【2021のヒーローになれ】脱・5年周期説。J1定着へのカギを握るブルーノ・メンデス｜ アビスパ福岡

J1定着へ。福岡得点力アップが必要不可欠

2年目の指揮を執る長谷部茂利監督は、「リーグ戦で10位以内、そのために必要だと想定する勝点50ポイント以上の獲得と、ルヴァンカップはベスト4以上」を今季の目標に掲げるが、5年ぶりのJ1リーグを戦うアビスパ福岡にとって今季最大の目標は残留することだろう。

昨季は、２位でJ2リーグを終えて『J2からJ1への昇格』を5年周期で繰り返す『5年周期説』の4度目の実現に成功。もはや偶然ではすまされない都市伝説にまでなっているが、裏を返せば、『昇格1年でJ2へ降格』という事実でもある。つまり今季は、残留を果たして『5年周期説』に終止符を打ち、長きにわたるJ1定着へのスタートとするべき重要なシーズンなのだ。

今季も、J2リーグ最少失点となった堅守をベースに戦うのが長谷部監督の方針だ。ただ前記の目標達成には、得点力が重要になることをもちろん理解している。「去年と同様に無失点と複数得点を毎試合狙いっていく」ことを頭に置きながら勝点獲得につなげていく。昨季の福岡は、攻守で組織力をベースにしたスタイルだった。攻撃ではすべての選手がハードワークをしてボールホルダーの選択肢を増やしながら、また相手のスキを逃さぬ息の合ったコンビプレーでゴールへの道筋をつくっていった。

ただ得点力アップが不可欠な今季は、「質と強度のアップ」という表現で組織による打開に磨きを掛けていくと言う長谷部監督。それは、J1の舞台では個人の打開力も重要となっていることを十分に承知しているからだ。だからこそ杉本太郎、渡大生、金森健志、来日は未定だがベルギー人のジョルディ・クルークスといったドリブルでの局面の打開が可能な複数のアタッカーを新戦力として加えたのだろう。

確かに彼らの加入によってチャンス数のアップは期待できる。では、そのチャンスをどうものにするのか？

昨季チームトップスコアラー11得点の遠野大弥は、今季、レンタル元の川崎フロンターレに戻った。昨季8ゴールのフアンマ・デルガド、昨季途中にモンテディオ山形から完全移籍で加わり3ゴールを挙げた山岸祐也が今季もネイビーブルーのユニホームを着るが、J1での実績は十分ではない。フアンマは、18年に長崎でプレーしているが6得点にとどまり、山岸は今季が自身初のJ1でのプレーだ。

サポーターを虜にするパーソナリティーを兼ね備えた即戦力

そういう状況を頭に置きながらチームの始動を待つ福岡サポーターを歓喜させたのが、ブルーノ・メンデスの加入発表だった。

昨季セレッソ大阪でプレーしてチーム最多となる9ゴールを挙げて4位という好成績に貢献したストライカーの加入に「来た～！」と叫んだサポーターは多かったはずだ。C大阪で2年間プレーしたことで日本のサッカーにも慣れているだろうし、何より実際にC大阪でのプレーぶりを見ているから、新加入外国籍選手にありがちな「ホントに大丈夫？」という疑念もない。

「自分が新加入選手であるとの自覚があるし、お互いの良さを知るためにコミュニケーションが大事だからキャンプを通じて積極的にチームメイトと接してきたから、連係面も高めることができたと思う。もちろん完ぺきではなくて、シーズンを通してもっと良くなると思うよ」

「残留を果たすためには、1試合ずつしっかり集中して、その試合に向き合うこと。悪い流れの試合でも勝点1の獲得につなげられるようなしぶとさも必要だね。そういうことができるチームだし、チームメイトだと信頼している」

「個人的な目標を数字で挙げることはあまりしないけど、去年リーグ戦で9ゴール、ルヴァンカップで3ゴールの計12ゴールを挙げているから、それを越えたい。ただ僕は数字にこだわるんじゃなくて、ゴールチャンスがくること、それをチームメイトがつくってくれることを信じてゴール前でしっかりと準備をすることに集中したい。チームの一員として与えられた役割を忠実にこなして、自分の特徴を出せるように努力していれば、その結果としてゴールネットを揺らせると思っているよ」

ブルーノ・メンデスが開幕前に口にした言葉を並べて感じるのは、明るいんだけど口にする言葉は軽くない。個人の特徴を発揮することが大事としながらチームメイトを信頼し、チームプレーの重要性も理解している。そして自信はあるが、謙虚でもある。そんなパーソナリティーがうかがえる。

そもそも組織で戦うことを重視する長谷部監督は昨季も、チームプレーの重要性を知り、それを高いレベルで実現するために不可欠な性格や考え方を備えるメンバーを集めているふしがあった。それだけにブルーノ・メンデスに関しても「やはりそうなのか」と納得している。こういうパーソナリティーが、多くのサポーターを虜にするのだと思う。ゴールを重ねればなおさらのことだ。

オールラウンダーのストライカー。ただ指揮官が最も評価しているのは…

走力があり、空中戦にも強く、シュートのうまさもあるブルーノ・メンデス。オールラウンダータイプのストライカーの存在は、福岡にとっても攻撃のバリエーションアップが期待できそうだ。

横並びか、あるいは縦関係か。相手によって変えるだろうが、長谷部監督が強く効果的なプレッシングも求めるため前線は、2トップの配置になると予測できる。その場合にブルーノ・メンデスの相棒が誰になるのか。福岡サポーターにとって楽しみなところだ。フアンマとの外国籍コンビの推進力は半端ないだろうし、器用な山岸とのコンビネーションは唸らせてくれるに違いない。

得点力というところで大きな期待がかかるブルーノ・メンデスだが、守備面での貢献度も高い選手だ。

「ポルトガルでの2年間のプレー（2015-16、16-17シーズンにギマラインス所属）した時に守備を求められてから、その重要性に気付いて、そこでも力を発揮したいと思うようになった」と本人が語る。前線からの守備の重要性を認識して率先して実践できる。その強度と質も高いところを長谷部監督も評価して獲得を決断したと語っているほどだ。

周囲から見て、攻守両面での貢献度が分かりやすいプレーを披露できるのは実はFWの選手だったりする。

もし、ゴールを重ね、前線から効果的なプレスをかけ、チームの勝点獲得に貢献して福岡がしばらく実現できていないJ1残留を果たした時。ブルーノ・メンデスが福岡サポーターにとってのヒーローになる可能性がかなり高いのではないだろうか。

文・島田徹

1965年、広島県生まれ。10年間、サッカー専門誌の編集部に勤務した後、2007年、大学時代を過ごした福岡でフリーランスに。2014年からサッカー新聞エルゴラッソで北九州担当、18年から福岡も担当兼務。