明治安田生命J3リーグKONAMI 月間ベストゴール。9月度の受賞者は第26節・松本山雅FC戦で上位撃破となる値千金の決勝点を決めたY.S.C.C.横浜のFWロリス・ティネッリ。今夏に日本にやってきたばかりのルクセンブルク国籍のストライカーに、ドリブルでこじ開けた来日初ゴールの裏話や日本の文化などを聞いた。(取材日:10月5日)
「本当に最高のゴールでした」
ーー9月度の明治安田生命J3リーグKONAMI月間ベストゴール受賞、おめでとうございます。
ありがとうございます。とても誇りに思いますし、大変光栄です。3週間前に来日したばかりで、日本での最初のゴールがこういった賞をもらえて大変うれしく思っています。ただ、チームメイトがいなければ私一人では何もできなかったので、彼らに心から感謝しています。
ーー受賞を聞いたとき、どんな感情が湧いてきましたか?
J3でもこのような賞があるとは知らなかったので、正直、驚きました。そして喜びでいっぱいでした。すぐに両親にも伝えたんですが、関係者から『まだ正式発表前だから、あまり外に言いふらしてはダメだよ』と少し注意されてしまいました(笑)。今回、正式に発表されて、ようやくみんなと話せますね。本当にうれしいです。
ーーそれでは、ゴールシーンの解説をお願いします。選出されたのはJ3第26節松本山雅FC戦の44分、左サイドのタッチライン際から巧みに中央へドリブルで持ち込んで決めた得点でした。最初のポイントはどこでしょうか?
まず、自分が左サイドでボールを受けたときに相手のウイングバックが自分に対応しようとしてきたタイミングですね。そこで彼の後方にあるスペースを確認できました。それから相手2人をドリブルで抜いて、さらにDFがもう1人がいたので距離を作るためにジグザグの動きを入れました。ペナルティーエリア内に入ってからは少し距離がありましたが、「積極的に打っていけ」と言われていたので、ゴールにならなくてもCKを取れたり、相手に当たったこぼれ球がチャンスになったりすることもあると思ってシュートを打ちました。
ーーニアのコースを打ち抜いた見事なゴールでした。
あの瞬間にどうしてニアサイドに打ったのかを説明するのはちょっと難しいですけど、ベルギーやルクセンブルクでプレーしていた時代から、今回のゴールシーンのような状況になったら「ニアサイドを狙え」と教えられてきました。この場面では、GKの反応がワンテンポ遅れたのもありますが、うまくゴールに入ってくれて良かったです。
ーー今回のシーンを振り返ると、左サイドからドリブルしてシュートを打つまで右足しか使っていません。何か意図があったんでしょうか?
利き足が右足ということもありますし、その瞬間はベストな選択だと思っていました。あとは、最後に本当によいギフトをもらえたと思っています。正直、打った瞬間はちゃんとボールが見えていなかったんですが、ゴールを見たときには入っていました。その後は、そのままコーナーフラッグのほうに走ってセレブレーションをしました。
ーー来日初ゴールということでいつも以上のうれしさがあったのではないですか?
日本での初めてのゴールなので本当にうれしかったです。大きなスタジアムに多くのサポーターがいて、ピッチ状態も天候も良くて、本当に最高のゴールでした。しかも、自分のゴールで勝点3を取れたことが本当にうれしかったです。
ーー日本のサポーターにも素晴らしいあいさつになったと思います。
自分のことを知ってもらうためには非常に良かったと思っています。さらに月間ベストゴールという賞までいただけたのは本当に素晴らしいです。今後もっと自分のことを知ってもらうためには、自分自身がしっかりとその期待に応えていかなければならないと思っています。
ーーゴール後、チームメイトもたくさん駆け付けてくれましたね。
それもすごくうれしかったですね。自分のためではなくチームのためにプレーしているので、チームにもやっと受け入れてもらえたと感じられました。YS横浜は本当にいいチームだと思っています。毎日の練習も楽しく過ごせていますし、時には勝ちたい気持ちが強いあまりぶつかることもありますけど、5秒後には一つになって次へ向かうことができている。本当に素晴らしいチームだと思います。
ーーもともと、ドリブルが得意だったんですか?
もちろん、ドリブルは好きです。ただ、状況に応じた動きがすごく大切だと思うので、ワンツーが必要であればしますし、ドリブルだけを考えてプレーはしていません。やはりサッカーはチームスポーツですから、臨機応変に対応することが大切だと思っています。
ーー今回はドリブルからのシュートでしたが、得意なゴールパターンはありますか?
