プレミアの強度に動じない「破格のCB」
ヨーロッパのビッグクラブが注目していたのだから、 ガブリエウ (写真左端)がリールからの移籍早々アーセナルにフィットしたのは不思議ではない。
ミケル・アルテタ監督が欲していたボールが運べ、ビルドアップに貢献できるセンターバックとは、まさしく彼のことだった。
しかも多くの選手が戸惑うプレミアリーグの強度に、ガブリエウはまったく動じていない。
アーセナルのレジェンドであるロベール・ピレスは、「プレミアリーグ仕様の肉体を造るまで2年もかかった」とこぼしていたのだが……。
なお、屈強で柔軟なCB獲得に要した費用は2500万ポンド(約34億円)。スター候補性にしては破格である。アーセナルはうまくやった。
アストンヴィラ史上最高額は伊達ではない
さてガブリエウと異なり、アストンヴィラがブレントフォードに支払った金額には、到底納得できなかった。 オリー・ワトキンズ (写真右端)の獲得総額が2800万ポンド(約38億円)——。そう聞いたとき、開いた口がふさがらなかった。
昨シーズンのチャンピオンシップ(実質2部)で26ゴールを奪ったものの、所詮は未知数のアタッカーにクラブ史上最高額を投じるとは……。
「なに寝ぼけてやがんだ」
しかし、寝ぼけていたのは筆者だった。 4節のリヴァプール戦でハットトリック 。2800万ポンドが伊達ではないことは、みずから証明している。
ゴール前の得点感覚もさることながら、前後左右に流れてスペースを創ったり、ファーストディフェンダーとしての労も惜しまなかったり、ワトキンズにはチームプレーヤーとしての才能も感じられる。
ともすればストライカーは独善的になりがちだが、この男は自己犠牲の意味をよく理解しているようだ。
「近い将来、ワトキンズはイングランドで最も注目されるタレントのひとりになる」
アストンヴィラのディーン・スミス監督も太鼓判を押した。この両名は、ブレントフォード時代から良好な関係を維持している(編集部・注/スミスは15-16シーズン途中から17-18シーズンまでブレンドフォードの監督を務めた)。
名将との出会いで人生が変わったMF
指揮官との出会いで括るのであれば、リーズの カルヴィン・フィリップス (写真右から2人目)もマルセロ・ビエルサ監督との出会いで人生が変わった。
わずか2年前まで、要するにビエルサがリーズに着任するまで、フィリップスはそこそこの選手だった。16-17シーズンには定位置を完全に確保。翌シーズンも好パフォーマンスを披露し、リーズの中心選手にはなっていた。ただし、ビッグクラブが興味を示すほどではなかった。
そこに現れたのがビエルサである。
彼はビルドアップの起点にフィリップスを起用。長短の正確なパスが強みのMFに、アンカーの重責を託した。
システマティックなフットボールが信条のビエルサは、フィリップスのパスセンスと豊富な運動量、なおかつ的確な状況判断を、「われわれに必要不可決なアイテム」と高く高く評価している。
ちなみにフィリップスという男、肉弾戦も大好物だ。
9月のイタリア戦(親善試合)でイングランド代表に初選出。ビッグクラブのレーダーに捉えられる機会が増えつつある。
プレミアリーグでさらに経験を積み、名将ビエルサの指導で近代フットボールの理解がより深まれば、イングランド代表でも定位置を確保するに違いない。
ステップアップのチャンスがすぐそこまで迫ってきた。
強烈すぎるインパクトを残している
エヴァートンの ドミニック・カルヴァート=ルーウィン (写真左から2人目)が、大変貌を遂げようとしている。プレミアリーグ第5節終了時点、得点ランクでトップタイの7ゴール。クラブも4勝1分で首位。カルヴァート=ルーウィン様様といって差し支えない。
彼もまた監督との出会いで急成長した。
カルロ・アンチェロッティ監督は「あまり動きすぎるな。もっと中央で構えていろ。ペナルティボックス内のプレーはできうるかぎりワンタッチだ」と、指示したという。
たしかにカルヴァート=ルーウィンは、サイドに流れがちだった。ボックス内では慎重を期していたのか、思い切りに欠けるきらいもあった。ポジションもウイングだったり、2列目中央だったり、曖昧に使われていた。
しかし、アンチェロッティが前線の一角に固定すると、巧み、かつ強靭なポストワークで対戦相手の脅威となった。187センチの長身と天性のスピードに新たなアイテムを加えたのだから、昨シーズンの13ゴール(キャリアハイ)は当然であり、今シーズン第2節の ウェストブロム戦におけるハットトリック も偶然ではないだろう。
強靭な背筋と肉体を利し、空中でボールを待ちながらヘディングで叩き込んだ マージーサイド・ダービー(第5節)の同点ゴール も、強烈すぎるインパクトを残している。
筆者は早くから「イングランド代表にカルヴァート=ルーウィンを常時招集せよ。 ハリー・ケイン のバックアッパーとして最適だ」と訴えていた。「なに寝ぼけてやがんだ」とのお叱りも受けた。
フフッ。
今シーズンのパフォーマンスをみていると、エヴァートンの下部組織から育ったストライカーの才能に疑いの余地はない。
最低でも20ゴール、いやいや30ゴールを期待しよう。得点王争いに絡み、ケインを、そしてリヴァプールの サディオ・マネ や モハメド・サラー を脅かしたとしても不思議ではない。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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