誰も予想しなかったFIFAワールドカップ(W杯)カタール2022におけるダークホース、モロッコのベスト4進出。この奇跡を実現した背景には、指揮官ワリド・レグラギが落とし込んだ素晴らしい組織プレーやスタンドの観客による盛大な応援など、さまざまな要素が混在する。
恐るべき攻撃に耐えた鉄壁の守備
モロッコが今大会を通じて記録した失点は、ナイーフ・アゲールによるカナダ戦の不運なオウンゴールの1点のみ。モロッコの鉄壁は、クロアチアやベルギー、スペインやポルトガルを相手にクリーンシートを記録し、世界の恐るべき攻撃に耐えてきた。
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センターバックのロマン・サイスは、W杯の歩みにおいて、ミスを犯すことなく、守備陣を統率して見せた。さらに守護神のヤシン・ブヌも、スペインとのPK戦で際立った活躍を見せ、特筆すべき奇跡的なセービングも披露している。
さらに両サイドを守るアシュラフ・ハキミおよびヌサイル・マズラウィのサポートも不可欠だったと言えるだろう。2人はどちらも攻撃を持ち味とするサイドバックだが、守備面においても、決して手を抜くことはなかった。
カタールで再生したバランサー、アムラバト
中盤においては、ソフィアン・アムラバトが輝きを放つ。26歳MFは、フィオレンティーナで苦しい時期を過ごしていたが、今シーズン序盤戦から明らかにコンディションを上げ始めた。そしてカタールの地でモロッコ代表のユニフォームを身にまとい、ヴェローナ時代を彷彿とさせる“本物のアムラバト”の姿を披露して見せた。
類を見ないほどのボール回収能力を示し、守備陣と攻撃陣の間でバランサーを務めており、アゼディン・ウナイとともに、最終ラインの手前で重要なフィルター役となっている。Getty
完成されたレグラギのモロッコ
規律ある守備をし、全速力でカウンターを仕掛ける。これがモロッコの戦術プランだ。準々決勝ポルトガル戦の前半はフィジカルで相手を上回ってリードを奪うと、後半はスペースを与えないように気を配りながら1点のリードを守り切った。
前線には突破力を持つソフィアン・ブファルや高いクオリティのハキム・シイェシュ、そして優れたゴールへの嗅覚を持つユセフ・エン=ネシリらがおり、このチームは本当に完成されている。準決勝に勝ち進んだのも、もちろん偶然ではないだろう。フランス戦では、いま一度、完璧な試合が求められることになる。Getty Images
スタジアムを埋め尽くすモロッコファン
さらにモロッコは、今大会のすべての試合において、観客席で明らかな数的有利を得ることができたことも躍進の後押しとなった。カタールにおいては、スタジアムの内外で数多くのモロッコ人ファンの熱狂が感じられる。そして運命の準決勝は、植民地時代から歴史的なつながりがあり、現在も移民を通じた文化的な観点で結ばれているフランスとの一戦。特別な意味合いを持つ大一番になるだろう。
文・ジュリオ・マルティーナ