チームを支える“恩送りの精神”
「恩送り」という言葉がある。誰かから受けた恩を、自分は別の人に送り、そしてその送られた人がさらに別の人に渡す。そうすると、「恩」が世の中をぐるぐる回ってゆくという社会の正の連鎖が起きる。名古屋グランパスの選手たちに「どうしてここまで守備が機能しているのか」と聞くにつれ、この恩送りの精神を思い出す。
開幕から10試合を終えて8勝2分で2位につけているグランパス。好調の要因は紛れもなく守備面の充実にある。10試合で失点は開幕戦のオウンゴールによる1点のみ。現在9試合連続無失点、継続時間も818分とJ1の記録を更新中で、まさにJリーグ史上最強の守備と言っても過言ではあるまい。
その守備に焦点を当てる時、最も注目されるのが守護神と称されるGKだろう。
名古屋ではGKランゲラックが今季も全ての試合でゴールマウスを守っているが、フィールドのすべての選手が口にするのは「例えシュートに持ち込まれても最後にはミッチ(ランゲラック)がいるから」という言葉。ランゲラックの存在感や安定感、そして的確なコーチングが無失点で試合を終えられる要因の一つに挙げられる。
しかし、ランゲラックに話を聞くと「無失点は私よりも前の選手たちのおかげ。マル(DF丸山祐市)やシン(DF中谷進之介)を中心に、DFラインがきっちりと仕事をしてくれることで、いい結果を残せている」と語る。DF陣が体を投げ出してのシュートブロックや、コースを限定してくれるおかげで、ランゲラックも的確な位置で守ることができると言う。
そのDFラインを統率する丸山は「ヨネ(MF米本拓司)やショウ(MF稲垣祥)があれだけ走ってくれたら、僕たちの仕事は楽って言ったら変ですけど、楽をさせてもらっています(笑)」と、さらに一列前のダブルボランチが堅守の要因だと説明する。
ピッチのカバーエリアがとてつもなく広い二人は、ボールを奪い取ることを得意としつつ、もし自分がボールを取れなくても、後ろの選手が奪いやすいようにボールホルダーの力を削ぐことができる。CBが真ん中から釣り出されない状況をダブルボランチが作っているおかげで、CBは相手の攻撃に対し常に有利な状況を保つことができている。
それでもダブルボランチの一角を担う、日本代表の稲垣に言わせれば「前線があれだけハードワークしてくれるおかげで、僕たちはボールを奪いやすいし、マテちゃん(MFマテウス)やMF相馬(勇紀)はピンチとなれば、最終ラインにまで戻って守備をしてくれる」と、前線の献身的な守備への参加が相手の攻撃を抑えられている要因だと話す。
CFのFW山﨑凌吾もFW柿谷曜一朗もFW前田直輝もボールを2度追い3度追いして相手にどんどんプレッシャーを掛け、後ろが守りやすいようにプレー。そしてこの守備の恩送りはGKランゲラックの下へと戻る。
チームのために全力を尽くしてプレーをする
もちろん、これほどまでに守備の意識を根付かせたマッシモ・フィッカデンティ監督の手腕は殊の外大きい。細部にまでこだわったポジショニングの指示で、徹底的なリスクヘッジを敢行。交代策も相手がパワープレーで来そうならDF木本恭生を、ボールを繋いで来そうならMF長澤和輝を逃げ切りの切り札として用意できている(先発として出場する場合もあるが、その時は交代者がその役を任されている)。
昨季は負傷者が多く、先発の入れ替えもほとんど見られなかった。だが、今季は戦力も充実し、主力を固定化せず、ある程度休ませながらシーズンを戦うことができているのも堅守を保てている要因だ。
更にはこのイタリア人指揮官が、過密日程の中でもしっかりと相手を分析し、戦術を綿密にチームに落とし込んでいることも大きい。第9節・大分トリニータ戦では、前半に相手の攻勢を受ける時間もあったが、「相手がどう攻撃を仕掛けてくるか、あらかじめ分析した通りでそれほどサプライズではなかった」(稲垣)と、その分析結果が試合に大きく影響を与えている。
2~3試合ならまだしも9試合連続無失点となれば、単純なシステムや要因で語れるものではない。去年から積み上げてきた守備への取り組みがベースとなり、そこに加わった新しい力が、チームのポリシーをリスペクトしつつそれに合ったプレーをするなど、複数の要因が積み重なって成し遂げられていることが分かっていただけるだろう。
ただ、その根底にあるのは、選手一人ひとりが“プレーを出したい”というエゴではなく、チームのために全力を尽くしてプレーをしているということ。お互いを信頼し合っているからこそ、1-0や0-0という厳しい局面でも耐えられているように感じる。もちろん、それは他のチームも同様にやっていることだろうが、今季の名古屋はそのクオリティが高く、こだわりが半端ない。
そして、最後に記しておきたいのは、これもほとんどの選手が最近口にする言葉。
「無失点記録を伸ばしていくことが第一優先ではなく、僕たちがこだわっているのは試合に勝つこと」(稲垣)
記録はいつか途切れる。それを念頭に置いて、その時が来ても落胆せず、どこまでこの無失点が続くのかを楽しみたい。
文・斎藤孝一
1965年、愛知県生まれ。テレビカメラマン、ディレクターとして活動後、2017年にスポーツジャーナリストに転身。現在はサッカー新聞エルゴラッソで名古屋・岐阜を担当する他、専門誌などで連載執筆中。
2021 Jリーグ関連ページ
J1 試合日程 | 配信・放送予定
4月18日(日)15:00 名古屋グランパス vs サガン鳥栖(J1)
もはや代名詞ともいえる今季5度目のウノゼロでサンフレッチェ広島を退け、J1記録の連続無失点試合を9に伸ばした2位の名古屋。連続無失点時間もJリーグ記録の818分に更新し、歴史的な堅守を披露している。29日に控える川崎フロンターレ戦に向け、3連勝で勢いを加速したいところだ。
対する鳥栖は14日のガンバ大阪戦に敗れ、ここ4試合で3敗目。とはいえ、開幕から6試合連続で無失点を記録した守備は依然複数失点がなく安定している。ともに堅守で鳴らす名古屋との一戦。GKランゲラックの牙城をこじ開け、勝利を手にすることができるか。
日時 | 対戦カード | スタジアム | 配信・ 放送予定 |
---|---|---|---|
4月16日(金) 19:00 | 北海道コンサドーレ札幌 vs 横浜F・マリノス | 札幌ド | 1-3 |
4月17日(土) 14:00 | 横浜FC vs ベガルタ仙台 | ニッパツ | DAZN |
4月17日(土) 14:00 | 徳島ヴォルティス vs 鹿島アントラーズ | 鳴門大塚 | DAZN |
4月17日(土) 14:00 | アビスパ福岡 vs FC東京 | ベススタ | DAZN |
4月17日(土) 14:00 | 大分トリニータ vs 柏レイソル | 昭和電ド | DAZN |
4月17日(土) 15:00 | 湘南ベルマーレ vs ヴィッセル神戸 | レモンS | DAZN |
4月18日(日) 14:00 | 川崎フロンターレ vs サンフレッチェ広島 | 等々力 | DAZN |
4月18日(日) 15:00 | 名古屋グランパス vs サガン鳥栖 | 豊田ス | DAZN |
4月18日(日) 15:00 | セレッソ大阪 vs 浦和レッズ | ヤンマー | DAZN |
4月18日(日) 17:00 | ガンバ大阪 vs 清水エスパルス | パナスタ | DAZN |
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