFは飛び込めない。飛び込んだらかわされる。ので、ずるずる下がるほかない。それをボックス付近で繰り返すうちに、得点に絡んでいる。
ちなみに、昨季のプレミアリーグで「(90分毎の)ゴールを生み出すアクション回数」が最も多かった選手はデ・ブライネとグリーリッシュだ。これはパス、ドリブル、シュート、そしてファウル誘発など得点にかかわるプレー回数のことだが、グリーリッシュは26試合に出場して21回(90分毎で見ると0.86回)を記録。ほぼ毎試合のように直接、もしくは間接的に得点に関与したのである。前節のノリッジ戦でも74分間出場して12回もボックス内にボールを運んでおり、これは次に多いFWガブリエウ・ジェズスの4倍だった。
「抜く、抜かない」ではなく、とにかくボールを持ったら前方に運んでくれる。シティのように常にボールを支配できるチームにとって、引いた相手に対してもボックス内にボールを供給できるプレーヤーは1億ポンドの価値があるということだ。
アーセナルのフレッシュな「2枚看板」
一方、134年のクラブ史において、初めて無得点でリーグ開幕2連敗を喫したアーセナル。低迷するクラブにおいて、希望の光となっているのが二人のプレーメーカーだ。
一人目は"2年目の正直"レアル・マドリードから完全移籍で加入したノルウェー代表MFマルティン・ウーデゴール。一番の魅力は左足の精度だ。とりわけショートパスは、昨シーズンのプレミアリーグで10試合以上に出場したMF/FWの中でNo.1の成功率(95.7%)を誇った。前節のチェルシー戦ではペースを握れず、サポーターからブーイングを浴びたアーセナルにとって、ウーデゴールのように確実にショートパスをつなぐ選手は必須だろう。彼がボールを失わずにパスを出してくれるから、チームメイトも足を止めずに動くことができる。
そしてもう一人は、アーセナルの新10番エミール・スミス・ロウ。こちらはグリーリッシュとはソックスの履き方が似ているだけでなく、相手を翻弄する仕掛けもそっくりだ。事実、今オフにヴィラがグリーリッシュの後継者としてスミス・ロウの獲得を目論んだが、本人は自ら背番号10を希望しアーセナルと契約延長を果たした。迎えたチェルシーとの開幕戦ではチーム内で誰よりもボールを運び、可能性を感じさせた。ちなみに、スミス・ロウがいるといないではチームの勝率も倍近く違う。昨季のプレミアリーグでスミス・ロウがスタメン出場した試合のアーセナルの平均勝ち点は「2.2」で、スタメンから外れた試合は「1.1」だったそうだ。
ただし、スミス・ロウとウーデゴールは定位置を争う関係だ。水曜日に開催されたEFLカップのウェストブロム戦(6-0)では、スミス・ロウがベンチから見守る前で、トップ下に入ったウーデゴールを中心に小気味よくボールが回り、足裏を通す華麗なパスでブカヨ・サカのゴールを演出。これにはミケル・アルテタ監督も「確認終了」と言わんばかりに60分でウーデゴールを休ませた。この両者の使い分けがアーセナルの浮上の鍵を握る。あるいは、二人が同時にプレーするシーンも見ものだろう。
思い起こしてみれば、昨年の冬にマンチェスター・ユナイテッドが息を吹き返したのもMFブルーノ・フェルナンデスが加入してから。アーセナルにとっては、それがウーデゴールとスミス・ロウの"2年目の化学反応"である可能性は充分にある。
文・田島 大
「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まった『フットメディア』所属。英国在住歴を持つプレミアリーグのエキスパート。
試合情報
- プレミアリーグ第3節 マンチェスター・シティ対アーセナル
- 会場:エティハド・スタジアム
- 配信: DAZN 配信開始:8月28日(土)20:30
- 実況・解説:桑原学、水沼貴史(敬称略)
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