明確なゲームプランが一介のクラブを躍進へ
1年ほど前、 シェフィールド・ユナイテッド が9位で2019-20シーズンを終えると、誰が予想していただろうか。ビッグネームを獲得できる経済力も知名度も持たない一介のクラブは、1シーズンでチャンピオンシップに逆戻りするものと考えられていた。
しかし、3-5-2を土台とする堅守速攻に加え、ボールを保持した際は両ワイドが高く位置するメリハリの利いたフットボールが機能し、10節以降はトップ10を維持。ホームで チェルシー 、 トッテナム 、 アーセナル を破るなど、質の高さもアピールした。
19-20シーズンのシェフィールドを見るにつけ、改めてゲームプランの重要性を痛感した。選手の知名度で劣っていたとしても、明確なゲームプランさえあれば、世界一のプレー強度を誇るプレミアリーグでも闘える。
選手のタレントに負うところが大きい監督、例えば マンチェスター・ユナイテッド のオーレ・グンナー・スールシャールは、 ウェストハム のデイヴィッド・モイーズは、シェフィールドのクリス・ワイルダーを大いに見習わなくてはならない。
さて、シェフィールド同様に明確なゲームプランを持つ ウォルヴァーハンプトン も健闘した。被ポゼッションではパスコースを巧みに消し、ボールを保持した際は複数のパスコースを作る。しかも彼らはシェフィールドと異なり、ジョアン・モウティーニョ、 ラウール・ヒメネス 、 ルーベン・ネヴェス 、 アダマ・トラオレ など、個で違いを作れる実力者を擁していた。
シティにダブルを食らわせたウルヴスの最終順位は7位で、勝点は6位トッテナムと同じ59だった。このオフに主力を維持し、俊敏なディフェンダーを1枚加えれば、2020-21シーズンはさらに上を狙えるに違いない。
マンチェスター方面からの発信は “たられば”
勝点や最多得点などの記録更新こそ逸したものの、19-20シーズンの リヴァプール は“マジ”強かった。
「 マンチェスター・シティ がセンターバックと左サイドバックを補強していれば」
「マンチェスター・ユナイテッドの ポール・ポグバ がフルシーズン働いてくれたら」
いろいろな声が聞こえてくる。それは無粋というものだ。シティがDF陣を補強しようと、ユナイテッドの気分屋が改心しようと(まぁ、考えられないが……)、リヴァプールの優勝は正当に評価されてしかるべきである。
32勝3分3敗、勝点99。2位のシティとは18ポイント、3位のユナイテッドとは33ポイントもの大差である。この数字が紛れもない現実だ。マンチェスター方面からの発信は “たられば” であり、愚痴だ。的を射ていない。
リヴァプールも順風満帆だったわけではない。アクシデントは起きていた。ノリッジとの開幕戦でGK アリソン がふくらはぎを故障し、戦線離脱を余儀なくされた。代役はアドリアン。信頼も実績も、アリソンにはるかに劣る。いくつかの取りこぼしを覚悟しなくてはならなかった。しかし、二番手GKはアリソンが復帰するまでの8試合を全勝でクリアしている。
また、10月にはジョエル・マティプが膝のケガで離脱。この穴を埋めたジョー・ゴメスは代役に留まらず、CBのレギュラーポジションを奪い返した。しかし、今度はアンカーのファビーニョが左足首の靭帯を損傷と不測の事態が続く。この危機を救ったのがインサイドハーフから中盤の底に主戦場を移した ジョーダン・ヘンダーソン で、ナビ・ケイタやアレックス・オクスレイド=チェンバレンも緊急時に活躍した。
さらに、18-19シーズンの「チャンピオンズリーグ優勝が大きかった」とユルゲン・クロップ監督は語る。昨シーズンのプレミアリーグを30勝7分1敗で終えながら、優勝したシティにわずか1ポイント届かなかった。攻守とも高質を維持しながら、である。
したがってチャンピオンズリーグ決勝のトッテナム戦で敗れていれば、「どうすれば勝てるのだ!?」と、監督も選手も疑心暗鬼に陥っていたに違いない。
しかしヨーロッパのテッペンに立ち、改めて自信が芽生えた。
「俺たちがやって来たことは間違っていなかった」(ヘンダーソン)
心が整理整頓されていたのだから、多少のアクシデントで挫けるはずがない。
リヴァプールと他チームには圧倒的な差が
サディオ・マネ と モハメド・サラー が驚異的なスピードで敵陣を突破したかと思えば、 ロベルト・フィルミーノ が絶妙のリズム変化で緩急をつける。持ち味とするショートカウンターだけではなく、後方からのビルドアップとポゼッションで多くのチャンスを創れることも証明した。対戦相手は守る術を持たない。
その結果が緊張の優勝争いではなく、首位独走だった。優勝決定は31節。残り7試合というプレミア史上最速の決着であり、リヴァプールと他チームには圧倒的な差が感じられる。
昨年12月、クロップは2024年まで契約を延長した。若手育成に長け、チーム創りに確固たるビジョンを持ち、勝者のメンタリティとカリスマ性をも備えた男が監督を続ける限り、リヴァプールはトップの座に君臨するだろう。
そして主力が年齢的にピークを迎え、最盛期を過ぎた者は経験値で補いながら、若手の成長を促している。チームの循環もすこぶる良い。新シーズンのターゲットはプレミアリーグの連覇とチャンピンズリーグの覇権奪回だ。いまのリヴァプールなら達成可能な2冠である。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
2019-2020 プレミアリーグ最終順位
順位 | 点 | 勝 | 分 | 敗 | 差 |
---|---|---|---|---|---|
1 リヴァプール | 99 | 32 | 3 | 3 | +52 |
2 マンチェスター・C | 81 | 26 | 3 | 9 | +67 |
3 マンチェスター・U | 66 | 18 | 12 | 8 | +30 |
4 チェルシー | 66 | 20 | 6 | 12 | +15 |
5 レスター | 62 | 18 | 8 | 12 | +26 |
6 トッテナム | 59 | 16 | 11 | 11 | +14 |
7 ウォルヴァーハンプトン | 59 | 15 | 14 | 9 | +11 |
8 アーセナル | 56 | 14 | 14 | 10 | +8 |
9 シェフィールド・U | 54 | 14 | 12 | 12 | 0 |
10 バーンリー | 54 | 15 | 9 | 14 | −7 |
11 サウサンプトン | 52 | 15 | 7 | 16 | −9 |
12 エヴァートン | 49 | 13 | 10 | 15 | −12 |
13 ニューカッスル | 44 | 11 | 11 | 16 | −19 |
14 クリスタルパレス | 43 | 11 | 10 | 17 | −19 |
15 ブライトン | 41 | 9 | 14 | 15 | −15 |
16 ウェストハム | 39 | 10 | 9 | 19 | −13 |
17 アストンヴィラ | 35 | 9 | 8 | 21 | −26 |
18 ボーンマス | 34 | 9 | 7 | 22 | −25 |
18 ワトフォード | 34 | 8 | 10 | 20 | −28 |
20 ノリッジ | 21 | 5 | 6 | 27 | −49 |
※1~4位がチャンピオンズリーグ出場権、5位がヨーロッパリーグ出場権を獲得。18~20位は自動降格。
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