【コラム】久保建英にとって、新たなチャンスとなる2回目のエルチェ戦 ｜ ラ・リーガ

まだ70日も経っていないが、悠久の時が過ぎたようだ。

21日に行われるラ・リーガ第28節ヘタフェ対エルチェ……、久保建英は2カ月と少し前、同じ対戦相手との試合でヘタフェデビューを果たしていた。あの試合、途中出場の久保は30分のプレーながら、そのクオリティーの高さをまざまざと見せつけた。衝撃のデビューから徐々に存在感を失っていった日本人だが、しかし次の日曜には、チームに欠場者が続出していることで再び主役の座を勝ち取れる可能性がある。もちろん、逃してはいけないチャンスだ。

交錯する両監督の運命

残留を目指すヘタフェとエルチェにとって、今回の直接対決はとても重要なもの。加えて、両監督の運命が交錯する瞬間にもある。

ヘタフェのホセ・ボルダラスは、監督としてのプロキャリアを故郷のクラブであるエルチェでスタートさせ、そこから現在のメソッドを確立した。その一方でエルチェのフラン・エスクリバは、キケ・サンチェス・フローレスの助監督としてヘタフェで働き、キケのコーチングスタッフから独立した後、ヘタフェの第一監督としてラ・リーガ1部でデビューを果たした。しかし、エスクリバが指揮を執った2015-16シーズンにヘタフェは2部に降格。そして、奇しくも彼らを1部復帰に導いたのが……、ボルダラスだった。

不思議な縁があるボルダラスとエスクリバが志向するスタイルは、これまた似通っている。

先日、マルコ・ファン・バステンはフットボールが「監督が取り扱うゲーム」と化しており、好ましいことではないと発言していたが、ヘタフェ＆エルチェ監督はそうした潮流のど真ん中にいる。喜びのフットボールをかき消すため、何よりも規律守ること、スペースを埋めることを重視。その中で久保という選手は異質であり、相手のお堅い戦術を打ち砕くべくヘタフェにいる。

今週、ヘタフェ練習場の廊下は、これまでよりも和やかなムードに包まれていた。それは前節アトレティコ・マドリー戦で、退場者が出ながらもスコアレスで勝ち点1を分け合ったため。ラ・リーガの優勝争いを盛り上げる結果でもあり、チームは今季に入ってから聞こえてなくなった称賛の声を受けることになった。

ボルダラスは次戦に向けた初練習のミーティングで、各選手がインタビューなどで繰り返すことになるスローガンを伝えるのだが、今回のそれは「エルチェに勝てば、ライバルを一チーム消すことができる」だった。実際、ここで勝ち点3を獲得すれば、残留に大きく近づくことになる。

久保先発の可能性も

ヘタフェがエルチェに勝つためには、いくつかの困難を乗り越えなくてはならない。それは言い換えれば、久保にとってのチャンスである。ボルダラスは久保加入時に採用した攻撃的なシステムをあっさりと撤回して、再びサイドバックをサイドハーフとして使うシステムに戻したが、この試合では右サイドのタンデムであるアラン・ニョムとダミアン・スアレス、さらにハイメ・マタが出場停止。ボルダラスはフランシスコ・ポルティージョ、アンヘル・ロドリゲス、そして久保と、小柄ながら技術に秀でた選手たちに頼ることになる。

練習を見る限り、ボルダラスはより攻撃的なフットボールの実践を真剣に検討しているようだ。エルチェ戦は、アトレティコ戦のような堅守速攻で勝ち点1でも獲得できれば上出来という一戦ではない。主導権を握って、エルチェの守備重視のフットボールを打ち破り勝ち点3を獲得することが必要なのだから。そのために、久保が先発で使われる可能性も十分にある。

ニョムの代わりに右サイドハーフとして起用し、相手選手たちを引きつけてスペースを生み出させるのか。それともマタの代わりに最前線のエネス・ウナルの近くでプレーさせ、より自由を与えるのか。ボルダラスは頭の中で、エルチェ戦で久保を生かす方法を模索している。

ヘタフェ指揮官は、久保がベンチ要員となった後にも、真剣に仕事に取り組み続ける姿勢を評価する。日本人の粘り強さと努力は出場時間となって報われなければならない。もちろん、そうやって立ったピッチ上で残すべきは、結果である。時間は過ぎ、そして過ぎ去った試合はもう戻らない。

久保にとって、新たなチャンスとなる2回目のエルチェ戦がやって来る。

文／ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ、スペイン『アス』紙ヘタフェ番

翻訳＝ 江間慎一郎

1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。 寄稿する媒体は「GOAL」「フットボール批評」「フットボールチャンネル」「スポニチ」「Number」など。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。