この冬の移籍市場でアトレティコ・デ・マドリードに加入したDFヘイニウド・マンドヴァは、同クラブのスローガンである「ヌンカ・デヘス・デ・クレール（スペイン語で、信じることを決して止めるな、の意）」を体現する存在なのかもしれない。モザンビーク代表の左サイドバックは、並々ならぬ苦労を重ねて欧州を代表するクラブまでたどり着いていた。
「僕はとても貧乏な家庭に生まれた。ご飯を満足に食べられず、寝る場所だっていつもあるわけじゃなかった。自分には何もなかったし、距離がある場所にも歩いていった。だからこそ、僕は夢を叶えようとしたんだ」
『フランス・フットボール』に対して、自身の幼少期についてそう振り返ったヘイニウド。彼が叶えようとした夢……それはもちろんフットボールで成功を収めることだった。前所属先リールとのインタビューでは、自身がフットボール一家のもとで生まれていたとことを証言。「自分の家族はフットボールに傾倒していた。母は仕事がなく、父は選手として活動した後に監督となった。兄弟もプレーしていたね」。その中で父親は、本当は優しいからこそ、あえて厳しい目を息子に対して向けていたようだ。
「父に自分のプレーを見てほしいって言ったことがある。ノーって返されたよ。僕がそこまで良い選手じゃないからって。あれは僕を重圧から解放するために言ったことだった」
「次の日、父は木の後ろに隠れて自分を見ていた。僕が何ゴールも決めると、もう見るべきものは見たといった感じで、そこから立ち去ったんだ。その夜、彼は僕のところにやって来て、必死に努力するならプロ選手にもなれるって言ってくれたんだよ」
しかしながらヘイニウドが、プロ選手となった姿を彼に見せることはかなわなかった。父親は彼が11歳のときに他界している。
「彼はひどい病気にかかっていた。それでも僕がフットボールをプレーし続けるためのモチベーションを与えてくれたんだ。父が誇れる人間になることこそ、自分の目標だった」
固い決意を胸に秘めたヘイニウドは2012年、18歳の頃に母国のクラブ、フェロヴィアリオ・ダ・ベイラとプロ契約を結び、それから間もなくしてモザンビーク代表としてデビューも果たす。「誇り高いよ。何より、母のことを考えるとね。僕たちの生活は困窮していたんだ」。しかし、それから3年後、ヘイニウドは今度は母親とも別れを告げることになった。
「2015年は大事件が二つあった。一つはとても悲しくて、もう一つは幸せな出来事だ。僕は、母も失くした。少なくとも病院で、その最後に立ち会うことはできた。彼女は言ったんだ。全力で物事に打ち込んでいきなさいって。彼女の言葉は、僕の中に残り続けている。その後にあった素晴らしい出来事は、ベンフィカが5年契約を提示したことだった」
だがヘイニウドは、ベンフィカで失望を味わうことになった。ポルトガルの名門で、トップチームデビューすることは最後までかなわず。レンタル移籍を繰り返した後、2018年に完全移籍でベレネンセスに加入し、24歳6カ月でようやくポルトガル1部リーグでデビューを果たしている。
2019年1月、ヘイニウドはルイス・カンポス監督の目に留まったことでリールへと加入。モナコへ移籍したファド・バロ=トゥーレの後釜として期待されたが、最初の6カ月間は95分しか出場できなかった。それでもリールはこの左サイドバックの可能性を信じて300万ユーロの買い取りオプションを行使。そして昨季、リールで定位置をつかんだヘイニウドはリール・アン優勝に貢献する活躍を見せて、ついにブレイクを果たすのだった。
「僕は絶対的な選手になったことがないけど、少なくともいつだって闘ってきた。それが僕という人間の在り方なんだよ。出場するかどうかなんて、関係ない。毎日、懸命に働くことこそが重要なんだ。決してあきらめちゃいけない。違いを生み出すのは、頭の中にあるものなんだよ」
アトレティコに加入する前から「信じること決して止めない」ことを、アトレティコのDNAを体現してきた男、ヘイニウド。彼は、こうも語っている。
「まだ、最高の自分は見せられていないはずだ」
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