【2021のヒーローになれ】「『坂がいれば大丈夫』と思ってもらえるように」。坂圭祐が“鉄人”の後継者となる ｜ 大分トリニータ

“鈴木ロス”に希望の光をもたらす新DFリーダー候補

DF鈴木義宜、清水エスパルスへと完全移籍。

2020年12月30日正午、クラブからの公式発表は、大分トリニータサポーターを震撼させた。

2015年に大卒ルーキーとして加入以来、J3降格、J2復帰、J1昇格とクラブとともに激動の日々を過ごした生え抜きで、片野坂知宏監督の特徴的なサッカーを体現してきたキーマンの一人だ。

そして、2016年J3第14節・ブラウブリッツ秋田戦から2020年J1第27節・柏レイソル戦（※新型コロナウイルス禍による日程変更で第31節後に開催）まで連続フルタイム出場を続けた“鉄人”。残念ながらその柏戦で脳震盪を負い、次の試合を欠場して記録は途切れたが、CBながら累積警告なく負傷もせずに、指揮官やチームメートから揺るがぬ信頼を寄せられる絶対的なDFリーダーであり続けた。2019年シーズンからはキャプテンも務めており、チームには不可欠な存在だった。

後方から賢くビルドアップするのみならず、シュートブロック数でもつねにリーグ上位に君臨し、攻守に存在感を示していた鈴木の移籍は非常に痛い。しかも2021年のJ1は20チーム中4チームがJ2に降格する厳しいレギュレーションだ。鈴木の後継者は誰になるのかが、ストーブリーグの大きな関心事となった。

“鈴木ロス”に陥った大分サポーターに希望の光をもたらしたのが、鈴木の移籍が報じられる前日に公式発表されていた、坂圭祐の湘南ベルマーレからの完全移籍加入だった。

獲得当初、坂は横浜F・マリノスに移籍した3バックの右・岩田智輝の後任かと見られていた。12月25日に岩田の移籍が発表された後、片野坂監督が報道陣に「智輝の代わりはいない。また違ったタイプの選手を配置することになる」といったニュアンスを匂わせたからだ。湘南時代に坂が最終ラインから繰り出していたロングフィードを思えば、それも大いにありだと思えた。ただしそれは3バックのセンターに鈴木がいることを前提とした予想だった。

翌日、鈴木の移籍が明らかになったことにより、坂は矢庭に新DFリーダー候補としてクローズアップされるようになる。

早速、力を証明。セットプレーからゴールを奪う

四日市中央工業高と順天堂大でそれぞれキャプテンを務め、プロ入りした湘南でも攻撃センスのあるDFリーダーとして3バックのセンターで活躍。174cmと高さはないが、空中戦でも相手長身FWに競り負けない。跳躍のタイミングや体の当て方を工夫することで、自ら勝ち取った強度だ。

その強さは、大分が継続的に課題としてきたセットプレーの攻撃でも生きると思われる。小回りのきく坂は長身選手の死角を突く立ち回りで優位なポジショニングをものにしてきた。やはり今季大分に加入した192cmのFW長沢駿は「これまでも湘南戦で坂と対戦するのが嫌だった」と証言。DF三竿雄斗も「対戦したときセットプレーで自分のだいぶ上からヘディングされた」と振り返る。坂によると「垂直跳びだと高さは出ないんですけど、ボールがあると自然と高く跳べる」ということだ。

「鈴木選手や岩田選手が移籍して大分のサポーターは不安に思っていたりもするだろうけど、『坂がいれば大丈夫』と思ってもらえるように、早くなりたい」

チーム始動3日目の言葉が心強い。トレーニングが全面非公開なのでプレシーズンの様子は知り得ないが、2月6日、やはり非公開で行われた鹿島アントラーズとのトレーニングマッチの得点者に、坂の名があった。片野坂監督に確認したところによれば、やはりセットプレーからだという。早速、課題克服への光明が見えた。

文・ひぐらしひなつ

サッカーライター。サッカー専門新聞「エルゴラッソ」大分担当、大分トリニータ公式メディア「トリテン」などに執筆。著書に『監督の異常な愛情または私は如何にして心配するのをやめてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカークロニクル片野坂知宏の挑戦』など。