負けて初めて「責任」や「覚悟」の意味がわかる
森保一監督以下、選手たちは中国戦勝利後の取材対応で安堵の表情を浮かべていた。
彼らが口にしたのは、「リバウンドメンタリティ」というフレーズ。最終予選の初戦、オマーン相手によもやの黒星スタートとなったことで、日本は2戦目にしていきなり崖っぷちに立たされていた。
この状況を跳ね返す反発力を発揮しなければならない。中国対策や戦術整理などロジカルに取り組まなければならないものはあったが、何よりこの中4日で迎える一戦に向けて取り組んできたのが、「責任感と覚悟」(FW大迫勇也)の再確認だった。
と、書いてはみたものの、あらためて「最終予選は厳しい戦いになる」と当たり前のように言っても、それを最初から心底理解することは選手たちにとっても簡単なことではない。
ベテランから若手まで、その文言は頭に叩き込まれている。GK川島永嗣やDF長友佑都、DF吉田麻也らすでに複数回この修羅場を経験してきた猛者もいる。その上で、選手たちもあらためて初戦を思い返すと、「1試合目は誰もが精神的な準備が不十分だったと認識している。1試合目の前になぜ最終予選が大切なのかをチームで再確認すべきだった。僕自身のミスです」と主将の吉田も語るほどだ。
チーム内で立場のある人間だからこそ自省の弁が出たのだろうが、客観的に見て実際に戦いが始まる前から最終予選に潜む目に見えない「危険」を察知し、認識し、そして全体共有することは、難しい。なぜならば、それは戦前の時点では何も実態がないものだからである。
実体験に勝る学びはない。日本が中国に勝利し、「覚悟」や「リバウンドメンタリティ」と表現できたのも、それはオマーン相手に手痛い黒星を喫したから。身を持って、「最終予選は厳しい戦いになる」ことの本当の意味を、予選未経験の選手たちを含めチーム全体で実感したからである。
そして、まだ8試合続く予選の中で、どこで再び「厳しい戦い」に直面するかはわからない。ある意味、中国戦に勝てたことで、森保ジャパンは最終予選に潜む「危険」を1試合目で経験できたことをポジティブにも捉えられる。どこよりも今予選に対するアラート意識はすでに高まった。もう今後はそんな簡単にメンタルが理由に挙げられるような拙戦はないと信じたい。
戦術を支えた良好なコンディション
この中国戦、戦術的観点から言えば、オマーン戦とは全く異なる毛色の内容になった。現代フットボールの論理的な文脈に則って、日本相手に攻守で優位なポジション取りをベースに互角の戦いを演じてきたオマーン。一方、中国は[5-3-2]の布陣を選択し、自ら完全守勢に回った。
自ずとボールを保持しながらフィールドプレーヤー全員が敵陣に押し込んでいった日本は、そのなかでサイドバックのDF長友佑都とDF室屋成がワイドな位置取りを常に意識し、右サイドアタッカーのMF伊東純也はハーフスペースを生かしながら1トップの大迫やトップ下のMF久保建英と絡んでいく。左サイドアタッカーのFW古橋亨梧もオマーン戦のようにサイドに張るだけではなく、得意のゴール前でのプレーを増やすべく流動的な動きで中央エリアに侵入。長友との左サイドの「外・中」の連係もうまくいっていた。
ボランチのMF柴崎岳はテンポを意識した配球を見せ、MF遠藤航はセカンドボールへの素早い寄せと機を見て突き刺す縦パスで貢献。中国が低く構えながらも球際では緩慢な対応が見られたため、日本は相手に引かれながらも攻めの有効打をしっかりと打ち込むことができていた。
だからこそ40分、それまで連係からゴールに迫っていった流れがあったところで、伊東のスピーディな単騎突破からのクロスを大迫がゴール前で合わせる至極シンプルな形のゴールが際立った。伊東がボールを持った瞬間、「これまで後ろにいたカバーがいなかった」ことでグッと推進していき、それに呼応した大迫もDFの隙間から飛び出してゴールを陥れたダイナミックな一撃。痛快極まりない得点だった。
ポストプレーからの連動やワンツーからの崩しと、日本が得意とするコンビネーション攻撃はこの試合もチームの基本軸だった。ただ、大切だったのは、それ以外の大胆さ。ボールサイドに寄せる速さと圧力や、敵陣にスペースを作り出すランニング、そして得点シーンに見られるような積極的な個の判断。これらはどれも、フィジカルコンディションが良くなければ発揮できない要素だ。
