かつてインテルで活躍したデヤン・スタンコヴィッチを父に持つフィリップ・スタンコヴィッチ。下部組織出身の21歳GKの将来について、クラブは明確なプロジェクトを描いているはずであり、現時点でとやかく言うのは時期尚早かもしれない。
しかし偶然の要素が重なり、フィリップ・スタンコヴィッチは、あらゆる予想に反して日本ツアーでインテルのゴールマウスを託されると、信頼を勝ち取ることに成功したことだけは確かと言えるだろう。
その背景には、移籍市場の動向がある。シモーネ・インザーギは今夏、日本ツアーの開始までにヤン・ゾマーの獲得を求めていたが、バイエルン・ミュンヘンとの交渉は、技術的な理由や金銭的な隔たりにより、短期間での決着は実現しなかった。
こうして、偉大なデヤン・スタンコヴィッチの息子であるフィリップに大きなチャンスが訪れた。
第2GKも不在の中、“第3GK”であるはずのラッファエーレ・ディ・ジェンナーロを差し置き、ツアー2試合で先発し、ポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドや元インテルMFマルセロ・ブロゾヴィッチらを擁するアル・ナスルやパリ・サンジェルマン(PSG)と高いレベルのチームを相手に、その実力を示したのだ。今後、アッピアーノ・ジェンティーレにおけるGKの評価に変化が生まれるかもしれない。
オランダでの武者修行
インテルの正GK候補であるゾマーを巡り、バイエルンの指揮官トーマス・トゥヘルは、「ヤンには(ミラノへ行くという)希望があるが、我々は自分たちの利益を守らなければならない。いまのところは我々の元に残る」と語っていた。つまり要約すれば「代役が見つかれば、インテルへ移籍するのは自由だ」ということだ。
だが、移籍は実現しないままに時間が流れ、シャフタール・ドネツクの22歳GKアナトリー・トルビン獲得への道も進まない。ウクライナのクラブは来年6月末に契約期限を迎えるGKの移籍金として3500万~4000万ユーロ(約55~63億円)を要求する一方、インテルの想定するオファーは1500万ユーロ(約24億円)にとどまった。
こうした状況の中、スタンコヴィッチがトップチームの序列に割って入った。インテルは当初から、レンタル先のフォレンダムから復帰したばかりの21歳GKの成長を促すために、さらなるローン移籍を検討していた。
オランダでの2年間で通算64試合に出場して進化を遂げたセルビア人GKにとって、次の1年間はイタリア国内のクラブで武者修行を積むことが理にかなっているからだ。だがすべては、インテルのGK補強の状況次第と言えるかもしれない。
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決断の時
フィリップは、足元の技術と勇気あるプレーでインテル首脳陣を納得させるパフォーマンスを見せた。まだ21歳ではあるが、パーソナリティやフィジカルについても申し分ない。将来的に正GKの座を託せるポテンシャルを持った選手と言えるだろう。しかし即戦力として期待することは難しいかもしれない。それでもインテルのファンに自身の存在をアピールすることには成功したと言えるだろう。
インテルは今夏、22歳のトルビンの獲得に関して、1シーズンは第2GKとして過ごさせ、次の段階で正GKへとステップアップするというGKアンドレ・オナナを獲得した時と同じプランを検討していた。
だがスタンコヴィッチの日本でのパフォーマンスを見たファンからは、「それならば、なぜスタンコヴィッチに賭けてみようと思わないのか?」という疑問が投げかけられる。そこで、若手選手、特にGKに関して定番となる重要な決断が求められる。ビッグクラブの第2GKを務めるべきか、それともセリエAの下位チームもしくはセリエBの強豪で正GKを務めるべきなのか。
クラブの考えは?
現時点では、インテルにおいて、さらにもう1シーズン、スタンコヴィッチをレンタルに出すという考えに変化がないように見受けられる。ゾマーとの難しい交渉を進めると同時に、第2GKとして、例えばサンプドリアを退団する見込みのエミル・アウデーロなどの獲得を目指す。
だからと言って、スタンコヴィッチに不合格の烙印が押されたわけではない。彼に大きな成長の余地があることを理解したうえでのインテルによる明確な選択と言えるだろう。それにインテル守護神の座は、誰にも約束されていない。時間をかけてポジションを勝ち取る必要もある。まだ21歳のフィリップには、その時間は十分に残されている。
文・フランチェスコ・フォンターナ/『ダゾーン・イタリア』フィールドプロデューサー、イタリア人ジャーナリスト
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