インテルの10シーズンぶり19回目となる戴冠によって、ついにユヴェントスのリーグ連覇が途絶えた2020-21シーズンのセリエA。大きな"転換期"を予感させるトピックの多いシーズンの中で、新王者はもちろん、最終節までCL(チャンピオンズリーグ)出場権を争った上位クラブの主力を中心に、数多くの選手が強烈なインパクトを残した。
ベストイレブンの選出は“その日の気分”によって顔ぶれが変化してしまうほど選択肢が多く難しいのだが、今回は「個として輝いた11人」をテーマにピックアップを進めた。
チームへの貢献度や残した結果はもちろんだが、特に重視したのは個の能力やパフォーマンスのインパクトだ。当てはめたシステムは3-4-3。「その“華”で2020-21シーズンを盛り上げた11人」として読み進めてほしい。
完成の域に達したナンバー9
CF ロメウ・ルカク
[インテル | ベルギー代表 | 28歳]
36試合に出場して24得点11アシスト(※アシストは非公式記録)と大爆発だったルカクの存在感は、他候補と比較しても圧倒的だった。昨シーズンまではどちらかと言えばポストワーカー、チャンスメーカーとしての色が強く、そこが弱点と紙一重の魅力だったものの、今シーズンは独力でフィニッシュまで持ち込むストライカーとしての強引さをバランスよく発揮し、ついに完成の域に達した。
また、FWラウタロ・マルティネスとのコンビは知的で駆け引きに優れ、やはり今季もその抜群の相性によって多くのゴールが生まれた。「生かすことで生かされる」を知る、コンテ・インテルにとってまさに理想的なナンバー9だった。
右ウイング フェデリコ・キエーザ
[ユヴェントス | イタリア代表 | 23歳]
3-5-2または4-4-2の両サイドMFとしてプレー。シーズン開幕後の加入ながら少しずつチームに慣れてコンディションを上げると、12月以降は次々に重要な結果を残して完全なるエース格まで上り詰めた。
縦に仕掛けても中に仕掛けても抜群の加速力で狭いスペースをすり抜け、相手のゾーンディフェンスを破壊して突破口を作る。フィニッシュワークの技術力も高く、得点は「8」にとどまったものの、苦しむ時間が長かったチームにとって光明となる重要度の高いゴールばかりだった。スイッチOFF時の質を上げることが課題だが、ON時に切り替わった瞬間の独創力はすでに圧巻のレベルにある。
左ウイング ロレンツォ・インシーニェ
[ナポリ | イタリア代表 | 29歳]
チームとしては難しい1年だった。クラブ史上最高額の移籍金で獲得したヴィクター・オシムヘンや攻撃のキーマンであるドリース・メルテンスがたびたび離脱。優勝争いに絡める戦力を有しながら、2月までに8つの黒星を喫し、ジェンナーロ・ガットゥーゾ監督の解任説が浮上した。
そんなチーム状況の中で、安定的に結果を残し続けたのがキャプテンのインシーニェだ。35試合に出場して19得点(7PK)はさすがで、相手にとって怖い存在であり続けた。最後までCL出場権を争った後半戦の急浮上は、彼とピオトル・ジエリンスキの活躍に拠るところが大きい。改めて“個”の強さを証明した1年だった。
バレッラには「9000万ユーロの価値が」
右MF アクラフ・ハキミ
[インテル | モロッコ代表 | 22歳]
最大の武器は圧倒的なスピード。しかも長距離スプリントのスピードと体力が圧倒的で、ロングカウンターを生命線とするコンテ・インテルにとってはまさにうってつけの新戦力だった。もちろん「ただ速い」だけではなく、タイミングやコース取り、守備とのバランス感覚も絶妙だ。
相手に押し込まれて下がりすぎてもすぐに“自分のポジション”を取り直し、そうして駆け引きを優位に進めるしたたかさもある。ルカク、ミラン・シュクリニアル、ニコロ・バレッラと形成した右サイドの菱形はインテルにとって大きな武器。まだ22歳であることを考えると、今後、その市場価値は大きく膨れ上がりそうだ。
セントラルMF フランク・ケシエ
[ミラン | コートジボワール代表 | 24歳]
ボール奪取の局面で発揮される“とんでもないフィジカルの強さ”ばかりが脚光を浴びるが、パスをつないで良し、ドリブルで運んで良し、チャンスメークもフィニッシュも良しと、ボールに絡んだプレーセンスにこそ彼の真価はある。
サポート&カバーを目的とする攻守両面のランニングも極めて的確で、どの時間帯でも決してサボらない強靭なメンタリティも大きな特長のひとつ。ここ2年におけるミラン復権の原動力は、39歳の“神”ズラタン・イブラヒモヴィッチでも指揮官ステファノ・ピオリでもなく、ケシエだ。今季のパフォーマンスにはそう断言できるだけの説得力があった。
セントラルMF ニコロ・バレッラ
[インテル | イタリア代表 | 24歳]
ルカクと並び、「この人がいなければコンテのインテルは完成しなかった」と思わせる絶対的な存在だ。技術的・頭脳的なクオリティの高さはもちろんだが、それを試合終了まで保証するズバ抜けた走力と無尽蔵のスタミナこそ最大の武器であり、いかにも現代的なアスリートプレーヤーと言える。
