【ライバルウィーク特集コラム】今季未だ無敗の新潟。強化の成功と絶大な存在感を放つ千葉和彦、そして進化を遂げる「試合を支配するサッカー」｜Jリーグ

アルベルト監督体制2年目のアルビレックス新潟が、開幕からJ2首位を走り続けている。

ここまで10勝2分で12戦負けなし。スタートダッシュの過去最高記録は99年の開幕7連勝（8節で黒星）。開幕からの「負けなし」記録は、第8節から毎試合更新し続けている。得点数はリーグ最多の「31」。1試合平均2.58点を取れている計算だ。また12試合中6試合を完封。失点数は「9」で、FC琉球の「7」に次ぐ少なさだ。

指揮官がこだわる「ボールを保持することで、試合を支配するサッカー」を徹底して貫き、勝点を積み上げ続けている。目指す内容に結果が伴う、理想的な形だと言えるだろう。

強化の成功と千葉和彦の存在

強さを支える基盤は、文字通り“強化”の成功にある。

4チームが降格する今季を見据え、アルベルト監督と強化部が重視したのは「適応力」。目指すプレースタイルを1年かけて叩き込んだ選手をまずは慰留し、攻守における課題を解消できる選手の獲得に動いた。「パスサッカーができる技術があり、チームプレーができる選手」、「外国籍選手は、すでにJ2に適応している選手」といった基準のもと、新卒3名を含む新加入選手9名は、結果的にすべて日本人となった。

これが奏功し、キャンプからピッチ内外で積極的にコミュニケーションが進んだ。

ベテランFW鈴木孝司はチームを勝たせるためのゴールにこだわり、試合ごとに映像を見ながらパスの出し手と意見のすり合わせを続けてきた。MF高宇洋は中継役として周りとの理解を深めるため、食事のときは毎回違う選手ととるように心がけていた。これらは一例だが、チームのために主体的かつ献身的に動ける選手が揃ったため、フィットするのは早かった。

その中でも絶大な存在感を放つのは、ピッチ内外で抜群のバランス感覚を持つDF千葉和彦だ。指揮官も「彼のJ1での活躍やタイトル獲得という実績を見れば、どれだけ偉大な選手か分かる。新潟に戻って来て、初日からポジティブな影響を与えてくれていることを評価しているし、感謝している」と信頼を置く。

ムードメーカーとして知られるが、「千葉さんはとにかく空気を読める。ゆるんだ空気があると察して引き締めてくれるし、いい声がけをして、チームの雰囲気をよくする方向に持っていってくれる」（MF高木善朗）。試合中は「ブラボー」と味方の好プレーを褒め、伸び伸びとプレーできるように促す。第10節・愛媛FC戦（○2-0）で退場したMF三戸舜介が、試合後に泣きながらピッチに出てきたのを見ると、すかさず周りを巻き込んで胴上げで励ました。

進化を遂げる「試合を支配するサッカー」

また、チームが目指す「ボールを保持することで、試合を支配するサッカー」は、彼の加入によってアップグレードされた。

最終ラインで、まずボールを失わない。ボールを失わなければ守備をする時間も減り、失点も少なくなる。相手のプレッシャーも冷静にかわし、CBの位置から相手陣までボールを運ぶこともできる。

「自分がボールを受けに下がらなくても前に運ばれてくるから、攻撃に専念できる」と明かすのは、「4-2-3-1」のトップ下で6得点9アシストと結果を出している高木。これまで出場した3列目より前の選手全員が得点しているのは、攻撃に関わる人数が増えた象徴と言える（ちなみに千葉自身は、CKから2得点している）。

必然的に、ビルドアップの起点として活躍する千葉へのプレッシャーは試合ごとに厳しくなっているが「相手が前からガンガン来るなら、それをはがせばチャンス。前半はいいけれど、後半は続かないと思う」とポジティブに捉える。

愛媛戦では数的不利で耐えていた88分に、第11節・ジェフユナイテッド千葉戦（○2-0）では相手のペースになりかけていた63分に、いずれもMF本間至恩へ入れた縦パスがスイッチとなって、相手の心を折る追加点が生まれている。難しい時間も焦れずにボールを持ち、勝機を見極めた鋭いパスで流れを変えることができるのだ。

一方で、課題も冷静に見据えている。第12節・大宮アルディージャ戦（○3-2）では、背後を突かれてカウンターから2失点を喫した。「できるだけラインを高く保って相手陣地で戦いたいが、リスク管理も同時に考えなければいけない。そこが甘かった」。ただこれに関しても、捉え方はポジティブだ。

「改善点がはっきりしている分、修正もしやすい。そこは（第13節）松本戦でも気を遣いながら、でも点を取りにいくというバランスで戦いたい」。

これまで喫した失点はカウンターから5、セットプレーが3、流れが1。攻撃的なスタイルを貫くために、そこを突き詰めることで、チームはさらに強くなる。

強化の成功をベースに、チームの成熟と課題の改善を進める新潟。さらなる好材料は、負傷離脱中の選手の復帰だ。GK小島亨介、MF福田晃斗、DF長谷川巧らは着々とリハビリを進めている。夏の“補強”も視野に入れながら、新潟はさらなる成長を目指す。

文・野本桂子

新潟生まれ、新潟育ち。広告代理店の企画営業、タウン情報誌の編集長などを経て、2011年にフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始し、16年からサッカー専門新聞「エルゴラッソ」新潟担当、サポーターズマガジン「ラランジャ・アズール」編集担当となり、番記者として日々取材に足を運ぶ。16年から新潟U-18も継続的に取材。