2020-2021シーズンのセリエAで頭角を現しつつある1998年以降生まれの“ネクスト・ブレイク”候補――。そんな条件設定でざっとリストアップしてみると、比較的簡単に20名以上のリストを作ることができる。
近年のセリエAは、ヤングタレントの台頭が著しい。理由は2つ。1つは約20年前に“世界最高”の称号を明け渡してからというもの、ここを「ステップアップリーグ」と見る向きが年々強まっていること。もう1つは、“5人交代制”が採用された昨シーズン途中から若手に与えられるチャンスが確実に増えていること。
特徴としては北欧諸国からのタレント流入が非常に多く、ミランのFWイェンス・ハウゲ(ノルウェー)、サンプドリアのMFミッケル・ダムスゴーア(デンマーク)、ボローニャのMFマティアス・スヴァンベリ(スウェーデン)らがその代表例だ。ちなみに昨シーズンの大ブレイクでユヴェントス入りを果たしたMFデヤン・クルゼフスキも、2016年夏にスウェーデンのIFブロマポイカルナからアタランタに加入した“北欧勢”の一人である。
さて、“ネクスト・ブレイク候補”ということで本当ならリストアップした20名全員を紹介したいところだが、今回は「イタリア人」に限定して5人に絞り込んだ。多国籍化の拡大による自国選手の競争力低下が懸念されるセリエAでも、個性を際立たせているタレントは十分にいる。
【1位】ジャンルカ・スカマッカ(ジェノア|22歳)
- ブレイク度 ★★★☆☆
- ポテンシャル ★★★★★
- 完成度 ★★☆☆☆
そのフィジカル条件とプレースタイル、さらにキャリアからも“破天荒”なキャラクターが浮かび上がる面白いタレントだ。
10代前半にしてラツィオからローマへ禁断の移籍を経験し、15歳の時にはオランダのPSVに移籍。2年後の2017年に帰国してサッスオーロに加入すると、セリエBのクレモネーゼ、オランダのズウォレをレンタルで渡り歩き、イタリアU-19代表として臨んだ2018年欧州選手権ではポルトガルとの決勝で2得点を記録した。
これが脚光を浴びるきっかけとなり、セリエBのアスコリでプレーした2019-20シーズンは9得点を記録して成長を印象づけた。
195センチの長身に恵まれた体格はかつてのイタリア代表クリスティアン・ヴィエリを想起させるが、ゴール前でのアクロバティックな身のこなしからズラタン・イブラヒモヴィッチに例える声も多い。大柄だがクイックネスがあり、足下の技術も十分。相手を背負った状態からの反転シュートやポストワーク、ラストパスなど器用さもあり、いかにも現代的な万能型ストライカーの資質を有する。
パフォーマンスの安定感においてはまだ物足りなさを残しているものの、イブラヒモヴィッチのバックアッパーを探すミランを筆頭にいくつものビッグクラブが興味を示すのも当然のタレントだ。
【2位】ニコロ・ロヴェッラ(ジェノア|19歳)
- ブレイク度 ★★☆☆☆
- ポテンシャル ★★★★☆
- 完成度 ★★★☆☆
ミランのMFサンドロ・トナーリを筆頭に、エンポリ(セリエB)のサムエレ・リッチやSPAL(セリエB)のサルヴァトーレ・エスポージトなど、レジスタのポジションには20歳前後の有望株が何人もいる。今シーズンのジェノアで前半戦のサプライズとなり、19歳にしてイタリアU-21代表の中核を担うロヴェッラもそのうちの1人だ。
ジェノアのアカデミーから昇格した2019-20シーズンにトップデビューすると、2年目の今シーズンは4節から5試合連続でスタメン出場。かねてから高く評価されている配給役としてのパスセンスはもちろん、守備時に見せる球際の激しさやスピード、さらには自らボールを運ぶ能力も高い。
ボール保持時はピンと背筋を伸ばして視野を確保し、パスコースがなければ自ら運んでスペースを作ろうとする。その判断の速さを見る限り、19歳にして非常に完成度の高いプレーヤーと言えそうだ。
イタリア国内ではユヴェントスやミラン、インテルが獲得に動いていると報じられており、現時点ではユヴェントスがかなり積極的なアプローチを試みているようだ。2020年にはチェルシーも視察するなど国外からの注目も集めている。
【3位】マヌエル・ロカテッリ(サッスオーロ|22歳)
- ブレイク度 ★★★★☆
- ポテンシャル ★★★★☆
