痛かった指揮官不在
超異例となる春の天王山第1ラウンドは川崎Fの圧勝に終わった。
名古屋目線で見れば、衝撃的な敗戦と言っていい。これまで12試合で3失点しか与えなかった守備が、それを上回る1試合4失点。いくら開始わずか3分で先制点を与えたとはいえ、ここまで崩されたのにはいくつかの理由がある。
まずは指揮官不在の影響。のどの痛みを訴えたマッシモ・フィッカデンティ監督が、試合前のオンサイト検査で判定保留。ベンチ入りすることができずにブルーノ・コンカコーチが代役となった。
いつもならテクニカルエリアのギリギリまで出てポジショニングの修正をするフィッカデンティ監督。中盤のMF稲垣祥は「監督が細かく指示してくれるので、自分たちがどこにいないといけないか、監督の求めているものが何か分かりやすい」と言う。
この試合でコンカコーチは、フィッカデンティ監督とも連絡を取り合いながら指揮を執っていたそうだが、当然のことながら素早く細かな修正はし切れず、川崎Fの畳みかける攻撃をまともに食らってしまった。「僕らはプロですから、それ(監督不在)を言い訳にすることは出来ません」とMF米本拓司は語ったが、やはり少なからず影響が出てしまっていたことは否めないだろう。
中盤の攻防でも後手を踏んだ。個人能力の高い川崎Fは誰もがパスを積極的に受ける位置取りをしてパスを回せる技術がある。対して名古屋はサイドハーフがピッチの幅を取るため、中盤のケアをするのは運動量豊富なダブルボランチの二人が中心。中盤が2人対3人とミスマッチになる中で、彼らは二人でボールを追いかけ回しプレスを掛けることになった。だが、鍛えられた川崎Fの選手たちは、強いパスでもピタッと足下にボールを止めてしっかりコントロールできるため、普段の相手なら寄せられるところが寄せ切れず、あっさりかわされるシーンが多かった。
それでも米本と稲垣は意地でボールに触れるシーンもあったが、こぼれ球は近くにいる川崎Fの選手がほとんど回収。セカンドボールの優劣は、バスケットボールのリバウンドと同じように勝敗に直結する勘所であり、そこで優勢に立つことが自分たちの攻撃権を増やすことにつながる。FWが割り切ってもっとセカンドボールに絡めるポジションに戻ることが必要だったのかもしれない。
確かな差はあった。ただ、まだ何も決まったわけではない
そして何よりも技術の差が大きく見えた。前述のとおり川崎Fの選手の足元の技術は非常に高く、トラップでもほぼボールを浮かすことがなかった。2019年シーズンの第22節で対戦した時は、名古屋も技術を追求するスタイルを取っていたこともあり、非常にハイレベルな戦いの末、名古屋が3-0で川崎Fを凌駕したが、この試合を見る限りでは大きく開いてしまった感がある。
もちろん技術だけで勝てないのは、昨シーズンや今季序盤の名古屋の戦いでよく分かっている。だが、やはり技術を高めることが勝利への近道になることを改めて川崎Fは示していると思う。名古屋からすれば、立ち上がりの失点でプランが狂ったという面もあるだろうが、この差を見ると失点がなくても互角に戦えていたのかは、若干疑問である。
ただ、大きな一敗だったとはいえ、まだ決まったわけではない。FW柿谷曜一朗は「今回負けたからと言って何かが崩れるわけではありません。もう言い訳は効かないですし、言い訳することはできません。次節取り返すチャンスがすぐにあるので、もう一度チーム全員でしっかりと準備したいです」と、すぐに気持ちを切り替えた。
ミスがあってもすぐにそれをフォローできれば、それはミスではなくなる。相手の実力を考えれば、この天王山2連戦は1勝1敗でも御の字であり、第2ラウンドで勝利することでホームとアウェイが逆になっただけにすればいい。第1ラウンドでは確かに差があった。でもそれが2戦続くとは限らない。今季の名古屋には立ち返る場所がある。第2ラウンドまで時間は短いが、もう一度原点に戻って、全エネルギーを放出できるように準備をしたい。
文・斎藤孝一
1965年、愛知県生まれ。テレビカメラマン、ディレクターとして活動後、2017年にスポーツジャーナリストに転身。現在はサッカー新聞エルゴラッソで名古屋・岐阜を担当する他、専門誌などで連載執筆中。
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