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【コラム】朽ちることのない功績を残したチアゴ・シウヴァの時代が幕を下ろすとき | パリ・サンジェルマン | UEFAチャンピオンズリーグ決勝

中山 淳
【コラム】朽ちることのない功績を残したチアゴ・シウヴァの時代が幕を下ろすとき | パリ・サンジェルマン | UEFAチャンピオンズリーグ決勝DAZN
UEFAチャンピオンズリーグ決勝のバイエルン・ミュンヘン戦を最後に、チアゴ・シウヴァがパリ・サンジェルマン(PSG)に別れを告げる。たとえラストゲームで敗れようとも、一時代を築き上げたこのキャプテンの功績が朽ちることはない。

数々の栄光とヨーロッパでの挫折

「僕はこの目標を達成するために、2012年にここに来た。自分のすべてを理解しているし、これまで僕がこのチームに捧げてきたすべてのことについても分かっている」

パリ・サンジェルマン(PSG)が25シーズンぶりに辿り着いたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)準決勝でライプツィヒを退けた後、キャプテンのチアゴ・シウヴァはそう語った。

苦節8年――。

CL制覇を目標に掲げるPSGの歩みを振り返ると、そこにはチアゴ・シウヴァがこれまで味わってきたフランス国内での数々の栄光と、ヨーロッパの舞台で繰り返された挫折の歴史が、同時に浮かび上がってくる。

カタール資本をバックに就任したナセル・アル・ケライフィ会長が、これまで約12億5550万ユーロ(約1569億3750万円)とも試算される積極的投資を始めたのは今から9年前、2011年夏のこと。とはいえ、最初の移籍市場で獲得した目玉選手はハビエル・パストーレのみで、それ以外ではジェレミー・メネズ、ブレーズ・マテュイディ、ケビン・ガメイロら、主にフランス人の好選手の補強にとどまった。

しかしシーズンの半ばにカルロ・アンチェロッティを新監督として迎え入れると、冬の移籍市場ではチアゴ・モッタ、アレックス、マクスウェルを補強。当初カタール資本による改革を懐疑的に見ていたファンやメディアを黙らせ、PSGに新しい時代が到来したことを印象付けたのだった。

アル・ケライフィ会長の本気度がはっきりと表れたのが、2012年夏の移籍市場における振る舞いだろう。ミランからチアゴ・シウヴァとズラタン・イブラヒモヴィッチというビッグネームをダブル獲りすると同時に、クラブの10年後を見据えて当時19歳だったマルコ・ヴェッラッティを青田買いしたのである。

つまり新生PSGの「プロジェクト」は、名将アンチェロッティの下、チアゴ・シウヴァをリーダーに、イブラヒモヴィッチをチームのアイコンに、そしてヴェッラッティを次世代の担い手として舵を切った12-13シーズンに本格的にスタートした。今回決勝の舞台に立つチアゴ・シウヴァとヴェラッティは、その第1期生にあたる。

選手、監督、フロントの橋渡し役となって…

ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。

12-13シーズンは19年ぶりとなるリーグアン優勝を果たしたものの、CLではバルセロナに惜敗して8強止まり。シーズン終了後にはアンチェロッティ監督をレアル・マドリードに引き抜かれ、ビッグクラブには資金力のみならずブランド力も必要であることを痛感させられるという苦い経験を味わっている。

翌13-14から3シーズン続いたロラン・ブラン監督の時代は、クラブにとってもチアゴ・シウヴァにとっても充実期だった。

第2期生としてエディンソン・カバーニとマルキーニョスが加入すると、ブラン監督は4-3-3の“プティ・バルサ(小さなバルサ)”スタイルを推進。チアゴ・モッタ、ヴェラッティ、マテュイディの“鉄板トリオ”が流動的に動いて中盤を支配し、3トップのカバーニ、イブラヒモヴィッチ、エセキエル・ラベッシがゴールネットを揺らす超攻撃サッカーで、国内を完全に制圧したのである。

初年度はリーグアンとクープ・ドゥ・ラ・リーグ(リーグ杯)で優勝し、2年目から2年連続でリーグアン、クープ・ドゥ・フランス(フランス杯)、クープ・ドゥ・ラ・リーグ、トロフェ・デ・シャンピオン(フランス・スーパーカップ)の国内4冠を達成。ただ、国内では無敵のPSGも、CLでは3年連続でベスト8の壁を越えられず、もがき続けた。

チームとチアゴ・シウヴァの立場が暗転したのは、ブラン監督に見切りをつけてセビージャをヨーロッパリーグ3連覇に導いたウナイ・エメリを新指揮官に招へいした16-17シーズンだった。

大物の補強もなくブラン時代の主力をベースにしながら、エメリ監督がチームを自分色に染めようと4-2-3-1を採用すると、選手たちがそれに反発して内紛に発展。選手、監督、フロントの橋渡し役を担ったチアゴ・シウヴァの尽力もあり、何とか4-3-3に戻してチーム再建を進めたが、モナコにリーグアンのタイトルを奪われてしまったのだ。

極めつけは、CLラウンド16でバルセロナに史上最大の大逆転を許し、世界中の笑い者になったことだろう。しかもチアゴ・シウヴァは4-0で完勝したホームでの第1戦で、こともあろうか監督判断によりベンチ外。しかもスタメン復帰を果たした第2戦で、6-1という屈辱の大敗をピッチ上で味わったのである。

1つのサイクルの終焉を意味する

それまで頼れるキャプテンであり続けたチアゴ・シウヴァが、一転、メンタルの弱さやプレー面の衰えなどを指摘されるようになったのはそれ以降のことだ。

翌17-18シーズン、業を煮やしたアル・ケライフィ会長はイブラヒモヴィッチに別れを告げて、新たなアイコンとしてネイマールとキリアン・ムバッペというビッグネームを一挙に獲得。法外な資金を投資して、なりふり構わぬ姿勢で「カンプ・ノウの屈辱」のリベンジを誓った。

しかしながら、国内4冠王者に返り咲いたエメリ体制2年目も、トーマス・トゥヘル監督初年度も、CLではラウンド16止まり。ようやく悲願のCLファイナルに進出したのはトゥヘル監督就任2年目。チアゴ・シウヴァの契約最終年にあたる今シーズンのことだ。

これまで8年間、アル・ケライフィ会長のプロジェクトの軸としてキャプテンを担ってきたチアゴ・シウヴァのPSGにおけるキャリアも、いよいよ幕を閉じようとしている。

もし予定通りCL決勝の舞台を最後にキャプテンがチームを離れるとすれば、それは1つのサイクルの終焉を意味する。今後は、マルキーニョスとヴェッラッティをリーダーに、ネイマールとムバッペをアイコンにした新しいサイクルが始まるだろう。

果たして、チアゴ・シウヴァ時代のエンディングはいかなるものになるのか。もちろんバイエルン戦で敗れたとしても、「初代」キャプテンの功績が朽ちることはないだろう。

文:中山 淳

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。「ワールドサッカーグラフィック」誌編集長を経て、2005年よりフリーランスのサッカージャーナリストとして活動。紙およびWEB媒体に寄稿する他、CS放送サッカー関連番組にも出演。DAZNではリーグアン、ラ・リーガ中継などの解説を務める。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。

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