最優秀監督:ジョゼップ・グアルディオラ
プレミアリーグ全日程の三分の一が消化した段階では、5勝5分2敗。首位リヴァプールと8ポイント差とはいえ、レスターに完敗したり、リーズやウェストハムに勝てなかったり、マンチェスター・シティは先行き不安だった。
前からプレスがかからない、ボールがつながらない、動けない……。ひとつの時代が終焉を迎えた、との指摘も少なくはなかった。
しかし、元来は完成度が高いチームである。選手個々のコンディションが上向くにつれ、本来の姿に戻っていった。13節以降の24試合は21勝3敗。他を寄せ付けない圧倒的な強さで、最終節を待たずに2シーズンぶり7回目のリーグ優勝を決めている。
窮地に陥っても、公の場で選手を批判しない。セルヒオ・アグエロが負傷のために戦列を離れると、ケヴィン・デ・ブライネ、ラヒーム・スターリング、フィル・フォーデン、ベルナルド・シウヴァなどを前線に起用する “偽9番” を導入。ピンチを強みに代えた。
世界中の戦術愛好家を虜にする “カンセロロール” も、非常に斬新なアイデアだ。
シティの優勝を語るうえで、ペップ・グアルディオラ監督の功績は絶対に見逃せない。序盤戦はシティらしからぬ低調が続いたものの、ブレることなく攻撃的フットボールを貫いた。みずからの哲学と、みずからが集めた選手たちを信じたからこその成功だ。
しかも、シーズン中に次のフェイズに移行したかのような次元の高さまで見せつけたのだから、他チームは早々に白旗を掲げるしかなかった。リーグカップと合わせすでに二冠。悲願のチャンピオンズリーグ獲得に向け、グアルディオラ監督とシティの挑戦はまだまだ続く。
MVP:ブルーノ・フェルナンデス
少しは休んだ方がいいんじゃないかって、正直思う。えぇ、また先発!? 残り15分しかないのに途中出場!? 彼は、意気揚々とピッチに躍り出る。
「おいおい、年寄扱いするなよ。僕はまだ26歳なんだ」
メディアの不安をよそに、ブルーノ・フェルナンデスはきょうも楽しそうにプレーしている。
本稿執筆時点で、18ゴール・11アシスト。ユナイテッドの総得点70のうち、41.4%に関与している。年間最優秀選手にふさわしいデータだ。オーレ・グンナー・スールシャール監督にすれば、「神様・仏様・フェルナンデス様」である。極上のワインを1ダース贈っても……いや、3ダースは必要だろうか。いやいや、高級車か城のような邸宅か。
B・フェルナンデスはつねに動いている。つねに考えている。左サイドでポール・ポグバとの連携をエンジョイし、ルーク・ショーの攻撃参加をうながす。右サイドではアーロン・ワン=ビサカに的確な指示を送り、メイソン・グリーンウッドのスピードを最大限に生かす。エディンソン・カバーニとアイコンタクトした瞬間、相手DFが無力となる決定的なパスを出す。
しかも昨年1月の入団以来、パフォーマンスの落差が少ない。オーバーワークで運動量が落ちるケースは稀にあるが、試合では必ずといっていいほどビッグチャンスを2、3回は創る。
いまやユナイテッドは、B・フェルナンデスのチームといって差し支えない。
クリスティアーノ・ロナウド(ユヴェントス)がレアル・マドリードに移籍した後、サポーターが絶大な信頼を寄せるスターはひとりもいなかった。しかし、偉大なる先達と同じスポルティングからやって来たB・フェルナンデスは、有観客となる37節(日本時間18日2時キックオフのフラム戦)オールド・トラッフォードでは万雷の拍手で迎えられるに違いない。
最優秀新人:ルベン・ディアス
いきなりフィットできるリーグではない。プレー強度の高さは世界一で、あのユルゲン・クロップ監督(リヴァプール)ですら舌を巻くほどだ。
「1週間かかっても疲労から回復しない選手がいる。他のリーグでは考えられないことだ」
昨シーズンはトッテナムのタンギ・エンドンベレが、今シーズンもリヴァプールのチアゴ・アルカンタラ(新型コロナウイルス感染は気の毒だったが……)が、プレミアリーグに適応するまで時間がかかった。ユナイテッドのドニー・ファン・デ・ベークは、まだ戦力になっていない。
ところが、シティのルベン・ディアスは瞬く間にフィットした。ジョン・ストーンズとともに鉄壁のセンターバックを形成し、彼らを軸とするDF陣は現時点でクリーンシート14回を記録。昨シーズン、フィルジル・ファン・ダイクを筆頭とするリヴァプールが記録した15試合まで、あと1に迫っている。
さて、R・ディアスは強く高く、パスセンスにも優れたモダンなCBである。快足ではないが、的確な状況判断でスピード型FWとの一対一にも後れを取らない。また、類稀な向上心とリーダーシップは、グアルディオラ監督が「将来のキャプテン候補」と期待するほどだ。
すぐれたCBで、しかもチームリーダー。かつてのキャプテン、ヴァンサン・コンパニ(現アンデルレヒト監督)をイメージできる。シティは長らく、物言えるリーダーを欲していた。無言実行型ではなく、コンパニのような現場のスポークスマンが必要とされていた。
シティにやって来たばかりのR・ディアスが、多くのピースを埋めつつある。今シーズンの最優秀新人は、彼をおいて他にない(※編集部のリクエストにより、同一クラブによる3部門の独占を回避)。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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