その上で、“一歩も引かないメンタリティー”を備えるから鬼に金棒状態。インテルOBで元イタリア代表MFニコラ・ベルティは「9000万ユーロの価値がある」と評し、ミランOBで同じく元イタリア代表MFのマッシモ・アンブロジーニは「セリエA史上においても稀有なMF」と絶賛。器の大きさはカリアリ時代から別格だったが、今季はもうひと回り大きな可能性を示した。
左MF ロビン・ゴセンス
[アタランタ | ドイツ代表 | 26歳]
セリエAでの3位フィニッシュやCL16強入りという結果にもはや驚きはないアタランタだが、アレハンドロ・ゴメスがチームを去り、ヨシプ・イリチッチが精彩を欠くチーム状態の中で、まったく変わらないクオリティを示しつづけたのがゴセンスだった。
32試合に出場してPKなしの11得点はサイドプレーヤーとして特筆すべき成績。左サイドのタッチライン際レーンをほぼ1人で任される3-4-2-1のシステムと守備時マンツーマンの戦術を考慮すれば、目まぐるしい攻守の切り替えの中でしっかりとゲームの流れを読み、いかに的確なランニングでゴール前に飛び込んでいるかがわかる。
オーラとスター性を示した若きGK
右CB ミラン・シュクリニアル
[インテル|スロバキア代表|26歳]
シーズン開幕前に放出候補の1人と目されていたが、理想的な買い手がつかなかったことで残留すると、開幕からスタメンに名を連ねて不動の地位を確立した。
対人の強さを駆使して跳ね返すだけのストッパーではなく、人を捕まえる守備と距離を置く守備のバランス、マークの受け渡し、ポジショニングの修正など細かい仕事を丁寧にこなし、その丁寧さを攻撃面でも発揮してビルドアップの局面でも頼れるつなぎ役となった。3バックを形成するステファン・デ・フライとアレッサンドロ・バストーニも素晴らしかったが、1年を通じたシュクリニアルのパフォーマンスはほぼ完璧だった。
中CB クリスティアン・ロメロ
[アタランタ|アルゼンチン代表|23歳]
ユヴェントスから買取オプション付きの2年ローンでアタランタに加入すると、底なしのポテンシャルを発揮してチームの可能性を一段階引き上げた。
シュクリニアルやデ・リフトのような肉体の「屈強さ」ではなく、抜きん出た瞬発力に裏打ちされた「スピード」によって“強さ”を生み出すアスリート型のCBで、インテルのルカクとも互角に渡り合った。1対1の局面で仕事をさせず、CLではラウンド・オブ16進出の原動力に。
スピードを武器とするタイプのDFだからこそ“荒さ”に目が行きがちだが、時間をかけて着実に洗練されていく姿を見ると今後のさらなる成長を期待せずにいられない。
左CB マタイス・デ・リフト
[ユヴェントス | オランダ代表 | 21歳]
肩の手術と新型コロナウィルスの感染で欠場が少なくなかったものの、ピッチに立てば会心のパフォーマンスでユヴェントスの最終ラインを支え続けた。
最終ラインの戦術的なキーマンはいくつものポジションで起用されたダニーロだが、CBの柱は加入2年目のこの21歳だった。パワフルかつクレバーな対人の駆け引きは今シーズンも文句なし。昨シーズンとの大きな違いは攻撃面にあり、オン・ザ・ボールの局面では自らスペースに運んでビルドアップにアクセントを加えるなどクリエイティブな一面を見せつづけた。
主体性を持たせることで開花する才能は、まだまだいくつもありそうだ。
GK ジャンルイジ・ドンナルンマ
[ミラン | イタリア代表 | 22歳]
一昨シーズンまではフィジカル能力の高さや体格の利を活かした“派手なプレー”が多かったが、チーム状態が右肩上がりの成長曲線を描き始めた昨シーズン後半からは身にまとうオーラが明らかに変わった。
重要な場面でビッグセーブを見せるスター性をはっきりと示しつつ、地味ながらプレーの選択が難しい場面でも丁寧かつスピーディな対応が光った。自身の安定感、チームに与える安心感という意味ではひと周り大きく成長した印象だ。すでにミラン退団を発表しており、その去就が大きな注目を集めている。
ベラルディやクリバリもベスト11に相応しい
最後に、惜しくも選外の選手たちについて。特に悩んだのは攻撃的なMF。ウディネーゼのロドリゴ・デ・パウル、アタランタのマッテオ・ペッシーナとマルテン・デ・ローン、ナポリのジエリンスキ、ラツィオのセルゲイ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチ、ローマのロレンツォ・ペッレグリーニも候補に挙げた。
さらにアタッカーではサッスオーロのドメニコ・ベラルディ、最終ラインではナポリのカリドゥ・クリバリもベストイレブンにふさわしいパフォーマンスを見せた。
※年齢はすべて2020-21シーズン終了時点。
文・細江克弥
1979年生まれ、神奈川県藤沢市出身。『CALCIO2002』『ワールドサッカーキング』『Jリーグサッカーキング』編集部などを経てフリーランスに。サッカーを軸とするスポーツライター・編集者として活動している。DAZNセリエA解説者。ジェフユナイテッド市原・千葉オフィシャルライター。
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