2021-22シーズンからローマを率いることが決まったジョゼ・モウリーニョ。トッテナムを追われたポルトガル人指揮官は、はたしてローマで真の復活を遂げられるか。
その疑問に答えてくれたのはファビオ・カペッロ。2000-01シーズン、ローマに18年ぶり3度目のスクデット(セリエA優勝)をもたらし、ミラン、ユヴェントス、レアル・マドリードでも成功を収めたイタリアきっての名将が、「スペシャルワン」の成功の鍵を語る。
世間の喧噪から選手を遠ざける
驚いたよ、モウリーニョがローマの新監督に就任するとはね。寝耳に水とはこのことだ。
正式発表があったのは5月4日。トッテナムの監督を解任されてから2週間しか経っていなかった。この短期間で決まったこともそうだが、なによりアメリカ人オーナー(ダン・フリードキン)の決断の早さに驚かされた。
モウ(モウリーニョ)は実力もさることながら、メディアの注目度も抜群。イタリアサッカー界全体にとって素晴らしいニュースだよ。
もちろん、ローマにとっても大きな出来事だ。ここ数年、彼らは期待されながら思うような結果を残せていない。今は全体的にメンタルが沈んだ状態だ。
まずその重苦しい雰囲気を一掃すべく、モウは何らかの手段で強い刺激を与えることを試みるだろうね。
それが成功するかは、また別問題。ローマという土地柄、ローマというクラブの体質…。決して簡単な作業にはならないだろう。
ローマ特有の土地柄には、私も苦労させられたよ。就任2年目に何とかスクデットにたどり着いたが、道のりは決して平坦でなかった。
すべてはクラブを取り巻く環境のせいと言っていい。物事が上手くいっているときは素晴らしい。クラブ全体がポジティブな空気に包まれる。選手はそれこそアイドル扱いだ。
問題となるのは、下を向いたときだ。チーム状態が少しでも傾くと、状況は一変する。アイドルのように扱われていた選手は、それこそ周囲から一気に奈落の底へと突き落とされるんだ。
私が指揮を執っていた当時、ローマに多くの時間を割くラジオ番組がいくつも存在した。その影響力の大きさときたら、想像を絶するほどだった。
例えば、どこか局が何かネガティブなことを発信したとする。するとそれが例え偽りだったとしても、真実かのようにどんどん一人歩きして大きな渦を作り出す。そして大半のファンがそのマイナスな渦へと引き寄せられてしまうんだ。
私は就任してすぐに、とある行動に打って出た。それらのローカルラジオ局との関係を一切、遮断することを試みたんだ。
今振り返ると、優勝できたのはピッチ外でのそういった細やかな戦略も大きかったと思う。
ソーシャルネットワークが盛んなこのご時世だ。状況は20年前よりはるかに複雑だろうが、「世間の喧噪から選手を遠ざける」、これがローマで成功する1つの法則かもしれないね。
優勝後のお祭り騒ぎが半年も…
監督という職業は、まず戦力を把握したうえで、チームに戦術などを落とし込む作業が求められる。
ただローマの場合は違う。就任して真っ先に直面するのが、その独特な気風とどう向き合っていくかという難題なんだ。
数々のビッグクラブを率いた経験を持つモウとはいえ、決して例外にはならないだろう。
ローマは何事にも一喜一憂する土地柄。群衆に引っ張られて、われわれもメンタルのバランスを保つのが極めて難しい。
1つ、リアルな例をあげてみよう。スクデットを獲得した2000-01シーズンの話だ。なんせ18年ぶりのリーグ優勝だ、ロマニスタの喜びたるや想像に難くないだろう。
とはいえ、だ。その歓喜の渦は何と半年近くも続いた。信じられないような話だが、大げさでも何でもない。
一方、私がミラン、ユヴェントスでセリエAを制したときはどうだったか。お祭り騒ぎは数日で収まったよ。ファンの目線はすぐに次の目標へと向けられた。この差から、私が伝えたいことがわかるだろう。
そんな独特な雰囲気のローマとはいえ、絶大なるネームバリューを誇るモウのことだ。最初の数ヶ月はおそらく、何をしても許されるだろう。
成績が残せなくても、環境に慣れていないといった言い訳も立つ。ただそのあとは、すべて結果次第となる。
モウは逆襲に燃えている
モウはモチベータータイプの監督と言われているね。カリスマ性があり、なにより勝つことを最優先に考える。私が好きなタイプの指揮官だ。
その絶対勝利主義の哲学に基づき、展開するサッカーはかなり実用的。そして強い信念の持ち主であり、我を決して曲げない。強烈なリーダーシップを発揮する。
思い出してほしい。なんせインテル時代には、あのサミュエル・エトーにサイドバックをやらせたこともあるほどだ。
エトーは周知のとおり、世界的なストライカーとして鳴らしていた。そんなスター選手に考えられないような要求が出来るのも、絶大なる統率力を誇るモウだからこそ成せる技だろう。
確かに、ここ数年は残念ながら結果を出せていない。マンチェスター・ユナイテッドに続き、今季はトッテナムで解任の憂き目に遭った。
一部で「落ち目」といった声も聞かれる。結果だけ見れば、それも否めないだろう。モウ自身も今、相当に悔しい思いをしているはずだ。
だが、そんな中でもモウはローマのオファーをすんなりと受け入れた。と考えると、彼は逆襲に燃えている。そして、モチベーションはこれまでになく高まっている、と私は推測するね。
復活を期す舞台がイタリアとなれば、それはなおさらのこと。なんせセリエAには、インテルでイタリア史上初の3冠を達成した2009-10シーズン以来の復帰だ。
インテルで築き上げた栄光を、決して汚したくはないだろう。強く念じているはずだよ。実力を再びローマで証明したいとね。
モウのセリエA復帰がイタリアサッカー界に大きなインパクトを与えることは間違いない。
来季のセリエAはさらに注目を浴びることになるだろう。モウ、ローマでの幸運を祈っているよ。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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