【2021のヒーローになれ】人生2度目となる日本最高峰の舞台。キャプテン岩尾憲の挑戦が間もなく始まる ｜徳島ヴォルティス

街の歴史を大きく変えようとしている男

Jリーグは岩尾憲という男を知っているか。

2016年に徳島ヴォルティスに加入。2017年にリカルド・ロドリゲス監督就任とときを同じくして岩尾はキャプテンに就任した。

正確な長短のパス、試合を支配する状況把握能力、危険なエリアを見つけ出す危機察知能力。プレーでも精神的な柱としても岩尾がボランチでどっしり構えたからこそ、組織の成熟速度は加速して2014年以来のJ1挑戦まで辿り着けた。7シーズンぶりに迎えるJ1の舞台。そこに至るまでの期間が長かったのか、短かったのか。その見解はわからない。ただ、一人の選手がこの街の歴史を大きく変えようとしている。それは揺るぎない事実だ。

ところで、その『岩尾憲』というプロ選手を生んだきっかけもご存じだろうか。

プロ生活がスタートしたとすれば「絶対にその日」と断言する日本体育大学時代の出来事がある。それは、ある日の練習試合。当時、青山学院大学に所属していた武田英二郎（現・横浜FC）が「湘南ベルマーレの特別指定選手になるかどうかという時期で、練習試合に曺さん（曺貴哉監督・現京都サンガ）が視察に来られていた」そうだ。その対戦相手として出場していたのが岩尾。「調子がめちゃくちゃ良かった（笑）」と目立つ活躍をみせ、湘南の目に留まって結果的にプロ入りに至った。

しかしながら、加入直後は「けがばかりでした」と挫折の連続。けがから復帰した2013年にはJ1の舞台でもリーグ戦7試合に出場しているが、必ずしも大きな活躍をできたわけではない。「必死で背伸びをして大きく見せようとしていた」。その言葉からもわかるように、当時はまだ素材だった。

素材からグッドプレーヤー、そして唯一無二の存在へ

しかし、2015年に湘南からの期限付き移籍で所属した水戸ホーリーホックで出場経験を経て、2016年の徳島への完全移籍を機にその素材は開花する。

特に2017年にキャプテンという役割を担ってからの成長曲線は自分自身の想像も超えたことだろう。就任初年度は「自分のキャプテン像」を追及して試み、相応の結果を残した。ところが、2018年にはシーズン中にJ1クラブから4選手を引き抜かれ、思い通りには物事が進まずに選手もスタッフも苦悩した。

このシーズンの岩尾は“キャプテンとは何なのか”、“チームとはなんなのか”、“変数の多いサッカーにおいてキャプテン像を持つこと自体が間違いなのではないか”。日々、そんな葛藤をしているようにみえた。だが、その葛藤から逃げなかったからこそ、いまにつながる進化があったように思う。

グッドプレイヤーから、唯一無二の存在へ。

素材から始まったプロ生活。グッドプレイヤーに辿り着ける選手は一定数いる。だが、その先のキャズムを超えられる選手は一握りしかいない。唯一無二の入口に辿り着いた男の、人生2度目となる日本最高峰への挑戦が間もなく始まる。

文・柏原敏

徳島県出身、徳島ヴォルティスを取材中。誕生日は『ヴォルタくん』と同じ9月10日。映画とお笑いを愛し、サッカーでも物語とオチのある原稿を書けるようになりたいです。