メディアは何かとやかましい。
「監督の細かすぎる指示に選手が疲れている」
「チームのピークは2シーズン前」
「補強の成功例は決して多くない」
マンチェスター・シテ ィが批判に晒されている。かくいう筆者も「 セルヒオ・アグエロ は太りすぎだ」、「レアル・ソシエダに移籍した ダビド・シルバ の後継者が育っていない」、「 ケヴィン・デ・ブライネ の負担増は深刻」と、スポーツ総合誌のサイトで問題を提起した。
シティの評判が芳しくない。プレミアリーグ第10節終了時点で5勝3分け2敗の勝点18。7勝1分け2敗の勝点23だった昨シーズンの同時期比ではマイナス5ポイントだ。失点こそ9→11と大差ないが、得点は32→17。50%以上も落ち込んでいる。
コロナ禍ではある程度の妥協が必要で、ペップ・グアルディオラのような理想追求型の監督は苦戦する。そう指摘するイングランドのメディアも少なくない。試合内容よりも現実に即した監督が非常時に適応できる、との考え方だ。
例えばジョゼ・モウリーニョ監督だ。だが、グアルディオラが トッテナム の指揮官をコピーするとは考えづらい。
自他ともに認める “ポゼッション原理主義者” は、コロナ禍だとしても頑としてみずからの哲学を主張する。アグエロの体調が整わず、シルバ退団のダメージが大きく、デ・ブライネへの依存度が高まる一方だとしても、グアルディオラはグアルディオラだ。ゴール前にバスを停めるはずがない。
こうしてシティは、 マンチェスター・ユナイテッド 戦(アウェー)を迎えた。
2~3年前までのような迫力も工夫も欠ける
【11-12】6-1
【13-14】3-0
【17-18】2-1
【18-19】2-0
巨大資本が投下された08年以降、シティはオールド・トラッフォードのダービーで勝利を収めると必ず優勝している。縁起のいいジンクスだ。
しかし、直近3試合のアウェーはわずかに1点しか取れていなかった。トッテナムに0-2、ポルトに1-0、オリンピアコスに0-0という結果に終わっている。
案の定、シティは攻めあぐんだ。2~3年前までのような迫力がなければ、工夫にも欠けている。前後半を通じた決定機はたったの2回。 リヤド・マフレズ はシュートまで時間がかかり、デ・ブライネは正直すぎて、ともにユナイテッドGK ダビド・デ・ヘア に阻まれる。
ラヒーム・スターリング はゴールに直結するプレーが極端に少なく、 フェラン・トーレス は ルーク・ショー との一対一で後手に回った。コンビネーションでペナルティボックス周辺を崩すプレーも、とくに後半は皆無に等しかった。
0-0……。シティは18年10月のリバプール戦以来、78試合ぶりのスコアレスドローという珍事でマンチェスター・ダービーを終えた。
手堅さを身につけたら、まさしく鬼に金棒
シティらしくはない。試合後、ユナイテッドのコーチを務めるマイケル・キャリックと談笑していたグアルディオラも、どことなく自嘲気味に見えた。「リスクを冒さないのだから、この結果も妥当だよな」とでも言っていたのだろうか。
ただ、現実に即した闘い方ではある。ゴール前にバスを停めるほど守備的ではなかったが、ユナイテッド戦のシティは神経質なほどにバランスを意識し、失点回避に重点を置いていた。
理想のスタイルからは遠く遠く、どこまでも遠くかけ離れているものの、コロナ禍では妥協するしかないのかもしれない。
得点力が落ち、主力の年齢も徐々に上がってきているのだから、全試合フルスロットルは不可能だ。フェルナンジーニョ35歳、アグエロ32歳、デ・ブライネは来年6月に30回目の誕生日を迎える。
また、得点力が低下する一方で、守りが安定してきている。前述したオリンピアコス戦から、6試合連続のクリーンシートだ。
ジョン・ストーンズが明らかに復調し、ルベン・ディアスや アイメリク・ラポルト との定位置争いが楽しみになってきた。彼らで3バックを形成し、右ワイドに カイル・ウォーカー 、左に ジョアン・カンセロ 、あるいは ナタン・アケ という布陣も悪くない。
ダービーを迎える前の時点で、ユナイテッドのホーム成績は1勝1分け3敗だった。FW陣はオールド・トラッフォードで1点も取っていない。したがって前述したジンクスも含め、今回の0-0は物足りない印象もある。
ただ、相手を殴りに殴り、とどめのとどめを刺すような闘いを繰り返してきたシティが、僅差の判定勝ちでもよしとするような手堅さを身につけるとしたら、まさしく鬼に金棒だ。
次節から ウェストブロム 、 サウサンプトン 、 ニューカッスル 、 エヴァートン と勝ってしかるべき相手と連戦し、来年1月2日に チェルシー との大一番を迎える。
シティはハイペースで攻めまくるのか、慎重策を選択するのか。プレミアリーグの見どころが、またひとつ増えた。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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