今回の9月の2試合であらためて浮き彫りになったのが、選手たちの体調、体力面だった。ヨーロッパでプレーする選手が大半のチーム構成。日本に帰国後、たった数日の調整で試合に臨むタイトスケジュールが、如実にパフォーマンスに影響を及ぼすことはオマーン戦後にも多く叫ばれた。アジアとヨーロッパの地理的、もしくはサッカー界における構造的課題はすぐには解消できるものではなく、中長期的な視点に立った議論が必要になる。
ただ、中国戦は60分以降、一転して相手が攻めに出る展開になったが、日本は最後まで危ない場面を作らせなかった。終盤になっても守備陣は体力、集中力ともに高いレベルをキープし続けられたところからも、オマーン戦よりこの試合のコンディションが優れていたことを証明していた。
日本が直面した「9月特有の難しさ」
初戦黒星の後、森保監督やキャプテンの吉田はじめ、選手やスタッフはさまざまな意見交換を行った。指揮官、選手からともに出てきた意見の一つが、“9月という時期特有の戦いづらさ”だったという。吉田が代弁する。
「毎回、9月シリーズは難しくなる。オフを日本で過ごしたヨーロッパ組が夏にクラブに戻り、まずそこで涼しい環境で自チームの戦術を落とし込まれていく。ただ、9月頭には再びまだ暑い日本に戻ってきて、そこから短い時間で代表の形に合わせていくことになる」
短期間での日欧の往復で、身体的負担も去ることながら、脳内の切り替えもいつも以上に素早い転換が求められる。特に開幕前のプレシーズンの時期は、各チームとも集中して戦術浸透を図るところが多い。我々が考える以上に、それが染み付いた体と頭をすぐに代表モードに戻すことは難しいと、選手たちは口々に語る。
10月シリーズはアウェイ・サウジアラビア戦から始まり、ホームのオーストラリア戦と、この9月に2連勝を飾ったライバルとの直接対決が待っている。「僕らはもう負けられない」と吉田はいまから自分とチームに言い聞かせるが、他方で、今回の経験を踏まえて冷静にこう語る。
「サウジアラビアも暑いでしょうが、ヨーロッパからの移動距離が短く、時差も少ない。もう一つは今月から10月と間隔が短いので、今度は(メンタル面かつ戦術面で)すり合わせに時間がかからないと思います」
フィジカル、メンタル、そして戦術――。サッカーの勝負にかかわるあらゆる要素が絡み合った9月の2試合。現代フットボールは、このどれも欠けていては勝者にはなれない。中国戦でチームは心身のリカバリーに成功したが、オマーン戦で直面した戦術面の課題は解消されてはいない。いずれにしても最終予選がスタートしたこの時点で、森保ジャパンが体感、痛感したことをプラスに転じられるか。すべては10月の勝負にかかっている。
文・エル・ゴラッソ日本代表担当 西川結城
サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の日本代表担当記者兼、事業開発部統括マネージャー。過去に名古屋、川崎F、FC東京担当を歴任。名古屋担当時代に本田圭佑や吉田麻也を若い時代から取材する機会に恵まれる。その他雑誌『Number』や新聞各紙にも寄稿する。
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開催日 | 試合 | 配信・放送予定 | |
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MD1 | 2021年9月2日(木) | 日本 vs オマーン | DAZN テレビ朝日 |
MD2 | 2021年9月7日(火) | 中国 vs 日本 | DAZN |
MD3 | 2021年10月7日(木) | サウジアラビア vs 日本 | DAZN |
MD4 | 2021年10月12日(火) | 日本 vs オーストラリア | DAZN テレビ朝日 |
MD5 | 2021年11月11日(木) | ベトナム vs 日本 | DAZN |
MD6 | 2021年11月16日(火) | オマーン vs 日本 | DAZN |
MD7 | 2022年1月27日(木) | 日本 vs 中国 | DAZN テレビ朝日 |
MD8 | 2022年2月1日(火) | 日本 vs サウジアラビア | DAZN テレビ朝日 |
MD9 | 2022年3月24日(木) | オーストラリア vs 日本 | DAZN |
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