言い尽くされた表現だが、末恐ろしい若者である。
まだ20歳だというのに、公式戦119試合に出場し、29ゴール・21アシスト。リーグカップ4回をはじめ、プレミアリーグとコミュニティシールドが2回ずつ、FAカップも勝ち取っている。ちなみにトッテナムのハリー・ケインは、クラブレベルの公式戦396試合で235ゴールを奪っているにもかかわらず、彼のキャリアにタイトルは一度も刻まれていない。
「われわれマンチェスター・シティの未来である」
ジョゼップ・グアルディオラ監督が絶賛した。
「私の後継者。期待しているよ」
昨シーズン限りでシティを退団したダビド・シルバが目を細めていた。
フィル・フォーデン、である。
決して美形ではない。可愛いってほどでもない。ビジュアルはごく普通の20歳だ。しかしピッチに現れた瞬間、彼は人を惹きつける。繊細なボールテクニック、類稀なゲームビジョン、大胆なアイデア……。普通の20歳が特別な少年に変貌を遂げる。
しかもシティで、ケヴィン・デ・ブライネ、イルカイ・ギュンドアン、ベルナルド・シウヴァ、ラヒーム・スターリング、リヤド・マフレズといった高次元の選手が居並ぶクラブのなかで、みずからの価値をアピールし、なおかつ高めているのだから恐れ入る。
シルバ、イニエスタに匹敵する技量。そしてタフな精神力
グアルディオラ監督のゼロトップ導入に伴い、フォーデンは前線、ウイングに起用されるケースもある。周囲を活かす術を心得ているため、ベンチに期待にも応えているようだ。
しかし、171センチ・70キロという痩身、そしてレフティであることを踏まえると、やはりD・シルバの後継、インサイドハーフが適任ではないだろうか。また、二年ほど前にはイングランドのメディアから、“ストックポートのイニエスタ” なる呼称も頂戴した。D・シルバとアンドレス・イニエスタのポジションは、間違いなくインサイドハーフである。
狭いスペースをすり抜けるドリブルとラストパスの精度は、D・シルバとイニエスタが20歳のときに匹敵し、ゴールへの意欲では偉大なる先達を凌いでいるという。いったい、どのような領域にまで達するのだろうか。
さらにフォーデンは、非常にタフな精神力の持ち主であることも、グアルディオラ監督の証言で明らかになった。
「試合に出場できなくなると、選手は不満を募らせる。年齢にかかわらず、ね。エージェントや顔見知りのメディアに愚痴り、その内容が脚色されて首脳陣批判として伝われば、イメージダウンだ。しかしフォーデンは、健全で強い精神状態を維持できる。厳しい状況に置かれても、決して弱音を吐かない。まだ若いのに、大したものだ」
直近のパフォーマンスを省みず、出場機会の減少を招くベテランはどこにでもいる。才能を過信し、「あの監督はなにも分かっちゃいない」と、不遜な態度をとる者もいる。練習態度を注意されただけで逆ギレした若者もいるという。
みずからを戒め、なぜ使ってもらえないのか、ふたたびチャンスを得るためにはなにをすべきか、フォーデンは心も健康だった。
新時代のヒーローは他にない
2020―21シーズンのプレミアリーグは、早ければ今週末にもシティの優勝が決まる。マンチェスター・ユナイテッドがリヴァプールに敗れ、シティがクリスタル・パレス戦で勝利を収めれば、2シーズンぶり7回目の戴冠だ。しかも、この10年で5回目である。プレミアリーグのハイレベルを踏まえると、驚異的なデータといって差し支えない。
しかし、シティの黄金時代を支えたヴァンサン・コンパニとD・シルバはすでにクラブを去り、セルヒオ・アグエロも今シーズン限りで離脱する。デ・ブライネも6月28日に三十路を迎える。世代交代のときがやって来た。新時代のヒーローは、フォーデンをおいて他にない。
そしてシティだけではなく、イングランド・フットボール全体を担う逸材でもある。来るべくヨーロッパ選手権では、世界の関心をさらに集めるに違いない。
いま、フォーデンは試合を重ねるごとにグレードアップしている。この先、どこまで成長するだろうか。彼の才能をもってすればシティを世界一に、いや、イングランド代表にメジャータイトルをもたらしたとしても不思議ではない。弱冠20歳の若者は、まもなく世界基準に到達する。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
プレミアリーグ 関連記事
粕谷秀樹のNOT忖度
- やっぱり “赤い悪魔” のアイコン! ポール・ポグバが惜しげもなく才能を発揮
- モウリーニョは今季で見納めか…その勇姿を目に焼き付けよ!
- ベイル、フィルミーノ、マルシャル…悩める男たちへの処方箋
- 残留争い展望…精神面も充実のフラムにひと筋の光が
- 難しい冬の移籍を経て…南野拓実が徐々に持ち味を発揮
- クロップの実績を3ヶ月の不振で否定するなどもっての外だ
- 大混戦のトップ4争いを勝ち抜くのはどこだ!?
DAZNについて
DAZNなら好きなスポーツをいつでも、どこでもライブ中継&見逃し配信!今すぐ下の記事をチェックしよう。