リーグタイトルと昇格を懸けて臨む頂上決戦だ。
首位を堅持するサックスブルーは、J1昇格ラインと言われる勝ち点80に到達し、5試合を残して昇格王手まで来ている。
ただ、条件は少し複雑だ。磐田が勝利しても、3位のV・ファーレン長崎が引き分け以下で終わらなければ次節以降に持ち越し。仮に今節をドローで終えた場合は、長崎が負けて、4位のヴァンフォーレ甲府が引き分け以下に終わらなければ、歓喜の瞬間は訪れない。他会場の結果を気にしつつ、固唾を呑みながら見守る一戦となりそうだ。
週末の第38節は、中3日の3連戦における3試合目となる。ここまでの2戦は、敵地での連戦とあって最大の試練を迎えていた。その前の第34節・栃木SC戦（1△1）、第35節・愛媛FC戦（2△2）と残留争い組に足踏みが続き、第36節の大宮アルディージャ戦ではリーグトップスコアラーを走るFWルキアンが出場停止。さらには天皇杯大分トリニータ戦から鈴木政一監督が体調不良で欠場し、急遽服部年宏ヘッドコーチが指揮を務めるという非常事態にも見舞われた。
ここで成績をガクッと落とせば、3位以下と差があるとは言え、嫌な流れにもなりかねかった。しかし大宮戦は、先制される苦しい展開を強いられた中でも土壇場でMF山田大記の逆転弾で劇的勝利。主導権を握られる我慢の時間が長かった前節のアルビレックス新潟戦も、数少ないチャンスをMF遠藤保仁のアシストからFWルキアンが決めてウノゼロ勝利で乗り切った。どちらの試合も、勝負際を逃さないゲーム運びに首位としての貫禄を感じさせた。
「ベストは優勝して昇格すること」
この2試合が象徴するように今のサックスブルーはとにかく勝負強い。特に5度の逆転勝利を掴んできた後半戦は、先制されても動じる素振りを一切見せなかった。余裕すら感じさせる大人なサッカーで、リーグ中断明け以降から14試合連続で負けなし。この間にライバルたちとの差を大きく広げて、昇格をほぼ現実的なものとした。
何よりも結果を伴わせてきたことが大きな自信にも繋がっている。
「逆転勝利があることで1点を取られても慌てない。やっている選手たちは余裕というほどの余裕はないけど、慌てなくなったことで余裕にも繋がっているのかなと思う」（DF大井健太郎）。
だから、ここで迎える京都との大一番も普段と変わらない。「先制点はどの試合でも大事だけど、もし先に点を取られても逆転するだけの余裕はあると思います。慌てずに90分間通して最後に勝てるようにしていきたい」とは大井の言葉。いつも通りのパフォーマンス、いつも通りの平常心。そして一戦必勝で2位の京都を倒すだけだ。
J2とはいえ、リーグタイトルは大きな意味を持つ。数々のタイトルを獲得してきた2000年代初期の黄金期の頃と比べれば、J2のタイトルは霞むかもしれない。それでも最後の最後でJ1参入プレーオフに回り瀬戸際でJ1残留を決めた18年、屈辱的なJ1最下位で降格を味わった19年、そして異例な過密日程の中で新たな挑戦を目指しながらも結果的には昇格レースから早々に脱落した昨シーズン。近年、不遇の時期を過ごし、ことタイトルに限れば、2010年以来遠ざかっている。やはり、サポーターにとっては、格別な思いを味わいたい気持ちは強いはずだ。
「ここ数年間、良い思いをさせてあげられなかったサポーターの皆さんと共に喜び合えるチャンスだと思います。ベストは優勝して昇格すること。そこを目指して戦っていきたい」（大井）。
昇格が決まる可能性のある大事な一戦で、勝てばタイトルにも大きく前進する。そのためにも「まずは京都戦を勝って笑えるようにしたい」（大井）。11年越しのタイトル獲得に向けて、サックスルブルーは王者に向かってひたすら突き進む。
文・森亮太
1990年、静岡県出身。静岡県を拠点にフリーライターとして活動中。2018年からは、サッカー専門新聞「エルゴラッソ」にてジュビロ磐田、アスルクラロ沼津の番記者を担当している。
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