イタリアの現役スポーツディレクターが本連載に初登壇。シルヴィオ・ベルルスコーニ体制下のミランで、一時代を築いたアリエド・ブライダだ。
そのミランではマルコ・ファン・バステン、フランク・ライカールト、マルセル・デサイー、アンドリー・シェフチェンコ、カカら黄金期を築いた名だたるスター選手を発掘。その後はバルセロナで腕を振るい、75歳となった今もセリエBのクレモネーゼで活躍している。
カルチョの酸いも甘いも嚙み分ける大物SDが、コロナ禍での移籍マーケット事情、また古巣ミランの現状を語る。
悩みはエージェントとの付き合い方
ブライダ:私がミランで強化担当を務めていたのは、1986年から2013年までのこと。今はその頃に比べ、選手の争奪戦はずいぶんと激しさを増している。
競争が激化した一番の理由は、テレビ放映権料高騰による収入アップだ。周知のとおり、莫大な放映権料により、各クラブの懐はかなり潤うことになった。
その結果、スモールクラブにも以前より資金的に余裕が生まれたんだ。なかでも多大なる恩恵を受けたのが、プレミアリーグだ。
信じられないことに、今ではプレミアの中堅クラブでさえ、セリエAのビッグクラブと対等に張り合える資金力を誇っている。
ただ移籍交渉のプロセス自体には、それほど変化は感じられないね。交渉事の難しさは時代が変わっても同じ。われわれのようなフロントが、いかに話をまとめられるかだ。
つまり、交渉相手とどのように合意までこぎ着けるか。選手側、そして彼ら選手のエージェントといかに折り合いを付けられるかだね。
ちょっとした違いを挙げるとしたら、エージェントの力が以前より増したという点かな。われわれクラブ側の人間にとって、常に悩まされる問題が彼らエージェントの付き合い方なんだ。なかには信じられない条件を突きつけてくるエージェントもいるからね。
交渉は以前より複雑になっているね。それは否めない。一昔前なら、すべてが一瞬のうちに決したものだ。
交渉に関して言うと、新型コロナウイルスの影響は予想より小さい。移籍交渉は、双方が顔を向き合わせて行われることがベストだ。今はそれがあまりかなわない状況。だが、もともと事前交渉などは電話で行われたケースも多かったからね。
今は電話でのやりとりが大部分を占めているし、ビデオ会議システムもある。この2つのツールで交渉自体は十分にカバーできているよ。
実は昔、日本で仕事ができればと
むろん、コロナ禍が与えた経済的な打撃は計り知れない。各クラブの収入は激減した。スポンサー料も減ったし、マーチャンダイジングも崩壊状態だ。試合も無観客で開催され続けている。よって入場料収入もなくなった。
この状況で、カルチョメルカートにも大きな影響が出るのはしごく当然だろう。イタリア国内に限らず、国際的に停滞してしまっている。
そんな中で、われわれ強化担当に求められることは、今まで以上に知恵を絞ること。創造力、思考をこらし、お金を積むだけでない、それこそレンタルや違った形で選手の獲得を模索しなければいけない。
私は現在、セリエBのクレモネーゼで強化担当を務めている。交渉相手とは主に電話でコンタクトをとっているが、その数は増えているのは間違いない。
強化リストの内情をこっそり教えるが、今現在、残念ながら日本人選手の名前は記されていない。もちろん、優秀な若手がたくさんいるのは知っているよ。
その筆頭がボローニャの冨安(健洋)だろう。彼は本当に素晴らしいプレーヤー。より輝かしいキャリアを築ける実力を持っている。ボローニャだって決して小さなクラブではないけどね。
初めて告白するが、実は昔、日本で仕事ができればと思っていたことがあったんだ。日本にはトヨタカップなどで何度か訪れているが、本当に大好きな国でね。
私がミランなどで培ったノウハウを、まだサッカーの歴史が浅かった日本で生かせれば、こんな素晴らしいことはなかっただろうと。
最後に私の古巣ミランにも一言触れさせて欲しい。
ミランは2020-21シーズンのセリエで2位だった。ここ最近はなかなか思うような結果を残せずに苦労していたから、本当に大きな前進を見せたと言えるだろう。
ただ来シーズン以降、戦力的な上積みをもたらすのは、決して容易なことではない。前述したとおり、コロナ禍での資金的な問題もある。
そして個人的には、ジャンルイジ・ドンナルンマの流出(新天地は未定)はかなりの痛手と見ている。その影響は計り知れないだろうね。
ドンナルンマのようなゴールキーパーを失うこと、それは偉大なアタッカーを手放すことと同じだよ。彼の退団がチームにどのような影響を及ぼすか。一抹の不安はぬぐえないね。
インタビュー:アルベルト・コスタ
翻訳・構成:垣内一之
訳者プロフィール/1998年にイタリアに移住し、約8年間、中田英寿、中村俊輔、柳沢敦ら日本人選手を中心にセリエAを取材。2006年のドイツ・ワールドカップ後に帰国し、現在は日本代表、Jリーグを中心に取材を続けている。
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