【特別連載】川崎フロンターレの右サイドバックとして輝きを増す背番号13【山根視来×長谷川竜也】

川崎F加入のきっかけを与えた長谷川竜也の存在

リーグ再開後、川崎フロンターレは、クラブ新記録となるリーグ戦9連勝で首位をひた走っている。好調の要因を探れば、新たに採用した4−3−3システム、選手層の充実、若手の台頭……幾つもの答えが導き出されていく。

その中には間違いなく、右SBで躍動するDF山根視来の存在がある。

今シーズン、湘南から加入した山根は、川崎Fにとって唯一の懸案事項とも言われていた右SBに光りを見出している。第6節のベガルタ仙台戦、第7節の湘南ベルマーレ戦で連続ゴールを記録しただけでなく、連戦が続く中で1試合を除いて先発出場。運動量においてもフル稼働中だ。

「右サイドでは、アキさん（家長昭博）と（脇坂）泰斗と崩すことが多いですけど、3人で出して動いて、出して動いてという連係は、当初に比べてよくなっていると思います。相手を自分たちで動かしている感覚がありますね」

そう語る山根に、川崎Fへ加入するきっかけを与えたのが、今はチームメイトのFW長谷川竜也だった。

「もともと竜也とは仲が良くて、昨年の秋にも食事に行ったんです。会うとサッカーのことを含め、いろいろと話をするんですけど、僕はこれまでずっと湘南の選手として湘南で育ってきた。だから、湘南のサッカーしか知らないというか、それが自分に合っていると思っていたんです。でも、竜也とサッカーの話をしていくうちに、サッカーはひとつじゃないと気づかされたというか。それで違う景色を見てみたいなって思ったんですよね」

漠然とではあるが、長谷川との会話の中で、山根にはそんな思いが芽生えていた。

「できないことを受け入れる謙虚さがある」（長谷川）

神奈川県出身で桐蔭横浜大学へ進学した山根と、静岡県出身で順天堂大学に進んだ長谷川が、接点をもったのは大学3年生の時。関西で行われた大学選抜の合宿が最初だった。帰りの新幹線で隣同士になり、意気投合した二人は、その後、頻繁に食事をするようになり、プロになってからも「一緒に夏は海、冬は忘年会をやるのが一番楽しみな日」（山根）と言うほど、交流を深めてきた。

昨秋もお互いのサッカー感をぶつけ合うと、山根の心は大きくくすぐられた。

「当時はオファーもなかったですし、それ以前に絶対に湘南をJ1に残さなければいけないという使命感もありました。結果的にそれが達成できて、J1でやれる自信もついてきたので、移籍するならば、このタイミングだなと考えていた。そんな時に、フロンターレから声を掛けてもらったんです。だから、すぐに行きますと伝えさせてもらいました」

プロになって初めての移籍。不安はなかったのかと聞けば、山根は首を横に振る。

「ありました、ありました、もちろん。僕自身がプロになって3バックのCBとしてプレーするようになったように特殊な選手ではあったので、例えば、湘南以外で3バックがドリブルを許されるのかどうか。そもそもSBもほとんどやったことがなかったので、できるのかどうかも考えました」

それでも踏み出したのは、さらに先に進みたいとする向上心ゆえだ。

「やっぱり日本代表を意識した時に、この身長（178cm）だとCBとして勝負するのは厳しい。海外の選手はさらにフィジカルも強いですし、自分では守り切れない。そう考えた時、自分はSBで勝負していくしかないなって。しかも、4バックのサイドでもできるということを世間に示さなければいけないと思ったんです」

旧知の仲である長谷川からは、素直にアドバイスをもらった。キャンプ中のことになるが、長谷川は自分の考えを山根に伝えた。長谷川が言う。

「視来が来てくれたのは個人的にも嬉しかったんです。だから、自分がフロンターレに加入してから今まで、右SBに抱いていた思いや、フロンターレにはこういうSBが必要だという考えをすべて言いました。今までSBを務めてきた人たちは、こうだったから成功した、こうだったから失敗したように思う、と。悩んでいたことも含めてすべて」

