6シーズンで3度目となるアル・ヒラルとのACL決勝
(C)Getty Images
4月23日に行われた明治安田生命J1リーグ第9節の川崎フロンターレ戦を闘い終え、浦和レッズの選手やスタッフを乗せた2台のバスが『等々力陸上競技場』を出る。行き先は浦和ではない。29日に行われるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝のファーストレグに臨むため、その足で空港へ向かった。
しばらく前から充満していた熱気は、バスが動き出した瞬間、爆発した。周辺やスタジアムの通路から発せられる大音量のチャントやたなびく無数のフラッグがバスを包み込んだ。
試合後に大型映像装置で「掴み取れACL! 頑張れ浦和レッズ」とメッセージを送ったことに加え、ファン・サポーターの見送りに配慮した川崎フロンターレのホスピタリティが多大に影響したことも間違いない。そして、ファン・サポーターの圧倒的な雰囲気が浦和レッズであり、またクラブに関わる人たちのACLへの想いを象徴的に示していた。
アジアナンバーワンを決める大会がACLに名前を変えて以降、浦和レッズは日本のクラブで初めて同大会を制し、日本で唯一、また他5クラブと並んでアジアで最も多く大会を制しているクラブだ。
そして、日本勢で唯一、決勝で負ける悔しさを知っているクラブでもある。
2017年は敵地でのファーストレグを1-1で終えると、ホームでのセカンドレグを1-0で制し、2戦合計スコア2-1で2度目のアジア王者に輝いた。しかし、2019年は敵地での第1戦を0-1で終え、ホームでの逆転を狙ったものの、0-2で敗れている。
対戦相手はいずれもサウジアラビアのアル・ヒラルだった。そして、今回の決勝は2022シーズン扱いのため、6シーズンで3度目となる同じ相手との決勝だ。
2017年と2019年を知るGK西川周作やFW興梠慎三、2017年はシーズン途中で浦和レッズを離れ、2019年はシーズン途中で復帰して決勝に出場したMF関根貴大は「決勝に来てほしいと思っていたし、来るとも思っていた」と異口同音に話す。
彼らはアル・ヒラルの強さを知っている。敗れた2019年にそれを感じたことはもちろん、2017年もなりふり構わずに闘い、耐え、何とか手にしたアジア王者の座だった。
「何としてもリベンジを」
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アル・ヒラルは今回も強い。FIFAワールドカップ(W杯)カタール2022で優勝したアルゼンチン代表に唯一、土をつけたサウジアラビア代表の選手を多数擁し、FWオディオン・イガロ(元ナイジェリア代表)、FWムサ・マレガ(マリ代表)といった強力な外国籍選手も揃える。アル・ドゥハイルに7-0で勝利した準決勝で見せた強さは衝撃的ですらあった。外国籍枠の関係で準決勝は出場していなかったが、2019年の決勝で個の力を見せつけたMFアンドレ・カリージョ(ペルー代表)も健在だ。
一つの考え方として、優勝したいのであれば少しでも楽な相手と対戦したいということもある。その点でアル・ヒラルは歓迎できない。だが、2019年の決勝を経験した浦和レッズの選手たちに、そんな気持ちは毛頭ない。
「何としてもリベンジしたい」
そう、皆が口を揃える。アジア最強と言われる(あるいは彼らがそう思っている)チームに勝ってこそアジア王者として胸を張れる。何よりアル・ヒラルに勝ちたい。
関根はあらゆる場所で何度も口にしていることを自覚しながら、それでもなお繰り返す。
「ACLの悔しさはACLでしか晴らせない」
クラブとして重要なタイトルだと選手たちも理解するACL。今季就任したマチェイ・スコルジャ監督も「浦和レッズでの初日から、ACL決勝のことは意識していた」と明言する。選手の力を見極めるのは沖縄で行ったトレーニングキャンプや開幕数試合にとどめ、シーズン前半に行われる大一番に向けて熟成を図ってきた。
これまでJ1リーグ9試合でスタメン出場した選手は2種登録ですでにトップチームデビューしているMF早川隼平を含めた31人中14人。開幕戦の先発メンバーに興梠と関根、DF荻原拓也の3人を加えただけだ。DF酒井宏樹が負傷しなければ、スタメン出場した選手は13人だったかもしれない。
その一方で、3月31日のJ1リーグ第6節・柏レイソル戦で、指揮官は「今日の試合はサブのメンバーが大事だ」と控えメンバーを先に発表し、1ゴール1アシストのFWアレックス・シャルクをはじめ途中出場の選手の活躍をうながした。そして試合の数日後にも「サブの選手が大きな力になると思っていたが、そのとおりだった。私が『ワンチーム』と言うのはそういう時だ」と、改めて途中出場の選手たちを称えた。アジア制覇に向け、こうして一丸となって闘うチームを作ってきた。
バスが『等々力陸上競技場』を出発する数時間前。1-1のまま試合終了のホイッスルが鳴るとすぐ、ゴール裏から浦和レッズの選手たちにチャント『赤き血のイレブン』が送られた。
圧倒的な声量で「世界に見せつけろ、俺たちの誇り」と歌われたメッセージを聞き、初めてACL決勝に臨むMF小泉佳穂は「現地に来てくれる方もいるでしょうけど、来られない方もいると思うので、そういう方たちからも力を受け取った」と話した。2019年は在籍しながらもACL決勝のメンバーには入れず、ピッチ上の選手とはまた違った悔しさを味わった荻原も「グッとくるものがあった。一人ひとりの期待を背負って闘うつもり」と力を込めた。
まずは敵地でのファーストレグ。難しい試合になることは選手、スタッフ、クラブとして理解している。圧倒的なサポートを受けて闘えるホームでのセカンドレグにつなげるため、そしてクラブとして3シーズンぶりに頂点へと立ち、単独でのACL最多優勝クラブとなるため、全力で闘う。
文・菊地正典
福島県出身。大学卒業後、サッカーモバイルサイトの編集・ライターを経てサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の記者として活動し、横浜FC、浦和、千葉、横浜FMの担当記者を歴任。2020年からはフリーランスとして活動している。著書に『浦和レッズ変革の四年 〜サッカー新聞エルゴラッソ浦和番記者が見たミシャレッズの1442日〜』、『トリコロール新時代』(ともにELGOLAZO BOOKS)がある。
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