10月度のベストヒーロー賞には、横浜FC戦でチームを窮地から救う劇的な決勝弾を奪った湘南ベルマーレMF山田直輝に話を聞いた。(取材日:11月11日)
絶対逆転するという気持ちだった
ーー10月のベストヒーローに選ばれました。まずは受賞の感想を聞かせてください。
率直にうれしいし、ありがたいという気持ちです。たぶんあのゴールだろうなという絵も思い浮かびます(笑)。
ーーでは早速その第33節横浜FC戦について伺います。山田選手は1点ビハインドの75分に途中出場し、わずか3分後にクロスで同点ゴールをお膳立てしました。
負けている状況だったので、なによりも攻撃のことーー自分がボールを受けて数的優位をつくり、相手を押し込むことを考えて入りました。最初のプレーがうまくいったので流れに乗れたし、周りも反応してくれている感覚がありました。
ーー最初のプレーというのは、右センターバックの石原広教選手らと右サイドでパス交換して得点に至った一連のことですね。
はい。あれがほぼ最初だったと思います。広数は攻撃が好きだし、(右ウイングバックの岡本)拓也も前に走れるので、2人とプレーするときはできるだけ数的優位をつくることを考えています。あの試合は右ボランチで入ったので、それをあの場面で出せた。ノンプレッシャーでクロスまで運べたことがよかったのかなと思います。
ーーあの一連のプレーで山田選手自身もさらに乗ったのでしょうか。
いや、絶対勝ちたいと思っていたので、最初から自分の気持ちは乗っていました。交代して入るときに、先にベンチに下がっていたバラ(茨田陽生)が「頼むよ、同点にしてくれ」と声をかけてくれたんですけど、僕は絶対逆転するという気持ちだったので、「なんで同点なんだよ」と心のなかで思っていた(笑)。それをあとで言ったらバラも笑っていました。
ーーそうやって声をかけて仲間を送り出すのは、いまのチームならではの空気ですか?
どうなんですかね。僕は、交代するときはいつも、伝えられることはできるだけ伝えようと思っているし、みんなも同じだと思います。……でも湘南ならではかもしれないですね。ほかのチームではあまりなかったかな。
ーーいまの話然り、横浜FC戦はチームの一体感をあらためて感じさせる試合でした。
そうですね。そのまえの鳥栖戦と(9月最後の)川崎F戦も僕は途中出場したんですけど、鳥栖戦は同点に追いつかれ(1-1)、川崎F戦は逆転負け(1-2)し、選手交代のたびに勢いがなくなっていると感じていた。それで鳥栖戦のあとに、「途中から入る選手が流れを変えて勝ちを引き寄せないとだめだよね」とみんなで話しました。結果的に横浜FC戦では大橋(祐紀)が途中出場でゴールを決め、僕も得点を入れて勝つことができた。次の札幌戦も途中から出た(平岡)大陽が結果を出している。あのときしっかり話し合えたことで、チームとしてまた一段上に行けたのかなという気がします。
ーーいま話に出たように、横浜FC戦の89分には、コーナーキックの流れから山田選手が劇的な逆転ゴールを決めました。あの瞬間は無我夢中でしたか?
無我夢中……いや、意外と冷静だったかな。町野(修斗)へボールが行ったときにスローモーションに見えて、「こっちにヘディングしてくれ」と思った。僕にボールが来たときも、自分がオフサイドでないことも相手GKが真後ろにいることも分かっていたので、少しずらせば入れられると思い、実際ちょんとずらしてうまく決めることができた。すごく冷静に、時間をゆっくり感じた瞬間でした。
ーーくだんの勝利は、9月に就任した山口智監督のもとで手にした初白星でもありました。それまで内容はよかったものの勝ち切れない試 合が続いていた状況を、山田選手はどのように受け止めていましたか?
川崎Fや横浜FMなど上位のチームに負けましたが、自分たちとしては互角以上の、勝てる可能性のある試合をしている感覚があったので、結果が付いてきていないだけでみんなのなかに焦りはなかったです。ただ、監督が代わり、いち早く1勝が欲しい時期でもあったので、自分たちがよくなっている確信と早く勝ちたいという気持ちの両方がありました。
ーー晴れて逆転勝利を収め、ベンチへ帰ってきた選手たちが一人ひとり山口監督とハグしたシーンに、チームの一体感が象徴されているように感じました。
そうですね。みんながひとつになって同じ方向を向いて戦っていることを僕も強く感じました。
ーー山田選手は山口監督にひときわ笑顔で迎えられていましたね。
はい、担ぎ上げられました(笑)。いちばんプレッシャーを感じていたのは智さんだったと思いますし、僕がゴールを決めたからではなく、チームとしてさらに良い雰囲気に持っていける勝点3だったと思います。
家族との絆を糧に
ーー試合後には、亡くなられたお祖母さまのことにも触れていました。
サッカー選手だった僕の父をずっと応援していて、その流れで僕の試合も小学生の頃から観に来てくれていたんですけど、最近はスタジアムで観てもらえることがなくなっていました。でも不思議なもので、あの日は空から近くで観てくれていることをすごく感じていた。自分が2得点に絡んで勝てたのは、やっぱりお祖母ちゃんのおかげだと感じますね。
ーー目に見えない力を与えてくれたんですね。
すごく感じましたし、楽しみにしてくれているだろうなという気持ちが僕をリラックスさせてくれました。いままでは勝たなきゃ勝たなきゃという気持ちでしたけど、「自分のプレーを見せなければ」ってあらためて思えた出来事でしたね。その想いがなかったらたぶん1点目のシーンも生まれなかったし、自分のゴールもなかったんじゃないかなと思います。
ーー山田選手にとっても転機となる出来事かもしれないですね。
そうですね。今後のプレーが自分自身楽しみだし、やはり自分らしさを出してチームの力にならなければいけないと思っています。
ーーところで、山田選手にとってのヒーローは誰ですか?
パッと思い浮かぶのは、やっぱり父親(編集部注※ マツダSC(現サンフレッチェ広島)で活躍した山田隆 氏)かなあ。小学生の頃は僕の少年団のコーチだったので、上手いなあと思っていつも見ていましたし、僕のサッカーのすべてをつくってくれた。父がいろいろ教え込んでくれたおかげで僕はサッカー選手になれたと思っています。
ーー熾烈な残留争いは今後も続きます。ラスト数試合に向けて抱負をお願いします。
湘南らしく戦うことがいちばん大事だと思っています。湘南らしく戦って最後に笑えるように、一日一日を大切に過ごしていきたいと思います。
インタビュー・文= 隈元大吾
湘南ベルマーレに軸足を置いて取材執筆。サッカー専門誌や一般誌等に寄稿するほか、オフィシャルハンドブックやマッチデイプログラムなどクラブの刊行物の執筆に携わる。著書に『監督・曺貴裁の指導論~選手を伸ばす30のエピソード』(産業能率大学出版部)など。
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