誰もが期待をしていた。本人も望んでいた。
そして、それをこの男は現実にしてみせた。FW中野誠也が大宮アルディージャ加入後初ゴールを古巣・ジュビロ磐田を相手に決めた。
「自分にとって特別な試合」として臨んだヤマハスタジアムでの一戦。慣れ親しんだピッチで大宮の背番号27が雄叫びをあげた。
この試合のファーストチャンス。FW矢島輝一のクロスを頭で合わせると、1度はGKに防がれたが、目の前にこぼれてきたボールを左足で蹴り込んだ。ネットが揺れた瞬間、昨季まで共に戦っていたサックスブルーのサポーターが頭を抱えていたのとは対照的に全身を大きく使ってのガッツポーズ。
「本当は喜んではいけないと思うけど、移籍後初ゴールと、自分にもいろいろな思いがあったのでそこは許していただきたい」と笑い、「いろいろなプレッシャーがあったので肩の荷が少し下りた」とわずかながら本音を漏らした。
この日まで、中野はもがき、葛藤していた。そしていまもなお、今季からオレンジのユニフォームに袖を通したストライカーは新たな自分と向き合っている最中である。
「これまでのサッカー人生でいろいろなことに挑戦してきた中で、1度は『点を取ることがすべて』という考えになった。それはそれで素晴らしい生き方の1つだと思ってやってきたけど、他にできることを増やして成長していくことも大事。今年で26歳。いまが成長する最後のチャンスだと思っているので、作りの部分や守備に貢献した上で点を取れる選手になれるようにというのは、自分の中でやることが整理できている」
ここまでゴールがないことに特別な焦りはなかった。しかし、結果が何よりも大事なFWとしては、期待と覚悟を背負って臨んだシーズンでノーゴールの現実には冷静でいられるはずもない。磐田戦を前に「結果は結果。悔しい気持ちが強い。移籍してこの状況なのでいろいろと思うことはある」とも口にしていた。
そこで中野を支えたのが北嶋秀朗コーチだ。長らく第一線で活躍してきたFWの先輩の言葉が励みとなった。現役時代に同じ境遇を味わったことのある元ストライカーは、悩める後輩にかけた言葉を明かしてくれた。
「スタッフたちはチームのために走ったり守備をしたりする姿勢は評価しているけど、それをFWとして得点を取れないことの言い訳にしてはいけない。逃げたらダメ。苦しくてもやり続けるしかゴールを奪うための方法はないから」
その言葉を信じて走り続け、開幕から約2か月、ついにその姿勢が結果に表れた。
大宮のエースに生まれた待望の一発。「1点目が入れば流れが大きく変わると自分の中では信じているので、自分を信じてやっていきたい」。苦しむチームを救うヒーローがようやく目を覚ました。
中野誠也(1995年7月23日生まれ)
年度 | チーム | Div | 得点 | 出場 |
---|---|---|---|---|
2021 | 大宮 | J2 | 1 | 9 |
2020 | 磐田 | J2 | 8 | 33 |
2019 | 岡山 | J2 | 5 | 24 |
2019 | 磐田 | J2 | 0 | 1 |
2018 | 磐田 | J2 | 1 | 9 |
文・須賀大輔
1991年生まれ、埼玉県出身。学生時代にサッカー専門新聞『ELGOLAZO』でアルバイトとして経験を積み、2016年からフリーライターとして活動。現在、ELGOLAZOではFC東京と大宮アルディージャの担当記者を務めている。
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