開幕までにグリーリッシュ獲得も
マンチェスター・シティの動きが慌ただしくなってきた。およそ2億2000万ポンド(約330億円)もの巨額を移籍市場に投下し、ハリー・ケイン(トッテナム)とジャック・グリーリッシュ(アストンヴィラ)の二枚獲りを狙っている。
ペップ・グアルディオラ監督がグリーリッシュに御執心であることは、関係者の間で広く知れ渡っていた。シルキーなボールタッチと的確な状況判断に惚れ込み、強化部にもリクエストを提出済みと伝えられている。
「少なくともグリーリッシュだけは獲ってほしい」
EURO2020における活躍もあり、イングランド代表MFの推定市場価格は8000万ポンド(約120億円)にまで跳ね上がっている。アストンヴィラは少なくとも1億ポンド(約150億円)を要求する、との噂がもっぱらだ。
それでも、14日のプレミアリーグ開幕までには決着するのではないだろうか。
第一にグリーリッシュが移籍に前向きなこと。アストンヴィラに対する愛情は深いものの、チャンピオンズリーグ優勝も視野に入れるシティの魅力には代えがたい。第二はエミリアーノ・ブエンディアやリオン・ベイリーを獲得するなど、アストンヴィラが前線の強化に積極的なこと。グリーリッシュの退団に備えた動きと考えられる。
フットボール頭脳に優れ、ファイナルサードに入ってパスを受けたり、ビルドアップの際は下がってボールを引き出したりする動きを継続するグリーリッシュは、グアルディオラ監督が推し進めるポゼッション・フットボールにマッチする可能性が大きい。
また、主戦場とする左ウイングだけではなく、中盤インサイドの適応力も高いため、ケヴィン・デ・ブライネとイルカイ・ギュンドアンの負担を少なからず軽減させるはずだ。
なお、グリーリッシュが直近2シーズンで作ったチャンスの数はリーグ2位の172回。1位は216回のデ・ブライネだ。ふたり合わせて388回。シティの攻撃はさらに迫力を増し、相手DFラインに過剰なまでのストレスを与える。
ここに、あの男まで加わるというのか!?
ライバルを “濃度” で上回る
潮目が変わったのは7月下旬のことだった。
「ケインが欲しいのならキャッシュで1億5000万ポンド(約230億円)を用意しろ。選手の譲渡はいっさい受けつけない」
頑な態度を貫いてきたトッテナムのダニエル・レヴィ会長が突如として軟化。ケインの移籍を認めたと、多くのメディアが伝えはじめた。英国の有力紙『Telegraph』に至っては「合意間近」と報じている。
しかし、ケインとグリーリッシュの獲得資金を合わせると2億2000万ポンド(約330億円)にも及ぶ。裕福なシティもコロナ禍ではご多分に漏れず、経済的に甚大なダメージを被った。
したがって数人の主力を放出し、経済的な損失を少しでも抑えなくてはならない。ベルナルド・シウヴァとアイメリク・ラポルトは、出場機会を求めて移籍を志願しているという。ラヒーム・スターリングとガブリエウ・ジェズズ、リヤド・マフレズは換金対象といわれている。ケガが絶えないバンジャマン・メンディは構想外だ。
彼らをめぐるビジネスが、シティの補強戦略に大きな影響を及ぼすことは必至だ。
それにしても……。ケインとグリーリッシュを獲得した場合、シティの陣容は豪華絢爛が過ぎる。
前線にフィル・フォーデン、フェラン・トーレス、中盤にデ・ブライネ、ギュンドアン、ロドリ、フェルナンジーニョを擁し、最終ラインにもカイル・ウォーカー、ジョン・ストーンズ、ルベン・ディアス、ジョアン・カンセロを揃えるのだから、新シーズンもプレミアリーグの中心だ。
フィルジル・ファン・ダイク、ジョー・ゴメス、ジョエル・マティップといったレギュラーDFがケガから復帰するリヴァプール、ジェイドン・サンチョとラファエル・ヴァランを補強して意気上がるマンチェスター・ユナイテッドも優勝候補とはいえ、所属選手の “濃度” でシティには及ばない。
フォルスナイン(偽9番)や偽サイドバックなど、昨シーズンも新たな側面でクラブをリードしたグアルディオラ監督のことだ。寸暇を惜しんで画期的なゲームプランを用意しているに違いない。
2021-22シーズンのシティも、実に楽しみである。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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