- 完成度 ★★★★☆
アタランタとミランのアカデミーで育ち、ミランでセリエAデビューしたのは18歳の時。ユヴェントス戦でゴールを奪うなど一躍脚光を浴びてブレイクしたが、その後はやや伸び悩み、2018年夏にサッスオーロに新天地を求めた。
その後の成長ぶりは急激な右肩上がりで、今まさに、まだ23歳にして“再ブレイク”の時を迎えている最中だ。
イタリア国内では異色のポゼッションスタイルを信条とするロベルト・デ・ゼルビ監督のスタイルは、逆にミラン時代のロカテッリにとって弱点だった守備面の強化を促した。
最終ラインから丁寧かつチャレンジングにパスをつなぐサッカーだからこそ、守備時には人に対する強さとポジショニングの正確さ、前に出る思い切りの良さと運動量が問われる。それを1年足らずで見事に体得すると、もともと持っている攻撃センスと合わせてMFとしての完成度が飛躍的に上がった。
ロベルト・マンチーニ率いるイタリア代表でもレギュラーを狙える位置にいるし、今シーズンのセリエAで旋風を巻き起こしているサッスオーロでは絶対的な存在となりつつある。
世界的な知名度はまだまだだが、今後、国外のビッグクラブが獲得を狙う可能性は十分にある。
【4位】マッテオ・ロヴァート(ヴェローナ|20歳)
- ブレイク度 ★★★☆☆
- ポテンシャル ★★★★☆
- 完成度 ★★☆☆☆
昨シーズンからの好調を維持して8位につけているヴェローナで、文字どおり急激な成長を遂げている。
ヴェローナを率いるイヴァン・ユリッチ監督は、アタランタを率いるジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督の“元右腕”。アタランタとほぼ同様の戦術「オールコート・マンツーマン」においては最終ラインの“個の強さ”が不可欠だが、前半戦はきっちりとその役割をこなして周囲を驚かせた。
なにしろ1年前にセリエCのパドヴァから加入した際、その移籍金は50万ユーロ、年俸はたったの8万ユーロだというからその価値は急騰中だ。
昨シーズン、ヴェローナの最終ラインを形成したマラシュ・クンブラはローマへ、アミル・ラフマニはナポリに移籍。快進撃を支えた2人の放出は大打撃になると見られていたが、結果的にはロヴァートがその穴を埋めたことになる。
年齢と経験値の少なさに反して3バックをコントロールするクレバーさが高く評価されているが、対人の強さ、ビルドアップなどCBとしての基礎能力も高い。伸びしろはまだまだある。
【5位】トンマーゾ・ポベガ(スペツィア|21歳)
- ブレイク度 ★★☆☆☆
- ポテンシャル ★★★★☆
- 完成度 ★★★☆☆
14歳でミランのアカデミーに加入し、2018年にトップ昇格。同年はセリエCのテルナーナ、翌2019-20シーズンはセリエBのポルデノーネとレンタル先で結果を残し、今シーズンはギリギリまでミランでのプレーも期待されていたが、最終的にはスペツィアへのレンタル移籍が発表された。
その新天地で前半戦に十分な存在感と結果を残し、じわじわと注目を集めている。
188センチの大柄にしてレフティーのテクニシャンだが、攻撃面の最大の魅力はゴールに直結するプレーの多さと自身の決定力の高さにある。ケガによる欠場も少なくない中、今シーズンはすでに2得点を記録。ユヴェントス戦でもゴールを決めるなど勝負強さがあり、体格の利を活かしたボール奪取と気の利いたポジショニングで守備面でも貢献する。
さらに両足で蹴れる器用さも兼備しているから、どんな戦術でも重用されるオールラウンダーとしての資質を見る。
スペツィアへのレンタル移籍には買取オプションがついているため、ミラン復帰は既定路線ではない。来シーズン以降の去就に大きな注目が集まりそうだ。
※年齢などデータはすべて2020年1月4日時点。
文・細江克弥
1979年生まれ、神奈川県藤沢市出身。『CALCIO2002』『ワールドサッカーキング』『Jリーグサッカーキング』編集部などを経てフリーランスに。サッカーを軸とするスポーツライター・編集者として活動している。DAZNセリエA解説者。ジェフユナイテッド市原・千葉オフィシャルライター。
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