特にこれといった形はないですよ。左足でも右足でもヘディングでも、GKのこぼれ球を押し込む形でもゴールはゴールです。得点になればどんな形でも構いません。
ーーゴールを取るために大事にしていることはありますか?
ルクセンブルクにいた時は「良い選手と素晴らしい選手の違いは“数字”だ」と教えられていました。自分はもともと多くのゴールを決めるタイプではなかったですが、その言葉もあって日本に来てからは、数字を意識してプレーしていきたいと考えていました。なので、普段の練習からゴールを意識しています。
「現役最後まで日本で過ごしたい」
(C)Y.S.C.C.
ーー来日して1カ月ほどが経ちました。何か新しい発見はありましたか?
もともと日本が好きで、日本食や文化にも興味がありましたし、漫画も好きでした。日本のクラブが興味を示してくれていると聞いて、その翌日には行こうと決断しました。ですので抱いたイメージと大きな変わりはありません。事前に両親とも日本の文化や精神を勉強していましたし、実際、日本の皆さんが本当に優しく自分を受け入れてくれたので、ピッチ外でもピッチ内でもスムーズに溶け込めていると思います。
ーー今後、訪れてみたい場所や食べてみたいものはありますか?
横浜はいろいろと見ることができたので、次は機会があれば東京に出かけたいと思っています。そこでどんな街だったか、家族や友達に伝えたいですね。食事に関しては、いろいろなモノにチャレンジして、だいたいのモノは食べられました。日本の食事は気に入っていますよ。
ーーどうして日本という国や文化に興味を持ったのでしょうか。
5年ほど前ですかね。漫画に興味を持って、『NARUTO -ナルト-』や『ONE PIECE』、『ドラゴンボール』などを読み始めました。ルクセンブルクではNetflixで観られる漫画が限定されているので、日本に来てからはパラダイスですね(笑)。好きな漫画を聞かれたら両手で数えても足りないくらいです。
ーー『キャプテン翼』を読んだり、観たりしたことはありますか?
もちろんです。ルクセンブルクにいる親友には、「日本に行ったら翼くんの日本代表のユニフォームをお土産に買ってきて」と言われています。その約束を守らないと怒られちゃいますね(笑)。
ーーそれは大変ですね(笑)。
以前、横浜の街でちょっと探してみたんですけど見つからなかったので、インターネットで必ず見つけなければですね(笑)。
ーーまだ日本に来て日は浅いですが、日本でのプレーは楽しいですか?
すぐに日本でプレーすることが大好きになりました。来日前にYouTubeでJリーグがどのようなリーグかをチェックしたんですけど、自然に入れるようにあまり情報を入れすぎないようにしていました。実際に練習をしてみてレベルの高さに驚きましたし、非常に緊張感があって技術レベルの高いトレーニングなので本当に驚いています。自分のプレースタイルにも合っていると思います。
ーー今後、日本でどんなキャリアを築いていきたいですか?
できれば現役最後まで日本で過ごしたいと思っていますし、ルクセンブルクにいる家族にもその気持ちは伝えてあります。実際、J3でも非常にレベルが高いと感じているので、J2、J1とカテゴリーを上げていければ、もっともっと高いレベルでプレーできる。あとは自分の成長次第です。これからも長く日本でプレーできるように頑張っていきたいです。
ーー今回もらえる賞金の使い道はどうしますか?
ピザなどを注文して、練習後にチームメイトと一緒に食べたいと思います。やはり、自分一人では何もできません。ピッチ上の11人とベンチの仲間がいなければ、この賞も取れなかったと思います。その感謝の気持ちを表して、一緒に何かを食べたいと思っています。
ーー今シーズン、目標にしている数字はありますか?
あと7試合ほど残っていますが(取材時点)、そこで2~3点は決めたいですし、アシストも決めてチームに貢献したいと思っています。それが達成できれば、個人的にも非常に誇りに思えるシーズンの終わり方になると思っています。
ーー最後に、ルクセンブルクのよいところを教えてください。
小さな国ですが、多彩なルーツを持った人々が一緒に住んでいて、本当にいろいろなことが学べると思います。語学だけで言っても、フランス語、ドイツ語、英語、そしてルクセンブルク語を学校で学べるので、そういった点は素晴らしいと思っています。
文・インタビュー 須賀大輔
1991年生まれ、埼玉県出身。学生時代にサッカー専門新聞『ELGOLAZO』でアルバイトとして経験を積み、2016年からフリーライターとして活動。ELGOLAZOでは柏レイソルと横浜FCの担当記者を経て、現在はFC東京と大宮アルディージャの担当記者を務めている。
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