今週末にもマンチェスター・シティの2シーズンぶり7回目のリーグ優勝が決まる。
序盤戦でつまずいたものの、ジョゼップ・グアルディオラ監督はカンセロ・ロールや偽9番など、フットボールの既成概念を覆すプランで現有戦力のポテンシャルを最大限に引き出した。
アーセナルとトッテナムはもはやビッグ6の体を成していない。チェルシーはまたしても監督を代えた。マンチェスター・ユナイテッドはチーム作りに手間取り、リヴァプールはレギュラーCBが相次いで負傷し、自慢のフロント3にも若干の陰りがみられる。
そう、たしかにライバルの不振も多少のアシストになったかもしれない。
しかし、今シーズンのシティは群を抜いていた。本稿執筆時点のゴールランキングでトップ10に入っているのは12得点のイルカイ・ギュンドアンひとりで、アシストランキングでもケヴィン・デ・ブライネが11で3位につけているだけではあるが、総得点はリーグ71得点。どこからでも点を取れる明確なデータだ。
さらにGKエデルソンが記録したクリーンシート18回、総失点24はともにリーグ最高値である。攻守のバランスがどれほど整っているかは、数字が証明している。
トッテナムに留まるモチベーションがない
シティの今日の礎を築いたのは、ヴァンサン・コンパニ(現アンデルレヒト監督)、ダビド・シルバ(現レアル・ソシエダ)、セルヒオ・アグエロ、フェルナンジーニョの “四大守護聖人” である。
コンパニの穴はルベン・ディアスが埋めた。D・シルバの後継者はフィル・フォーデンであり、今シーズン限りでシティを離れるアグエロに代わるアタッカーは、個人ではなく偽9番というシステムだ。さて、フェルナンジーニョ(今シーズンで契約満了)の後釜は──。
既存戦力ではロドリ、あるいはギュンドアンだ。アイデア豊かなグアルディオラ監督なら、デ・ブライネの起用も考えているはずだ。ただし、アンカーがやや人材不足であることは否めない。
例えば、レスターのウィルフレッド・エンディディを獲得できないだろうか。長いリーチと豊富な運動量、的確な状況判断に基づくボール奪取能力はだれもが認めるところであり、アンカーとしては世界水準だ。ベルギーのヘンクからレスターに加入して5年。ステップアップの機は熟したといっていい。
また、エンゴロ・カンテ(→チェルシー)、ダニー・ドリンクウォーター(→チェルシー)、リヤド・マフレズ(→シティ)、ハリー・マグァイア(→ユナイテッド)、ベン・チルウェル(→チェルシー)と、レスターは16-17シーズンから毎年1~2名は主力を手放している。経営のスリム化を図っているのか。
こうした流れを踏まえると、シティがエンディディを獲得する可能性もゼロではない。高い位置でボールを狩れる世界水準のアンカーは、グアルディオラ監督のプランにも適合するに違いない。
ピエール=エミル・ホイビュアという選択肢もある。今シーズン、サウサンプトンからトッテナムに移籍したばかりだが、新天地で早々と中盤のリーダーになった。鋭い読みとプレー強度の高さはリーグ屈指。ジョゼ・モウリーニョ前監督が最も信頼を寄せていた。
しかし、モウリーニョは解雇された。ホイビュアにすれば、トッテナムに留まるモチベーションがない。ハリー・ケインとソン・フンミンの退団もまことしやかに囁かれている。沈みかけた船からはいち早く降りた方がいい。
暫定監督のライアン・メイソンが昇格するにしろ、交渉中との情報が伝わりはじめたラルフ・ラングニック(前ライプツィヒ監督)を招くにしろ、トッテナムは再建まで時間がかかる。
ホイビュアがサウサンプトンからノースロンドンに新天地を求めた理由のひとつに、タイトル獲得もあったはずだ。シティならあらゆるコンペティションで、毎シーズンのように優勝争いを演じられる。
ライスは「最低でも1億ポンド」
デクラン・ライス(ウェストハム)はグアルディオラ監督の薫陶を受ければ、驚異的なアンカーに成長するに違いない。
「おい、戯言はよせ!」と、ウェストハム・サポーターにどやされる。デイヴィッド・モイーズ監督もライスの移籍は全否定していた。
「欲しければ最低でも1億ポンド(約151億円)が必要だ」
気持ちは分かる。しかしフォーデンが、ジョン・ストーンズが、グアルディオラ監督のもとでみるみるうちに成長した。ライスの計り知れないポテンシャルに火をつけるのは、革新的なアイデアを持つ名将をおいて他にない。
現在は天賦の才能を拠り所にしているが、グアルディオラ監督の的確、かつ細部にまで行きわたるコーチングによって、ライスが一段も二段もレベルアップするのではないか、と考えるだけで胸が高鳴る。
エンディディ、ホイビュア、ライス……いずれもシティとはリンクされていないものの、才能豊かなアンカーとして複数のビッグクラブが興味を示している。ここにシティが割って入るか。グアルディオラ監督がラブコールを発信するのか。
まもなく、夏の市場が幕を開ける。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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