疲れが溜まっているとかどこそこが痛いとか、泣き言は家族の前だけにしてくれ。いやいや、強気な女房だったら「甘ったれていないで現実を見れば」と、目を三角にしてどやされるに違いない。緊張感あふれる毎日……。
週給60万ポンド(約9000万円)である。トッテナム随一の高給取りだ。ハリー・ケインでさえ20万ポンド(約3000万円)なのだから、60万ポンドを受け取る選手はさぞかし働いているのだろう。働いてもらわなくては困る。
30節終了時点で26試合・10得点。そこそこの数字ではある。プレミアリーグに限定すると13試合・5得点。ちょっと考えさせられる。いや、60万ポンドの価値はない。なにしろ、今シーズンはほとんど休んでいたのだから……。
ギャレス・ベイルである。ケイン、ソン・フンミンとともに強力な攻撃陣を形成するものと期待されていたが、内面的な問題で本領を発揮するには至らなかった。メンタルな部分がクリアになり、近ごろのパフォーマンスはやや上向いているものの、周囲も本人も満足できるレベルには到達していない。
ただ、長い間のブランクで失った試合勘は数多くピッチに立つことによって埋められ、ベイルほどの経験と潜在能力をもってすれば、往年の感覚を取り戻す作業は難しくないはずだ。
いま、トッテナムは4位ウェストハムと3ポイント差の6位だ。今シーズンの最大目標ともいうべきチャンピオンズリーグ出場権獲得は、まだまだ大きな可能性を残している。
「ベイル無双!」
「ベイルの魔球がトッテナムをチャンピオンズリーグに導く」
この男がメディアを惹きつけさえすればトッテナムは目標をクリアし、ベイルも改めてサポーターに支持されるに違いない。
フィルミーノ復調は遠い未来の話では
2015-16シーズンのリヴァプール加入後、5シーズン通算のデータは57得点・35アシスト。飛びぬけた数字ではないものの、データに記録されない貢献度は、だれもが認めるところだった。
しかし今シーズン、30節終了時点の5アシストはともかく、6得点はいただけない。数字に表れない貢献度も、昨シーズンまでのように高くない。追う足が鈍り、うつむくケースも多くなってきた。
いま、ロベルト・フィルミーノが苦しんでいる。チームの不振に歩調を合わせたかのようだ。主力の戦線離脱、コロナ禍のトレーニング不足、疲労の蓄積……。さまざまな理由が考えられる。相手ボールになった際の反応が遅く、プレッシングの凄みが昨シーズンほどではなくなった。
しかし、リヴァプールはオザン・カバクとナサニエル・フィリップスの若手センターバックに使えるめどが立った(レアル・マドリードには3失点を喫したが……)ため、ファビーニョをアンカーに固定できるようになってきた。彼が中盤を締めることによってバランスが整い、極度の不振から脱出しつつある。
後ろが安定すれば、前線も背後の不安が解消される。ヨーロッパを制した当時の迫力をすぐには再現できなかったとしても、リヴァプールらしさを少なからず取り戻すことはできるだろう。当然、フィルミーノにも好都合だ。
マイボールになった瞬間、マーカーから離れて絶妙の位置でフリーになる。相手ボールになるや否や、第一ディフェンダーとして獰猛なまでのプレッシングを仕掛ける。フィルミーノ復調は、遠い未来の話ではない。
昨シーズンの17ゴールから激減
筆者は、ケガをした人間を痛めつけるほど非道ではない。早くよくなれと祈っているし、貴重な戦力だってことは百も承知している。
嗚呼、アントニー・マルシャル(マンチェスター・ユナイテッド)よ……。フランス代表として出場したワールドカップ予選(対カザフスタン戦)で膝を痛め、およそ2ヶ月の戦線離脱を余儀なくされた。2ヶ月!? 今シーズン中には戻って来られないかもしれない。
本稿執筆時点でわずか4ゴール。得点王ランキングは58位タイであり、ジョン・ストーンズ(マンチェスター・シティ)やクルト・ズーマ(チェルシー)など、ライバルチームのCBと同数である。
相手ボールになっても対応が鈍く、対応したとしてもジョギングで自陣に戻り、マークを怠る。集中力が続かず、前線で手持ち無沙汰にしている。攻守ともに貢献しているとはいいがたい。
週給35万ポンド(約5250万円)を要求したといわれるアーリング・ハーランド(ドルトムント)の獲得は無理だとしても、今夏のユナイテッドはセンターフォワードの補強が最優先課題だ。
オーレ・グンナー・スールシャール監督はマーカス・ラッシュフォードやメイソン・グリーンウッドなど、下部組織出身のタレントを軸にチームを創り変えようとしている。昨シーズンの17ゴールが示すように、マルシャルはトップランクのゴールゲッターだ。ただ、居場所がなくなるようであれば、移籍も選択肢に含めなくてはならない。
ユナイテッドというブランドにこだわらず、マルシャルは最適解を見出す必要に迫られるだろう。ベイルやフィルミーノも含め、選手は試合に出てナンボである。
ピッチ上の苦楽こそが、“最良の処方箋” だ。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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