ようやく本来のポグバが
4試合で7アシスト、である。このペースを維持できれば、年間60アシスト以上が可能だ。ティエリ・アンリ(元アーセナル)とケヴィン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ)の20アシストをはるかにしのぐ、プレミアリーグ新記録の達成だ。
「寝言は寝てから言え」
「こんなハイペースが続くはずない」
「どうせ、いまだけさ」
厳しい声が聞こえてくる。
まぁ、言いたいヤツには言わせておけばいい。マンチェスター・ユナイテッドのポール・ポグバが、上々のスタートを切った。
躍動感にあふれている。表情が生き生きとしている。相手ボールになった際のリアクションも素早く、鋭い。ユヴェントスから復帰して6シーズン目、ようやく本来のポグバが戻ってきたような印象だ。
復調の要因として、ブルーノ・フェルナンデスが挙げられる。彼がスポルティングから加入する20年1月まで、ポグバは攻撃のすべてを仕切らなくてはならなかった。起点となり、決定的なパスを出し、シュートまで決める……。
そんな芸当、だれができるっていうんだ!? 個の質が不足していた当時のユナイテッドは、ポグバが抑えられるとなにもできなかった。
「ブルーノとはすぐに同じ絵が描けた。楽しいよ」
ポグバみずからが語ったように、B・フェルナンデスは救いの神といって差し支えない。この男の加入によってポグバに集中していたマークが散らばり、ある程度の自由が得られた。スペースと考える時間が少しでもあれば、決定的な仕事ができる。
危機感が芽生えたのではないか
オーレ・グンナー・スールシャール監督が試合ごとの方法論を持っていないため、ユナイテッドは依然として好不調の波が激しい。チャンピオンズリーグ第1節のヤングボーイズ戦は、35分でアーロン・ワン=ビサカが退場になったとはいえ、一切の言い訳が許されない惨めな敗北だった。
しかし、B・フェルナンデス加入後のポグバはパフォーマンスが格段に上向いている。気合いも充実し、長いリーチを活かしたボール奪取でも貢献している。サッカー選手としてのセンスはだれもが認めるところであり、ムラッ気さえ解消すれば、攻守にわたってより大きな存在になれる男だ。いやいや、なってしかるべきだ。
したがって、冒頭で触れた4試合・7アシストを大げさに扱ってはいけない。ポグバなら朝飯前。「驚きなさんなって」である。
B・フェルナンデスに続き、エディンソン・カバーニ、ジェイドン・サンチョ、ラファエル・ヴァランと、ユナイテッドはハイクラスの選手を次々に獲得している。この夏にはクリスティアーノ・ロナウドまでやって来た。
この補強に、ポグバはいたく刺激されている。ユナイテッドに復帰した頃とは異なり、メジャータイトルを狙える陣容だ。クラブの野心が明確に感じられる。
しかも、ポグバのポジションは約束されていない。二列目の左サイドはサンチョ、マーカス・ラッシュフォード、メイソン・グリーンウッドとライバルが揃い、中盤センターでは一番手だが、守備力重視の一戦ではスコット・マクトミネイとフレッジが優先される公算が大きい。
ポグバの尻に火がついた。ポジションを争うライバルがいない当時の彼は、自分で限界を定めていた印象がある。「この程度で大丈夫さ」と、力を出し切らないケースも少なくはなかった。
しかし、今シーズンの序盤戦は手を抜いていない。プレー強度も及第点だ。「半端なことをやっていると、ポジションがなくなる」と、危機感が芽生えたのではないだろうか。同じフランス人でもアントニー・マルシャルとは……言うまい、言うまい。
気持ちが残留に傾いてきた
前述したように、才能はだれもが認め、だれもが憧れている。唯一の課題は甘ちゃん体質、そう、精神面といわれ続けていた。いま、ポグバはみずからにも厳しくなろうとしている。
191cmの長身を利した空中戦の強さには定評がある。長いリーチを活かし、いとも簡単にボールを奪い取る。長短、緩急を巧みに使い分けるパス能力は天下一品。30メートル前後のロングシュートも決めてみせる。
精神面が充実しているときのポグバは、息を呑むようなプレーでサポーターを、メディアを楽しませてきた。
間違いなく、この姿こそがポール・ポグバなのだ。
ユナイテッドの低調も災いし、遠すぎるほどのまわり道をしたものの、ようやく真の評価をつかもうとしている。28歳、円熟の境地を迎えたいま、B・フェルナンデスとの連携はより磨かれるに違いない。
C・ロナウドと同じ絵を描く可能性も十分にある。「もうウキウキしているんだ」と、12年ぶりに帰還したスーパーヒーローとのコラボをポグバ本人も楽しみにしていた。
エージェントを務めるミーノ・ライオラが、何度となくユヴェントスへの復帰をチラつかせる。バカバカしい。イタリアの名門に、ポグバの週給29万ポンド(約4350万円)を支払う経済力がどこにあるというのだ。
レアル・マドリードやパリ・サンジェルマンが興味津々? タブロイド紙の戯言だ。笑わせるぜ。
ユナイテッドの補強戦略により、ポグバの気持ちが残留に傾いてきた。現行の契約は来年6月末日に満了を迎えるが、近日中に複数年の更新との見方が、イングランド主要メディアでも大半を占めつつある。
ポグバ覚醒――。君に期待するサポーターとフットボールに対し、とことん誠実であれ。
文・ 粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
配信情報
プレミアリーグ第5節
ウェストハム対マンチェスター・U
- 配信: DAZN
- 配信開始:日本時間9月19日(日)22:00
- 解説・実況:水沼貴史、野村明弘
- 会場:ロンドン・スタジアム
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