スパレッティの手腕あっての躍進
ナポリの勢いが止まりませんね。 セリエA20チームの中で唯一、開幕8連勝を飾りました。前評判は上のミラン、インテルなどを抑え、堂々の首位に立っています。
ここ数年、ナポリは常に好成績を残しています。今シーズンも上位争いを繰り広げる。それは容易に想像できました。
ただ、スタートからこれほどの強さを発揮するとは……。驚いているファンは多いでしょう。
かくいう私もそのひとり。ビッグサプライズとは言いませんが、多少なりとも驚いています。戦力的な観点で言えば、決してトップ評価を下していませんでしたから。
では、ナポリ好調の要因を考えてみましょう。まずは今夏に就任したルチアーノ・スパレッティ新監督に触れなければなりません。
スパレッティのキャリアを振り返ると、ある面白いデータが浮かび上がってきます。どのチームを率いても、就任もしくは再任初年度に必ずと言っていいほど好成績を残しているのです。
ウディネーゼでは再任1年目の2002-03シーズンに6位、ローマでは就任1年目の05-06に2位、再任1年目の16-17に2位、そして前職場であるインテルでは3位(17-18)というように。
これは私の勝手な憶測ですが、彼の個性、パーソナリティが大きく関係しているのではないでしょうか。
ユーモアに溢れる彼は、巧みな話術を駆使して周りを引き込むことが上手です。コメントひとつ取っても、月並みな、面白くない表現はほとんどありませんからね。
ナポリでも、彼のそういったポジティブな雰囲気が、ここまでプラスに作用しているのでしょう。就任わずか数ヶ月で、早くも選手のハートをがっちりと掴んだ様子がうかがえます。
そもそも監督としての能力は、疑いの余地はありません。それこそサッカーの知識で言えば、セリエAでもトップクラス。私はそう評価しています。
最大の持ち味は、臨機応変にスタイルを変更できる柔軟性です。ナポリでも持論を押しつけることなく、現有戦力を最大限に生かすシステムを採用し、なおかつ結果を出しています。
ナポリが最高のスタートを切れたのは、彼のそんな手腕に拠るところが大きいはず。本当に素晴らしい監督ですよ、スパレッティは。
オシムヘン覚醒の大きな要因は
とはいえ、当然ながらピッチに立つのは選手。指揮官がどれだけ優秀でも、選手が凡庸なら、良い成績を収めるのは不可能です。実際、ナポリには素晴らしい選手が揃っていますよ。
スパレッティにポテンシャルを引き出された選手は少なくありません。その筆頭が才能を一気に開花させたヴィクター・オシムヘン(下写真)です。
98年12月生まれのこのナイジェリア人アタッカーは、ここまで7試合に出場して5ゴールを決めています。セリエA2位の総得点(19)をマークしているナポリ攻撃陣にあって、彼はまさに軸となっています。
実は、私の彼に対する評価はそれほど高くありませんでした。たしか昨シーズンの当連載でも指摘した記憶があります。ナポリの攻撃陣の引っ張るには、まだまだ物足りないと。
身体能力が高く、将来性のあるアタッカーであることは、以前からも感じていました。ただ荒削りな部分が多く、コンスタントに得点を決めることは難しいだろう。そうジャッジしていましたね。セリエAは駆け引きに優れたディフェンダーが多いですから。
ところが、今シーズンはまるで別人ですよ。何よりそのプレースタイルに明らかな変化が見られます。
セリエA初参戦だった昨シーズンは、味方からボールが届くのを待っているような、消極的なプレーが多かった。それが今シーズンは、自ら動いてボールを引き出すなど、アグレッシブな姿勢が見られます。
われわれ監督の間では、そういったプレーを「ボールにアタックする」と表現するのですが、今のオシムヘンがまさにそう。自らボールにアタックしています。
攻撃スタイルの変化こそが、彼が今シーズン覚醒した大きな要因ではないでしょうか。そこには当然、スパレッティというスパイスが加わったと想像できます。
彼がこのままシーズンを通して活躍できれば、今シーズンのナポリは間違いなく、最後までセリエA優勝争いを盛り上げる存在であり続けるでしょう。オシムヘンこそがチーム浮沈の鍵。それに異論を挟む者は、それほどいないはずです。
もちろん、オシムヘンだけが優秀というわけではありません。例えば、今季フラムから加入したアンドレ・ザンボ・アンギサ。11月で26歳になるこのカメルーン代表は、強靱なフィジカルが売りのボランチです。
攻撃の芽を次々に摘んでいくスタイルで、もともとレベルの高かったナポリの中盤にさらなる上積みをもたらしました。加入ほどなくして主軸になった実力者で、個人的にはセリエA初参戦組の中で、最大の当たりと思っているくらいです。ナポリは本当に良い補強をしましたよ。
伝統的にお家騒動が多いクラブ
そのアンギサ加入もあり、ナポリの選手層はさらに厚みを増しました。昨シーズンまで絶対的な存在だったMFピオトル・ジエリンスキでさえ、今ではレギュラーの座が確約されていません。
サイドアタッカーに関しても、先発のマッテオ・ポリターノがピッチを退くと、代わりにメキシコ代表のイルビング・ロサーノが姿を現すといった充実ぶり。今のナポリはこんな贅沢な起用が出来るのです。
そこにケガから復帰したドリース・メルテンスに加え、ロレンツォ・インシーニェもいるわけです。選択肢が豊富ですよ。
ディフェンス陣で言えば、センターバックのカリドゥ・クリバリ(下写真)の働きが相変わらず光っていますね。彼はまさにナポリの守備の要。個人的には、セリエA最強ディフェンダーと評価しています。
そんなクリバリの活躍もあり、ナポリは開幕8試合で3失点しかしていません。当然、セリエA最少失点です。
リーグ史を紐解いても、頂点に立ったのは攻守のバランスが図れたチームばかり。その意味で、今のナポリにはスクデットを狙える材料がすべて揃っていると言えるでしょう。
ピッチ内では順調そのものですが、ピッチ外での要素が絡んだ時は落とし穴にハマるかもしれません。というのもナポリを含むイタリア南部のクラブは、ファンがとにかく熱狂的。チーム状態が良ければ、彼らの存在は大きな後押しとなります。が、問題は逆の流れのとき。
長丁場のシーズンですから、どんなチームにも調子が落ちる時期がやってきます。ナポリのファンには、そんな時も温かい目でチームを見守ってもらいたいですね。今季のようなチャンスは、めったに訪れませんから。
あとはクラブ全体が1つの目標に向かって、いかに一丸となれるか。ナポリは伝統的に、お家騒動が多いクラブですからね。
昨シーズンも、アウレリオ・デ・ラウレンティス会長と監督のジェンナーロ・ガットゥーゾが衝突し、チームに負の影響を与えたことがありました。今回はそんなつまらないことでチームの足をひっぱって欲しくないと願うばかりです。
ファンも含め、クラブ全体が一体感をもってチームを支えることができるか。それが実現したら、あのマラドーナを擁した89-90シーズン以来となる3度目のスクデットも夢ではないでしょう。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成: 垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
配信情報
セリエA第9節
ローマ対ナポリ
- 配信: DAZN
- 配信開始:日本時間10月25日(月)1時
- 会場:オリンピコ
アルベルト・ザッケローニのセリエA探究
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