当連載で以前、日本代表監督時代の教え子であるサンプドリアDF吉田麻也についてお話ししましたね。今回はセリエAでプレーするもう1人の日本人選手、冨安健洋の可能性について語りたいと思います。
ご存じの通り、私は大の日本びいき。冨安と面識はありませんが、彼のプレーも格別の親しみを持って見守っています。
その冨安、ファンの最大の関心事は今、「ポジション」にあるのではないでしょうか?
セリエA1年目の昨季は、シーズンを通して右サイドバックで起用されていましたね。
麻也の回でも触れましたが、冨安を大切に育てたいボローニャの親心の現れだったと見ています。
1つのミスが致命傷となるセンターバックとは違い、サイドバックにはミスをしてもカバーしてくれるチームメイトが近くにいます。
セリエAの代名詞でもある、したたかなプレーに対して、まずはサイドバックで経験値を上げる。そういった狙いが監督のシニシャ・ミハイロヴィッチにあったと想像します。
センターバック起用では宝の持ち腐れに
そして迎えた今シーズン、冨安は満を持して本職のセンターバックに〝コンバート〟されました。
しかし年明け2戦目、1月6日の第16節ウディネーゼ戦でしたね。ミハイロヴィッチは冨安を右サイドバックで起用しました。
これには「冨安にセンターバックはまだ厳しかったか?」、「右サイドバックの方が適正?」と考えたファンも多かったのではないでしょうか。
私がまず強調したいのは、センターバック失格の烙印を押されたわけでは決してないということ。
心配ありません、冨安はセンターバックとしての資質をしっかりと備えています。
高さもありますし、危機察知能力も高いです。90分間、集中力が途切れることもありません。
セリエAはこれまで多くの優秀なセンターバックを輩出してきました。それでもミスを恐れ、ペナルティーエリア内で怖じ気づく選手は今も昔も一定数います。
とくに下位チームの選手によく見られる傾向ですが、冨安は違いますね。相手がどんな強豪チームでも、ミスを恐れず、果敢に挑んでいきます。
献身的でもあります。チームのため、そしてチームメイトのため、自己犠牲を払うことに何のためらいもありません。
そして何より素晴らしいのが、彼の自ら率先してプレーする積極性。その姿勢こそが、ミハイロヴィッチに再び右サイドバックでの起用を決断させる大きな要因になったと考えています。
なぜならその最大の魅力が、センターバック起用では宝の持ち腐れになってしまう嫌いがあるからです。
もちろん、プレーするチームにもよるでしょう。センターバックでも、戦術やシステムによっては、攻撃のイニシアチブをとれるチームはあります。
ただ、ボローニャでは現状、そういうプレーは求められていません。
冨安自身もセンターバックだと積極性を存分に発揮できず、少し息苦しく感じていたのではないでしょうか。
繰り返しますが、冨安はセンターバックとして必要なクオリティをすべて高いレベルで有しています。
その素質に加えて、90分間、常にゲームに参加し続け、自ら仕掛けるプレーも繰り出せる。
そんな素質を持った選手を、センターバックだけで起用するのは少しもったいないのでは……。そう考えてしまうのは、私だけでしょうか。
いや、ミハイロヴィッチもきっと私と同じ考えのはず。冨安を右サイドバックに戻したのは、おそらく彼のポテンシャルを最大限に引き出したいという狙いからでしょう。
昨シーズンよりレベルアップしている
今後も冨安を右サイドバックで起用したいと思う監督は出てくると思います。彼の高いクオリティを考えれば、それも当然でしょう。
裏を返せば、両ポジションを高いレベルでこなせる貴重な存在だということ。何よりまず、セリエAで継続的にプレーができていることが大きいです。
継続的にプレーしていることで、昨シーズンよりレベルアップしているのは誰の目にも明らかですね。
レベルアップできた理由もまた明確です。セリエAで十分にやっていける自信を身につけたからに他なりません。
彼の性格は分かりませんが、ファウルも恐れず相手に向かって行く姿勢を見るかぎり、変な遠慮はまったくないですね。
自ら率先してプレーする能力も、セリエAでさらにブラッシュアップされているように見受けられます。
どの場面でリスクを負うべきか、最小限に止めるべきか。そういった状況判断も素晴らしいです。
技術も言うまでもなくしっかりしている印象です。派手なプレーはありませんが、ミスがほとんどありません。
常にフェアプレーを心がけていて、見ていて気持ちが良いですよ。
チームメイトは冨安にかなり助けられていることでしょう。ボローニャではもはや不可欠な存在にまで成長しました。
私が監督なら冨安獲得をリクエスト
インテルのマッテオ・ダルミアンと印象が少し重なる部分があります。かつてマンチェスター・ユナイテッドに所属していたイタリア代表DFです。
ダルミアンは今でこそサイドバックとして鳴らしていますが、もともとはセンターバックが本職。彼も冨安同様、献身的なプレーヤーです。
彼らのように思いやりに溢れた選手は、どんな監督も手元に置いておきたいと思うもの。
かくいう私もそのうちの1人です。私がどこかの監督なら、冨安の獲得を間違いなくリクエストするでしょうね。
まだ22歳。経験値をどんどん上げて、今後はさらなるステップアップも期待したいところ。空中戦の強さも大きな魅力ですし、今後はゴールもきっと決めてくれるでしょう。
近い将来、ユヴェントス、インテル、ミランといったビッグクラブが彼の獲得に動いたとしても、私は驚きませんよ。
フランツ・ベッケンバウアーのような…とまでは言うつもりはありません。それでも冨安がレベルの高いプレーヤーであることは紛れもない事実。
今後の成長がますます楽しみです。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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