15年前と同じ光景。そして結果
(C)Getty Images
伊藤敦樹は、その光景を見て15年前を思い出すとともに、勝利を確信していた。
「(15年前に)自分が見ていたPK戦の光景と雰囲気を今度はベンチから見ていて、本当にすごいという言葉しか出てきませんでした。あの旗を振っている感じも同じだと思いながら見ていましたし、あの雰囲気なら負ける気がしなかったです」
伊藤が「見ていた光景」とは2007年のAFCチャンピオンズリーグ準決勝・城南一和天馬(現・城南FC)戦のこと。両親の影響で生まれながらにしてレッズのサポーターだった伊藤は、15年前と同じ舞台、同じ場所で繰り広げられた光景を思い出していた。
結果も、クラブとして、そして日本勢として初めてACLを制した15年前と同じだった。
ACL準決勝・全北現代戦。浦和レッズは11分と前半の早い時間帯に松尾佑介のゴールで先制に成功した。ところが、後半に際どい判定によるPK献上で同点に追い付かれると、そのまま突入した延長戦では116分にリードを許した。
しかし、誰も諦めはしなかった。延長後半もアディショナルタイムに入ろうとしていた120分、酒井宏樹が驚異的なスライディングでボール奪い、最後は生粋のストライカー、キャスパー・ユンカーがゴールを決めて同点に追いついた。
土壇場でどうにかするのはレッズの伝統。そう話を向けられた伊藤は、次のように答えた。
「そういう雰囲気をファン・サポーターの方々が作ってくれましたので、最後の最後に追いつくことができました」
事実、2失点目のシーンでは『浦和レッズコール』から一瞬の間こそあったものの、すぐに『PRIDE OF URAWA』が歌われた。CKの守備時の定番の一つの応援から場面が変わって応援歌に変わる、というのはいわば通常の流れでもあり、その『間』に落胆のようなものは感じられなかった。
むしろ、あの『PRIDE OF URAWA』のすさまじい音量は、選手に落胆する隙を与えなかったと言ってもいいのかもしれない。
PK戦では先行の全北の選手がペナルティースポットに向かうと、ゴール裏で大量の旗が揺れ、大音量のブーイングがキッカーに降り注いだ。
全北現代のキム・サンシク監督は奇しくも、15年前、城南一和の選手としてその試合に出場し、さらにPK戦の1本目のキッカーを務めていた。そして選手としての経験も重ねながら、レッズのファン・サポーターについて触れている。
「ここのスタジアムで多くのサポーターがいて、多くの旗が振られ、多くの人が浦和レッズのユニフォームを着ていたことで試合前に少しナーバスになった記憶があります。もしかすると同じような気持ちになった選手がいたかもしれません」
「一緒に闘ってくれていることが伝わってきた」
(C)Getty Images
PKの1本目、2本目をセーブし、勝利の立役者となった西川周作は、やはり15年前のことを例に挙げながら、ファン・サポーターを称えた。
「僕の後ろでは、レッズのファン・サポーターの方々がプレッシャーをかけてくれていたので、一緒に止められたと思います。浦和レッズのファン・サポーターは素晴らしいですし、ああいう経験をしているからこそ、今日も素晴らしい雰囲気をつくってくれていたと思います」
そしてゴール裏に巨大なトロフィーが出現した入場時の3Dビジュアルサポートのことも含めながら、こう続けた。
「僕たちと一緒に闘ってくれていることが伝わってきました」
そう、ファン・サポーターは単にチームを応援するのではなく、チームとともに闘っていた。レッズはファン・サポーターとともに3年ぶりの決勝進出を果たした。
ACL準決勝を終え、3日間のオフを経てチームは3日のJ1第28節・鹿島アントラーズ戦に向けてトレーニングを再開させた。
「気持ちはもう鹿島戦に向かっています。ACLで決勝に進めたことはうれしかったですが、もう終わったことです」
オフ明けの8月29日に明本考浩がそう話したように、ACL決勝進出はもう過去のものとなった。そしてホームゲームはラスト5試合となった今季のJ1リーグ、準決勝に進出しているJリーグYBCルヴァンカップを戦い抜き、来年2月のACL決勝へと向かっていく。ファン・サポーターとともに。
文・菊地正典
福島県出身。大学卒業後、サッカーモバイルサイトの編集・ライターを経てサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の記者として活動し、横浜FC、浦和、千葉、横浜FMの担当記者を歴任。2020年からはフリーランスとして活動している。著書に『浦和レッズ変革の四年 〜サッカー新聞エルゴラッソ浦和番記者が見たミシャレッズの1442日〜』、『トリコロール新時代』(ともにELGOLAZO BOOKS)がある。
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