そこにはお互いに信頼を寄せているからこそ話せたこともあっただろう。長谷川は、そんな山根の魅力をこう説明する。

「一番すごいのは適応力だと思いますよ。周りに気を使えますし、かといって周りに気を使いすぎて、自分のプレーを見失うわけじゃない。芯の強さも持っているんですよね。自分を見失わずに、自分をうまく変化させていけるとでも言えばいいですかね」

長谷川は、山根に対して「できないことを受け入れる謙虚さがある」と言って締めくくり、だから、「馴染むのが早かった」と称えた。

事実、山根の言葉からは、多くのチームメイトとの会話によって吸収してきたのであろうことを窺わせた。

「ノボリくん（登里享平）はSBとして経験もあるのでよく話を聞きますし、立ち位置も含めて常に意識しています。自分もそういう存在になりたいと思っています。他には、幸運にも（中村）憲剛さんとロッカーが隣なんですよね。リハビリ中にジョギングしながら練習を見ていてくれたので、どうしたらいいか分からなかったプレーについて聞いたら、こうしたらいいんじゃないかって言ってくれたりして。『SBは絶対にボールを失ってはいけないポジションだ』って言われたことも心に残っています。全然、まだまだできていないですけどね」

右サイドで縦の関係性を築いている家長が、今シーズン気持ちよさそうにプレーしているのも、山根の適応力によるところが大きいのだろう。山根自身にそれをぶつければ「恐れ多いです」と言って笑った。

「普段の練習から、アキさんとは会話を重ねていて、そこに入ってきてくれと言われることもいっぱいあります。逆にアキさんが中に入ったら、自分が高い位置で幅を取って、DFを引きつけることができれば、アキさんがフリーになる。何より、あの人がボールを持っていれば、絶対に取られない。僕を使うか、使わないかはアキさんが決めること。だから、僕は走っちゃえばいいんです（笑）」

ライバルの存在が成長を加速させる

自分自身の特徴を聞けば「走力」と、即答する。そこは湘南で培ってきた強みでもある。

「4バックの右SBでプレーするのも、川崎に来て初めてなんですよね。だから変なこだわりがないというか、一昔前みたいに上下動してクロスを上げたらOKではないというのも分かっていましたし、中に入っていってプレーすることにもストレスはあまり感じないんです」

良くも悪くも、いや良くもだけだが、山根には長谷川が言うように受け入れる謙虚さがある。それが右SBで存在感を増す理由の1つなのだろう。嬉しそうに山根が言う。

「加入して、いざ練習に入ってみたら、やっぱりみんな普通にうまいんですよね。だから、ボール回しでも最初は僕が全部、取られてしまったんです。当初はどこにボールを付けたらいいかも分からなかったんですけど、毎日やっていくと、ちょっとずつ分かってきて。湘南の時もCBになって煮詰まっていた時に、続けていたら急に景色がパーっと開けて、1つ壁を乗り越えられた瞬間があったんです。それを今、ここでも感じているんです」

さらに山根は、まるで少年のように嬉しそうに続けた。

「僕が右サイドで竜也が左サイドなんで、練習では絶対にぶつかるんですよ。ボールがないところでも仕掛けてくるので、ほんと、あいつめんどくさいんです（笑）。実は偶然、J1での出場数があいつと一緒だったんですけど、あいつがケガをして試合に出なかったので、僕の方がこの間、上回ったんですよね」

日々の切磋琢磨が山根を、川崎を強くしているのだろう。練習は嘘をつかないし、ライバルの存在が互いを成長させる。

「まだまだSBとして求められるタスクのすべてはできていないですから、全然、満足はしていないです。もっと再現性のあるプレーを増やしていきたいと思っています。それにポジションが確約されているわけではないので、全試合に出てアピールしたいですね」

連戦もウェルカムだ。練習や試合で競えば競うほどに、新しい景色を見れば見るほどに、山根は右サイドで光りを増していく。その吸収力に限りはない。

文・原田大輔

1977年生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を経て、2008年に独立。現在はJリーグの取材を中心に、各クラブのオフィシャルメディアや各媒体に記事を寄稿している。

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