イタリア語で「コンドゥットーレ(導き手)」とは、さまざまな意味を持つ。メディア業界で使用すればテレビやラジオの“司会者”、交通機関関連なら“運転手”の意味になる。一方、電気技師にこの言葉を使えば、電気を通しやすい“導体”を思い浮かべるはずだ。
そう、フェデリコ・キエーザとは、こうしたさまざまな要素を完璧に融合させた天才と言えるだろう。まさにパーソナリティのパレットと呼ぶべきユーヴェFWは、日本時間20日のコッパ・イタリア・ラウンド16、モンツァ戦において2-1の決勝点を挙げ、1年ぶりにスタジアムを色鮮やかに彩った。
Getty
昨年1月のナポリ戦以来1年ぶりのゴール
あれから378日もの時が過ぎた。映画『タイタニック』の冒頭を真似るつもりはないが、これは単純に、キエーザが再びゴールを決めるまでに要した時間なのだ。
左ひざ前十字靭帯損傷の重傷を負ったわずか半年前、EURO2020で決定的な2ゴールを挙げ、イタリア代表をヨーロッパの頂点へと導いた選手にとって、あまりにも長すぎる時間だった。ユヴェントスのファンも待ち焦がれていたキエーザの復活。モンツァ戦61分の彼の登場は、その完璧な物語の序章となった。
1-1でスタジアム内に停滞感が漂う中、一筋の光と衝撃が走った。まさに“導体(コンドゥットーレ)”に電気が走る瞬間のようであり、これこそピッチの脇に立ったキエーザが放った1つ目の特徴だった。
あふれるアドレナリンと勇気
キエーザは文字通り、アリアンツスタジアムを震わせた。試合のラスト30分間、その振動は高まり、観客席にいる誰もがそのエネルギーを感じ取った。
私の席からほど遠くない場所にいたモンツァサポーターの若者2人は、神妙な面持ちで顔を見合わせた。言葉を交わす必要はなかった。そう、ユヴェントス対モンツァはまったく別の試合になっていたのだ。
チームを鼓舞するための方法はいくらでもある。だがエンジンをふかし、相手全員をドリブル突破するのが最も効果的な方法かもしれない。アドレナリンと勇気が周囲へと波及していくからだ。
それをキエーザは、ごくわずかな選ばれし者にしかできないような自然なタッチでやってのけ、まるで帽子をかぶった“運転手(コンドゥットーレ)”のようにチームをけん引して見せた。これが彼の2つ目のパーソナリティだ。
(C)Getty Images
アリアンツスタジアムを1つにした聖なるチャント
「キエーザ(教会の意味)、キエーザ!」と荘厳にリズムよくこだまするチャントは、まるでグレゴリオ聖歌のようであり、スタジアムはたちまち、聖なる場所へと生まれ変わった。
78分、左サイドでボールを受け取ったキエーザは、ヴァレンティン・アントフに勝負を仕掛ける。その時点で道は2つしかなかった。ゴールへ突進するか、すでに警告を受けている26番が退場してモンツァが10人になるか…。
キエーザはファウルを受けながらも、アントフをかわし、美しい2-1のゴールを描いて見せた。もしこれが得点を決めた後にフリースローも与えられるバスケットボールであったならば、2つの選択肢が両方とも現実となったはずだ。
だがカルチョにおいて、ゴールが決まればSPA(大きなチャンスとなる攻撃の阻止)のファウルは取られない。したがってアントフに2枚目のイエローが提示されることはなかった。それでもキエーザの見事な右足シュートは、見る者すべてを釘付けにするものだったと言える。
1年半前、EURO2020準決勝のスペイン戦で決勝進出を手繰り寄せた彼の右足は、まるでマイクを持ったテレビ“司会者(コンドゥットーレ)”のように、ユーヴェのイタリア杯ベスト8進出を宣言した。
キエーザのどの特徴が最も際立っているのかはみなさんの判断にお任せするが、彼は間違いなく、支払ったチケット代に値するショーを保証してくれるはずだ。フェデリコ・キエーザ、おかえり!
文・フェデリコ・サーラ/ダゾーン・イタリア記者
関連記事
● ルカク&ポグバの “温め直したスープ”の味はいかに?古巣復帰で過去の栄光を汚すリスクも目と鼻の先
DAZNについて
DAZNなら好きなスポーツをいつでも、どこでもライブ中継&見逃し配信!今すぐ下の記事をチェックしよう。