「間違いなくパーフェクトなゲームだった」
そう試合を振り返ったのは、仁川ユナイテッドのFWジェルソ・フェルナンデスだ。19日に行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)2023グループステージの初戦で横浜F・マリノスから4点を奪って勝利し、得られた結果とピッチ上のパフォーマンスの両方にご満悦の様子だった。
「最高の気分だ。難しい試合になることは分かっていたけど、相手の背後にできる大きなスペースをうまく活用し、自分たちの試合にすることができた。この勝点3は僕たちにとって非常に重要で、仁川にとっても歴史的な勝利になったと思う」
ACL初出場の仁川にとって、4-2というスコアで終わった横浜FM戦はクラブ史に残る一戦となった。各組の首位のみが自動的に決勝トーナメント進出の権利をつかめるようになった今大会において、アウェイに赴いた初戦で勝点3を持ち帰れるのは「大きなアドバンテージ」。自らもゴールを決めたジェルソは「僕たちは自分たちのサッカーをしようと全力を尽くし、チャンスを作って、ゴールを奪った。そして、そのゴールが3ポイントに変わった」と歴史的な1勝を誇った。
ホームで相手に「自分たちのサッカー」をさせてしまった横浜FMにとっては、屈辱的な1敗だ。センターバックとして先発出場したDF角田涼太朗は「ホームで不甲斐ない試合をしてしまったことが一番だと思いますし、チームとしても個人としても難しい内容になってしまったのかなという印象です」と、4失点を喫しての敗戦に肩を落とした。
「相手の戦い方、やってくることは試合前から分かっていましたし、そのなかで自分たちが相手を上回れなかった時間帯が多かったのと、堅守速攻のチームにやりたいようにやられた。自分たちセンターバックもそうですし、チームとして良い形を作り出せなかったし、良くないボールロストの仕方をしてしまって、結局相手の狙い通りに失点してしまったというのが今日の試合だったと思います。それは横浜FC戦、柏レイソル戦からずっと課題だったところなので、また改善できずにやってしまったなという感じです」
角田の総括がこの試合の展開を端的に表していると言えよう。5-3-2のブロックを作って自陣で待ち構える仁川に対し、横浜FMは攻めあぐねた。そして、不用意なボールロストからカウンターを食らって4失点。まるでリプレイを見ているような感覚に陥るゴールばかりだった。
逆に相手の狙いは、とにかく自陣で危険なエリアを消して辛抱強く守り、ボールを奪ったら前線の2トップを活用して一気にカウンターに出ることのみ。Kリーグ1でも同様のサッカーでしぶとく勝ち点を積み重ねてきた仁川は、やるべきことを絞ってシンプルなプレーに徹し、大きなパワーを生み出していた。アウェイまで駆けつけた数百人ものファン・サポーターからの声援も大きな後押しになったに違いない。
試合の大枠を見る限り、想定外のことはほとんど起こらなかった。仁川にとって横浜FMに押し込まれるのは「想定内」だっただろうし、横浜FMにとってもボールを握って試合を進められるのは「想定内」だった。カウンターを狙ってくることも警戒していた。
にもかかわらず、結果には大きな差ができた。となると展開こそ「想定内」だったなかで、横浜FMはジェルソをはじめとした仁川攻撃陣の個のクオリティを見誤っていたのかもしれない。とりわけ終盤に2得点を挙げたFWエルナンデス・ロドリゲス、圧倒的な推進力で勝利を引き寄せるきっかけを作ったMFポール=ジョゼ・ムポク、途中出場した2人の外国籍選手に対しては最後まで正しい対応を見出せないままだった。
横浜FMのDFラインは相手FWとの距離感が噛み合わずに苦しんだ。近くで動きを封じたかったが、近すぎるとビルドアップに絡みづらい。逆に遠すぎると味方がボールを失った時にうまく距離を詰めきれず、カウンター攻撃で簡単に前を向かれてしまう。近くと遠くの適切なバランスが見出せないままプレーしてしまい、角田とセンターバックでコンビを組んだDF上島拓巳は「今は自分の中ではどうしたらいいかという答えは見つかっていない」と吐露する。
「相手の戦い方をしっかり頭に入れたうえで自分たちが押し込む流れになることは分かっていましたし、2トップのケアはすごく意識して試合に入った。止めているシーンもありましたけど、個々の力で持っていかれているシーンも何回もあって、それが失点に直結した。自分の力のなさを感じた試合でしたし、俺やツノ(角田)がもっと安定しないと、思い切った攻撃を展開できないのかなと感じました」
上島は悔いばかりが残るACLデビュー戦で意識を改めたようだった。先の言葉に加えて「途中から入ってきた選手のクオリティもすごく高くて、一発で仕留める力というのは世界というか、アジアの舞台で感じるものでした。自分自身、『これくらいで』というのではなく、もっと高い基準でプレーしなければいけないなと感じました」とも述べる。
直近の明治安田生命J1リーグから大幅にメンバーを入れ替えたことや、いつもの4-2-1-3ではなく4-3-3に近いフォーメーションで戦ったことなどの影響も無視はできない。だが、シーズン終盤にかけて「1試合」の価値がどんどん上がり、日程も厳しくなっていくなかで勝ち続けるには「誰が出てもマリノス」と胸を張れるチームにならなければならない。流れが決して良くない現状を打破するには、1人ひとりの意識改革と「アタッキング・フットボール」を実現するために必要な基本的な原理原則を改めて徹底することが重要になる。
まずは次のリーグ戦から、何かを変えられるか。現在J1リーグで2位の横浜FMは24日に3位・鹿島アントラーズと、そして28日に首位・ヴィッセル神戸と対戦する。リーグ連覇を目指すにあたって絶対に負けられない上位との連戦だ。
「この2戦は、本当に決勝戦のような気持ちで戦わなければいけないと思いますし、自分自身もチームの勝利に貢献できていないというすごく悔しい気持ちがあるので、何としてでも勝ちに貢献したいと思っています。自分自身はそれをできると信じている。こういう悪い流れは時としてありますけれども、自分を信じるしかないと思うので、諦めずに、逃げずにやりたいと思います」
上島はそう決意を語った。仁川戦で失ったものは決して小さくない。横浜FMはACLでの「1敗」から得た教訓を、これからの勝利につなげられるだろうか。今こそ真のチーム力が試されている。
文・舩木渉
1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、国内を中心に海外まで幅広くカバーする。
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