二強に追いつく勢力が現れる確率はゼロ
世界最強にして、史上最高のライバル争いである。
フットボールを生業として三十余年、プレミアリーグのオーディオ・コメンタリーを仰せつかって四半世紀が過ぎたが、リヴァプールとマンチェスター・シティのつば競り合いほど美しく、ハイレベルな闘いはかつてなかった。
リヴァプールのユルゲン・クロップ監督がポゼッションを採り入れれば、シティのペップ・グアルディオラ監督はゲーゲンプレスを研究する。お互いに意識していることは明白で、だからこそ両チームの一戦には緊張感が漂い、エンターテインメント性にも満ち溢れていた。
そして2022－23シーズンのプレミアリーグも、リヴァプールとシティが究極の優勝争いを演じるに違いない。アーセナルとトッテナムが的を射た補強を図っているとはいえ、完成度は雲泥の差だ。
チェルシーは強化部門を仕切っていたマリアナ・グラノフスカヤCEOが退任し、市場における動きが鈍くなった。マンチェスター・ユナイテッドは、例によってすべてが遅い。二強に追いつく勢力が現れる確率は、「ゼロ」といって差し支えない。
リヴァプール攻撃陣の破壊力はリーグ随一
リヴァプールの補強は相変わらず迅速だった。退任したマイケル・エドワーズに代わり、ディレクターに就任したジュリアン・ウォードは、ダルウィン・ヌニェスとの契約を素早くまとめている。アーセナルやユナイテッドと競合しても慌てず騒がず、クラブの理念を熱く語りかけて口説き落としたという。
およそ7500万ポンド（約124億円）もの移籍金、バイエルンに去ったサディオ・マネの後釜、プレミアリーグ特有のプレー強度など、ヌニェスの前に立ちはだかる障壁は少なくない。
しかし、今年1月の市場で獲得したルイス・ディアスが即フィットしたように、リヴァプールのスカウトは凄腕だ。ヌニェスも馴染むまでに多くの時間を必要としないのではないだろうか。モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノ、ディオゴ・ジョタ、ルイス・ディアスと構成する攻撃陣はリーグ随一の破壊力を有している。
(C)Getty Images
シティの前線はスピード感を失った
一方、シティはドルトムントからアーリング・ハーランドを補強している。194cm・88kgの頑丈な体躯はプレミアリーグ向き。今後10年のフットボール界で最も活躍が期待される逸材だ。守備意識が高く、運動量も豊富であるため、グアルディオラ監督が要求するスタイルにも適応できる公算は非常に大きい。
しかし、ラヒーム・スターリングがチェルシーに、ガブリエウ・ジェズスがアーセナルに移籍したため、前線はスピード感を失った。ジャック・グリーリッシュとフィル・フォーデン、今シーズンはウイングでの起用が増える公算大のベルナルド・シウバ（バルセロナから送られる秋波に心が揺らいでいるとも……）が優美なテクニックで貢献するとはいえ、スターリングやG・ジェズスほど速くはない。
ここが今シーズンの、7月30日（日本時間31日）のコミュニティ・シールドの見どころではないだろうか。完成度では甲乙つけたがたいといっても、攻撃陣の質、選手層ではリヴァプールがやや上だ。もちろん、シティも市場に網を張り巡らせ、ウェストハムのジャロッド・ボーウェンを筆頭にウイングの獲得を目論んでいる。
カタール・ワールドカップを控える今シーズンは11月12日に中断し、ボクシングデイに再開する異例すぎる日程だ。シーズン全体の予想は非常に難しい。
すでに準備万端のリヴァプール。わずかながら不安を抱えるシティ。現時点の僅差は一気に縮まるのか。あるいは意外な大差に拡がるのか。
文・ 粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
粕谷秀樹のNOT忖度
放送・配信予定
- 配信： DAZN
- 解説：水沼貴史 実況：安井成行
- キックオフ：日本時間7月31日（日）1:00
- 会場：キング・パワー・スタジアム
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